『M-1グランプリ2024』では何が起こったか? ~ファーストステージ~【新越谷ノリヲトーク】
22日に行われた『M-1グランプリ2024』(テレビ朝日系)、令和ロマンが前代未聞の連覇を果たした大会について、ライター・新越谷ノリヲと担当編集Sが勝手にしゃべります。お聞き流しのほどを~。
ファーストステージ・令和ロマン
編集S 昨日は敗者復活戦を振り返りましたが、今日は決勝です。いかがでしょう。
新越谷 いかがも何も、引き続き所感を述べるだけですよ。感じたところです。
編集S ではさっそく、トップバッターの令和ロマン。驚きましたね。
新越谷 驚くよねえ。ああ、神様、あなたはいったい……! って思いましたよ。すごいドラマ。あと、くるまの「終わらせよう」は、その場のアドリブだったそうですね。前からやってるノリではあるけど、「降臨するな」がスッと出てくるケムリの対応力の高さよ。
編集S 4本用意してきたという去年とは違って、今年は2本勝負だったそうですね。しかも2本とも10月以降に作り始めたネタだとか。
新越谷 やっぱりもう漫才の能力が図抜けてるとしか言いようがないと思う。
編集S 内容はどうでした? 渡辺。渡邊か。渡邉?
新越谷 正直、大丈夫かな、と思ったんです。ほら、夫婦別姓を認めましょうという話があるわけじゃないですか。そういうご時世で、婿に入れば苗字が~とか、ちょっとナーバスなところな気がして。
編集S 杞憂でしたね。
新越谷 杞憂というか、アンチテーゼととらえている向きもあるようで。配慮って難しいなぁ。
編集S そんな話をしたいわけではないでしょう。
新越谷 したいわけではないです。やっぱり令和ロマンの本懐は圧倒的なパフォーマンス力なんだなと感じるわけです。台本は平易な学校あるあるだし、保健だよりの風船のフォントとか齊藤の「刀Y」に対して髙比良に「銃X」を入れたいとか、夫婦を男女コンビと呼ぶくだりも特段強いわけじゃない。冒頭から「キングの貫禄」という雰囲気を作ったことが勝因だと思うし、そういう雰囲気を作れたのはゼロベースのトップだったからこそという気もします。
編集S 雰囲気で勝った感じですか。
新越谷 いや、全然違う。漫才師としての、台本じゃない部分の具現化力、実行力のエグさでブチ抜いたということです。純粋に演者としてのくるまのアジリティと、受け手のケムリのタフネス。たぶん、今回のくるまは「頭脳で攻略して勝つ」では満足できなかったんじゃないかと思うんですよね。オラのつえぇーのを全部ぶつける、みたいなギャンブルがしたかったんだと思う。
編集S じゃあ、出順が違えばわからなかったと?
新越谷 可能性は低いけど、負けパターンもあったと思う。事実として真空、エバースとは1点差2点差だし、今年の令和ロマンに限っては「トップだから低い」というバイアスも例年ほどはかかってないと思いますし。会場の空気としても、漫才を見たというより「一連の事件を見た」というニュアンスが近いように思います。2020年のマヂラブが土下座でせり上がってきたのと同じような、ネタ以上にコンビそのもののストーリーが作用している。もちろん、その事件そのものを令和ロマン以外が起こすことはできないので、全部ひっくるめて完璧にお見事なんですけど。
ヤーレンズ
編集S 割を食ったのが2番手のヤーレンズですかね。
新越谷 連続して事件が起こったことと、最初の事件より小規模になってしまったことは不幸でしたよね。ここまで点数が出ないネタではなかったと思います。
編集S 差がつきましたよね、令和ロマンと25点差。
新越谷 恥を忍んで言いますけれども。
編集S はい。
新越谷 ヤーレンズの点数ね、差がついても1点だと思ったんです。令和ロマンが95ならヤーレンズが94という。なんかいろいろ言われてたけど、ヤーレンズってこんなもんでしょう。
編集S こんなもんって。
新越谷 いや、最高にいい意味で、こんなもんでしょう。去年より落ちてると思わないし、みんな去年あんなに楽しませていただいたじゃんって思うの。それが、同等のクオリティで持ってきてこんな仕打ちはないよ。
編集S あれ、感情的になってます?
新越谷 なってるよ。
編集S ヤーレンズは同等のクオリティじゃない、去年より落ちてるというのが審査員の評価なわけで。
新越谷 じゃあもう知らない! Sのバカ!
真空ジェシカ
編集S 次、真空ジェシカです。令和ロマンと1点差。
新越谷 ネタの面白さ、というピュアな評価軸でいえば、いちばん面白いんじゃないですかね。ピュアな評価軸でいえば、このネタが今年のナンバーワンでしょう。
編集S なんですか、ピュアな評価軸って。聞いたことないけど。
新越谷 ここまで阿部一二三選手が勝手になんか暴走して天才演出家になってたじゃないですか。その演出の令和ロマン、ヤーレンズ、真空という流れはドラマとして最高だったと思うけど、そのドラマ部分を排除したところで、ピュアな評価軸として真空がトップかなと。
編集S 要するに、超おもろかった、ということでいいですか。
新越谷 いいです。今回、すごく見やすかったなと思うのが、「ツッコミでわからせる」と「ボケでわからせる」をかなり明確に差別化してきたなと思うわけですよ。たとえば、商店街の人が「木野まことです」と名乗って、ガクが「セーラージュピターと同じ名前だ」とツッコむくだり。「木野まこと」の時点で、見てるほうがそれがボケだとすら気づいていないわけです。名前ボケという天文学的なパターンがあるボケの種類の中から、男性名でも違和感がない、かつガクがツッコミを入れた時点で明確にイメージできる人名をチョイスしている。イメージで言うけど、これまでの真空の「ツッコミでわからせるボケ」の中でも、飛距離とツッコんだ後の回答の明確さにおいてトップクラスだったと思うんです。自分たちの「ツッコミでボケをわからせる」というスタイルを究極的にデフォルメした形をいきなり提示してきたと感じたんです。
編集S まあ、いいですよ。聞きましょう。
新越谷 かと思えば、「いやらしい話、本当におっぱいが」というボケらしいボケも入れてるし、薬指のFxxKみたいな邪悪さもあるし、真空ジェシカのセルフパロディみたいなネタでありつつ、精度とセンス感はキープしてる。ずっとファイナルに出てて進化し続けてきたし、まだ先にいける感じもある。もはや、優勝して卒業しちゃうなら、ずっと負けて出続けてほしいと思ってしまうくらいの進化だったと思います。
編集S 点数としては令和ロマンと1点差。
新越谷 もうほとんどゼロドラマで1点差ですから、実質勝ってると思いますよ。真空が先に出てたら、令和ロマンのフレーズの“強くなさ”がもっと際立ってたと思う。
マユリカ
編集S 次にマユリカ。これも損したんですかね。
新越谷 ザ・ドラマティックM-1という視点から見れば、出がらしみたいになっちゃった感じはしますよね。これも笑御籤の妙だけど、令和ロマンという宿敵に対して、強い順に出てきて最後にマユリカという感じになっちゃった。番組として、既存の兵力を出し尽くしたというイメージの象徴みたいになってしまって、不憫ではあったと思います。
編集S ネタとしてはどうでした?
新越谷 そりゃ普通にライブとかで見たら満足感あるネタなんだけど、去年、令和ロマンに完敗してる、かつベースアップしてないという感じがあるので、消化試合みたいな雰囲気になっちゃいましたよね。ここから新たな刺客が出てくる、その前にマユリカさんだけ処理しといていいすか、みたいな敗戦処理感が出てしまった。
編集S 敗者復活がほかのコンビだったら、というのはあります?
新越谷 それを言うのはフェアじゃないけど、ダンビラだったらとは思いましたよね。スタジオは三角広場より圧倒的に狭いし、「蛾の顔」という前代未聞のお笑いが大ハネした可能性はあると思う。マユリカで不服、というわけではないということは念を押して言っておきたいけれども。
ダイタク
編集S ここから、ニューカマーたちが挑んでいくことになります。先鋒はダイタク。
新越谷 だから言ったでしょう。
編集S なんです?
新越谷 ダイタクがせり上がりから降りてくる姿は絶対にカッコいいと思うって言ったでしょ。
編集S 言ってましたね。
新越谷 見ました? あの足並みを揃えてさ、ヨォ来たぜ? みたいな感じで降りてくる姿。
編集S 確かに、カッコよかったですね。ネタはどうでした?
新越谷 ちょっと走ったんですかね。こんなもんかな。
編集S ネタ尺は4分ちょうどくらい。4分3秒とかですね。
新越谷 拓のほうが緊張してた感じしますね。珍しく何カ所かミスってた。点数に響くほどじゃないと思うけど。
編集S それこそネタ選びについては、本人たちも言ってたけど、いくらでもある中から。
新越谷 このネタだと笑い飯との比較になっちゃうだろうなと思ったんですよね。きれいな笑い飯。「鳥人が来たよぉ」と比べたら飛距離が出ないのはしょうがないし、やることやって卒業式に間に合ったということで、やっぱりおめでとうだと思う。おめでとう、おつかれさま。『THE SECOND』がんばってほしい。
ジョックロック
編集S ラストイヤーの次は、あと13回出られるジョックロック。
新越谷 ここに来て、今大会初のシステムと呼べるような漫才。思い返してみると、ここまでは令和ロマンがしゃべくり、漫才コントが3つ続いて双子しゃべくりの後にジョックロックと、いい流れが来ている感じがする。
編集S 内容はどうです?
新越谷 やっぱ福本のツッコミは強いし楽しいんですが、台本のところで「AEDってそれじゃないだろ」とか「内出血を切除ってなんだ」みたいな、小さな引っかかりがあったのと、ゆうじろーが「スマホ」って言っちゃったところのミスもあって。でも、点数の比較で言うと礼二が令和ロマンと同じ93、哲夫は令和ロマン90に対してジョックロック91入れてるんですよね。ともこ姉さんも真空と同じ95。結果9位だったけど、最終3組に残っても不思議じゃないくらいのインパクトは残したと思う。何しろあと13回出られるわけだし、ゆうじろーには伸びしろしかないと審査員も太鼓判を押してくれたし、上々のデビュー戦だったんじゃないでしょうか。そりゃ一発で仕留めるのが美しいけど。