『M-1グランプリ2024』では何が起こったか? ~最終決戦~【新越谷ノリヲトーク】
22日に行われた『M-1グランプリ2024』(テレビ朝日系)、令和ロマンが前代未聞の連覇を果たした大会について、ライター・新越谷ノリヲと担当編集Sが勝手にしゃべります。お聞き流しのほどを~。
真空ジェシカ
編集S ようやくここまで上がってきましたね、真空ジェシカ。
新越谷 初めての2本目ですし、どんなネタを持ってくるのかと思ったら、まあ。
編集S まあ。
新越谷 大変なネタを持ってきたなと。
編集S 大変でしたね。
新越谷 『M-1』では川北が1ネタの中でいろんな人物をやる設定ばっかりでしたが、1人をずっとやるとこんなに怖いのかと。
編集S 迫力がすごかったですね。
新越谷 しかも、あれがアンジェラ・アキだという。あの人自身は、普通のアンジェラ・アキなんですよね。あくまでこのネタの設定の変なところは「ピアノが大きすぎる」であって、アンジェラ・アキについてはアンジェラ・アキのまま扱ってるはずなんです。
編集S あんなアンジェラ・アキ見たことない。
新越谷 そこがまずすごいんですよね。ピアノが大きいと、アンジェラ・アキってあんな風になっちゃうんだというのを、一発でわからせてる。
編集S ならないですよね。
新越谷 ならないと思うけど、もうデカピアノを弾き始めた瞬間から、あれがアンジェラ・アキであることには疑いがない。たぶん、アンジェラ・アキとピアノって一体化しているイメージなんだと思うんです。私たちの中で。
編集S 私たちの中で?
新越谷 だからピアノがおかしくなれば、本人もおかしくなる。血が通っているというか。例えばYOSHIKIのドラムが大きくなったら、YOSHIKIもおかしくなる感じがするでしょう。
編集S まあ、言われてみれば。
新越谷 原坊も。
編集S 誰です?
新越谷 サザンの原由子。原坊があんな風になったら、それはそれで怖いですよね。なんの話でしたっけ。
編集S 真空です。
新越谷 そうです。あれがアンジェラ・アキであることをわからせたことのすごさと、さりげない伏線回収ですよね。
編集S 長渕。
新越谷 ああいうところが真空のセンスなんだと思う。静かすぎて隣から長渕が聞こえてくるって、まったく予想してない角度から飛び込んできた。
編集S ウケましたよね。
新越谷 やられたーと思いましたもん。アンジェラのコンサートやってる会場の風景まで見えてきちゃった。
編集S 2本目、大きく変えてきましたね。2本目でやりたかったのかな、あのネタ。
新越谷 好きなんでしょうね。マインドとしては去年の見せ算に近いと思う。2本目は好きなやつをやるという。
編集S がぜん楽しみになりましたよね。このあとに令和ロマンと、爆発したバッテリィズが控えているわけで。
令和ロマン
編集S 真空の2本目とは対照的に、大人数が出てくるネタでした。
新越谷 よく令和ロマンに「ニンがない」みたいな話がありますけど、このへんだってくるまは言ってましたね。「猫の島」とか「ケムリの実家」とか、とにかくくるまの演技力を最大限に活かしてポップな世界観で大人数を暴れ回らせるという。
編集S 「やらない後悔より、やって大成功」もハマった。
新越谷 まあ憎たらしいというか、うまいのを持ってくる。
編集S 初めて見たネタでしたよね?
新越谷 そうですね。これもケムリが「固い」という設定を、体格というか見た目だけで納得させてる。なんだろう、真空にしろ令和ロマンにしろ、見てる側の信頼感なんでしょうね。なんか変だけど、これを飲み込んだらもっとおもしろくなることは約束されているから、疑うのをやめておこうという。で、実際おもしろいわけですし。
編集S 結局、その強引に飲み込ませた「ケムリが固い」がストーリーの中心になってますもんね。
新越谷 ボケのバリエーションもすごい。ケムリの童歌が存在しているという不条理SFもあれば、ジジイが知ったかしてるというシットコム的なボケもあれば、みんな2.5次元みたいなトレンドもとらえてくる。縦横無尽ですよね。それを正確に全部マイムで表現するくるまの実行力があってこその。
編集S 最後はクマザルが大活躍で。
新越谷 6月の開幕記者会見で、くるまが「今年はケムリの年にしたい」って言ってたんですよね。まさしく2024年の『M-1』令和ロマン劇場、最後はケムリが締めくくったと思いました。
編集S ここで終わったような言い方ですけど。
新越谷 正直、終わったと思いました。ここまでやられたらしょうがない。おめでとう令和ロマンって気分だった。逆に、バッテリィズがこれをひっくり返したらとんでもないぞと。
バッテリィズ
編集S おもしろかったですよね。
新越谷 おもしろかったです。いっぱい笑った。
編集S どうだったんでしょう。
新越谷 それこそ、ファーストステージで石田が言ってた「ボケの角度とタイミングがわからない。不意打ち」がなかった感じがしたんですよね。エースがお行儀よく寺家を待ってた。ボケの質というか、飛距離としては同じくらいでも打ち込むタイミングがズレてないので、普通のネタに見えちゃったような。
編集S このネタではエースから話を振ってるんですよね。「世界遺産ってのがあるらしい」と。
新越谷 そこもバカ加減がブレちゃった感じはありました。いくらエースでも「世界遺産ってなんやねん?」って言わせるのは、さすがにキツいと思ったのかな。ダイアンの「寿司ってなんやねん」「サンタクロースってなんやねん」のところまで行ってたらワンチャンあったかもしれないけど、「知らないわけないだろ」的なリスクもありますもんね。
編集S 1番手で出てれば、みたいな話もありましたけど。
新越谷 確かに、真空と令和ロマンが大きく変えてきた後にバッテリィズが1本目と似たようなネタだったのはパワーダウンに見えた部分はあると思う。あと、10組目のトム・ブラウンがあれだけたくさん死んだ直後に「もう誰も死なんといてー!」が来たら、爆発してたかもしれない。でも、そうなると真空のアンジェラで空気がリセットされて令和ロマンが最後になるので、より令和ロマンにフィナーレ感が出たんじゃないかなぁ。
編集S まあ、選べないですよね、1番手は。
新越谷 選べないと思う。
編集S 最終結果は、バッテリィズ3、令和ロマン5、真空ジェシカ1と。
新越谷 ファーストステージで令和ロマンよりバッテリィズを上に採点したのが哲夫、若林、石田、柴田、礼二の5人。そのうち石田と柴田が「令和ロマンが逆転した」と審査しているということですね。私もファーストはバッテリィズがトップだと思うし、最終で令和ロマンが逆転したと思う。個人的には、納得の結果でした。
そのほかいろいろの話題
編集S オープニングで島田紳助の直筆メッセージが出てきたところも、議論を呼びました。
新越谷 あんまり気持ちのいいものじゃないけど、作る側としたら仕方ないのかなと思いますよね。20回記念大会で歴史を振り返らないわけにはいかないし、歴史を振り返ったら紳助を無視するわけにもいかない。
編集S 審査員の人選はどうです? 9人制になったことも含めて。
新越谷 全然違和感ないと思いますよ。松ちゃんがいない『M-1』も初めてじゃないし、新鮮なのは若ちゃんですけど、なんだか大人な対応で感動しちゃった。バッテリィズがハネたとき、すぐさま寺家を評価するあたりとか、ああ若林だなと思ったし。
編集S ネット上では「海原ともこって誰だよ」という意見もあったようです。
新越谷 シカトでいいでしょ。そりゃテレビだからいろんな人が見てるだろうけど、そんな層の声までいちいち取り上げるまでもない。
編集S それと、結局大卒お笑いが勝つのかよみたいな声も。大卒vsバカの対立軸みたいな。
新越谷 いい大学出てるからお笑いが分析できるわけじゃないですからねえ。そして分析できるから実行できるわけでもない。だいたいピアノがデカいアンジェラ・アキのどこに大卒要素があるというのか。令和ロマンだって1本目は小学校の教室あるあるだし。
編集S エバース町田は中卒ですしね。
新越谷 今それ関係ある?
(文=新越谷ノリヲ)