バッテリィズ・エースの衝撃デビュー 2025年「ネクストブレイク芸人」を考える
先月22日に放送された『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)は、令和ロマンの連覇で幕を閉じた。その中で、令和ロマン以上のインパクトを残して衝撃の全国デビューを果たしたのが、漫才コンビ・バッテリィズだった。特に、ツッコミ(という位置づけらしい)のエースは華やかなピュアキャラと抜群の愛嬌で、早々のブレイクを予感させるに余りある立ち居振る舞いだった。
ファーストステージで2位の令和ロマンに11点差をつける圧倒的な支持を受け、最終決戦でも3票を集めたバッテリィズに年明けからのオファーが殺到していることは想像に難くない。
エースは、ファーストステージのネタ後、審査員が論評する場面で、その漫才について「感想を言っているだけなので難しくない」と語っている。そのスタイルは、そのままトークバラエティに持ち込めるはずだ。ほぼすべての仕事を関西でこなしてきたバッテリィズだけに、在京MC陣にとっては初対面となるケースも少なくないだろう。まずはバラエティ1週、エースにとっては千本ノックのような日々が続くことになるに違いない。瞬発力と耐久力が試されていく中で、エースがどれだけ正確に打ち返すことができるか、バッテリィズというコンビの命運はそこにかかっているといえそうだ。
まずは14日の『踊る!さんま御殿』(日本テレビ系)、お笑い怪獣・明石家さんまとのマッチアップを見守りたい。
もう1組の“タレント性”十九人
その『M-1』の敗者復活戦でトップバッターとして登場し、今や若手芸人の登竜門となった『ぐるぐるナインティナイン』(同)の「おもしろ荘」でも爪あとを残した男女コンビ・十九人もネクストブレイク枠に飛び込んできた。
立命館大学の演劇サークルにルーツを持つ2人は、大学時代に参加したオーディションライブで現在所属しているASH&Dコーポレーションからスカウトを受けている。『THE W』(同)王者の阿佐ヶ谷姉妹や昨年の『キングオブコント』(TBS系)で優勝したラブレターズが所属するASH&Dは少数精鋭で知られる事務所だけに、十九人への期待の高さが感じられる大抜擢だった。
その期待に応え、正式所属からわずか2年で『M-1』準決勝進出。奇声を上げ、長い手足を振り回して暴れまわる女性ボケ・ゆッちゃんwと中国の人形みたいな松永の見た目のコントラストは画面映えもよく、こちらもトークバラエティでのMC陣との化学反応が楽しみなコンビである。
一見、かなり“ヤベーやつ”であるゆッちゃんwだが、テレビで使う側にとっては「演劇サークル出身」という素性が「本当にヤベーわけではなさそう」という安心材料として作用することも好影響を与えそうだ。
ネタ枠は家族チャーハンと豆鉄砲
バラエティでタレント性を発揮しそうなバッテリィズと十九人に対して、ネタ番組に数多く顔を出すことになりそうなのが、ともに『M-1』準決勝に初進出した家族チャーハンと豆鉄砲だ。
家族チャーハンは、結成わずか2年。文学座の養成所で学び、同劇団への正式所属のオファーを蹴ってNSC入りした江頭の確かな演技力と大石の大喜利力を生かした漫才で頭角を現している。ともに30歳を超える遅咲きのコンビだが、年末の『M-1』に向けて腕を磨く1年になりそうだ。
豆鉄砲は、2023年の「ワタナベお笑いNo.1決定戦」でAマッソやファイヤーサンダー、こたけ正義感といったメジャー賞レースのファイナリストを下して優勝を果たしている漫才師。ボケの東健太郎が自らの「論」を披露することでネタを展開していく硬派なスタイルは、同大会で審査員を務めたテレビ朝日の加地倫三プロデューサーや元テレビ東京の佐久間宣行プロデューサーらからも高い評価を得ており、将来を嘱望されるコンビだ。
昨年の『M-1』敗者復活戦ではシシガシラのシンプルすぎる「浜中クイズ」の前に苦杯をなめたが、今年はファイナリストの一角に名を連ねる可能性も決して少なくないだろう。
そして令和ロマンの行く末
そして、「ネクストブレイク芸人」を考えるとき、やはり令和ロマンの名前を避けて通ることはできない。
毎年、ニュースターを輩出し、バラエティにとっての芸人供給システムとして機能してきた『M-1』に異変が起きたのは、23年末のことだった。
初のファイナル進出、トップバッターで優勝まで駆け抜けた令和ロマンには、その時点でブレイクが約束されていた。ネタ番組はもちろん、大御所とのトークバラエティ、ドッキリにかけられることもあるだろう、誰もが翌24年の令和ロマンのテレビ露出を当たり前のように待っていたはずだ。
だが、令和ロマンは「出ない」という選択をし、それを公言した。テレビでのブレイクを能動的に拒否した、初の『M-1』王者となったのである。
「芸人は全員、テレビに出たいわけじゃない」
視聴者は、その新しい価値観を見せつけられることになったのである。
令和ロマンは早々に「『M-1』連覇」を宣言し、年間600以上の舞台に立ったという。積極的なテレビ出演は控えたが、決して売れることを拒否したわけではなかった。その証拠に、髙比良くるま自身はこの1年を「歴代王者の誰よりも吉本興業に貢献した」と自己評価し、「誰よりも収入が高かったはずだ」と言い切った。
時間は限られている。誰でもいいというテレビオファーより、令和ロマンを指名してくるWEB媒体を優先する。
そうして「『M-1』連覇」にたどり着いたくるまは『M-1グランプリ アナザーストーリー』で、「逃げた」と語っていた。すべてをかけて挑んできた『M-1』が終わったとき、自分の生活がどうなるのか、それを考えることから「逃げた」。その逃避先としての「『M-1』連覇」だった。
「いよいよ卒業させられるのか」
2年連続トップバッターからの連覇という形で『M-1』の常識を破壊した令和ロマン、次はどんな常識や既成概念を壊してくれるのだろう。そんな令和ロマンだけの「ネクストブレイク」にも期待したいところだ。
(文=新越谷ノリヲ)