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『おむすび』第66回 そもそも視聴者に「おもしろい」と思わせようとしているのか問題

橋本環奈(写真:サイゾー)
橋本環奈(写真:サイゾー)

 明けましておめでとうございます。今年もやっていきましょう、NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』。朝っぱらからげんなりと心を折られる日常が帰ってきましたね!

 さて、この年末年始は前半のまとめを作るために過去の記事を読み返したりしていたわけですが、記念すべき第1回のレビューにこんなことを書いていたんですね。

 * * *

「ギャルが好きなんですよね。ギャル、いいよね。明るいしポジティブだし、見ているだけで元気がもらえますし、お話したら、さらに元気がもらえますし」

「どんな感じになるのか全然想像がつきませんが、ギャルさながらに全肯定なスタンスで追いかけていけたらいいなと思っています」

 * * *

 なんか『プロフェッショナル 橋本環奈スペシャル』(NHK総合)で、見てませんけど、出演者の方が「いろいろな下げ記事とかも見ましたけど、まあいいかな」とか言ってたようですね。

 当方は「全肯定なスタンス」で記事を書いている者ですので「下げ記事」とは無縁ですけれども、いろいろご苦労がしのばれるところです。

 というわけで新年1発目の第66回、振り返りましょう。今週は「結婚って何なん?」だそうですよ。

そういうとこだぞ

 糸島から神戸の米田家におばあちゃん(宮崎美子)がやってきて、朝食を作っているシーン。結(橋本環奈)も起きてきて、おばあちゃんに「バランス考えてご飯作りようと?」と尋ねます。結は栄養士になったので、昔は気付かなかったおばあちゃんの献立について、いろいろ理解できるようになったようです。

「大豆とひじきの煮物はたんぱく質も鉄分も食物繊維も豊富やし」

 ひじきの鉄分含有量については、使う鍋が鉄製かステンレス製かで大きく変わってくるという話があります。2015年に「日本食品標準成分表」が改訂され、ひじきの鉄分量は100gあたり55mgから9分の1の6.2mgと変更されているんですね。このへんは、劇中当時のセリフとしては、まあ許容範囲ではある。

 でも、こういうのって「栄養士のドラマ」だったら避けたほうがいいと思うんですよね。例えば「野球選手のドラマ」で、その野球部の監督に「ウサギ跳びは足腰の強化に最適だ」とか「練習中は水を飲まないほうが根性が鍛えられる」とか言われると、やっぱり「ん?」となっちゃうわけです。あくまで現代の人に見せるドラマとして作られているわけだし、登場人物がその専門性を披露するシーンでアップデートされていない情報が出てくると、シンプルにドラマそのものの見識を疑ってしまうことになる。

 そういうことを考えていたら、次のセリフに軽く心を折られることになります。

「なめこと豆腐のお味噌汁は、体にすごいいいし」

 なんだよ「すごいいいし」って。その味噌汁の何がどう「体にすごいいい」か、あなたの勉強した栄養士の知識で説明してちょうだいよ。

 ここね、セリフに「結の成長を感じさせよう」という思いが込められていないんです。結が「わかるようになった」と言えば、もう「わかるようになった」んだからいいだろ、という作り手の傲慢な姿勢が垣間見えるわけです。視聴者がどう感じるかが考慮されておらず「それを説明したか、していないか」という脚本上の事実関係さえ押さえてあればオッケーとされている。そういうところなんですよね。そもそも「おもしろい」と思わせようとしてないんだ。

 これこれ。これが『おむすび』でした。そういうドラマを見ていたんだと思い出させるには十分なエピソードでございましたね。

さて本題の「結婚って何なん?」ですが

 糸島で、黒髪化した翔也(佐野勇斗)に涙、涙の逆プロポーズをかました結さん。糸島からジジババ&翔也を連れ立って神戸の自宅に帰ってきました。

 ご機嫌な様子で、家族に対し結婚を宣言。さぁ、コメディの始まりです。結婚に反対するパパ(北村有起哉)と、闇雲に応援するおじいちゃん(松平健)。定番の「娘さんをください」をやろうとする翔也と、困り果てる結さん。海外では事実婚がどうしたこうしたと、薄っぺらい知識を披露してしたり顔のアユ(仲里依紗)。はたから見ていると、出演者全員が損をしているようにしか感じられませんが、現場は楽しいんだろうな。「はい、カットーッ!」「わははは!」「いいですねー! よかったですよー!」そんなおじさんたちの声が聞こえてくるようです。

 結局、将来どころか明日からの仕事をどうするかもろくに考えていなかった結&翔也はパパの説得に屈して一時撤退。翔也は「家族には俺からメールしとく」と結に告げるのでした。

 何も言ってないんですね、翔也氏。糸島で2人で結婚を決めて、ジジババと一緒にご飯食べて話をして応援を取り付けて、神戸の米田家に乗り込んでパパに土下座しようとする一方、自分の家族には何も言っていない。しかも、メールで伝えるという。

 普通に考えて、翔也が糸島から実家に電話をかける展開が自然ですが、それ以前にこの男が自分の彼女のことを母親にどう伝えていて、母親が結をどう認識していたかが、まったく抜け落ちているんです。

 この一連のシークエンス、若い2人が結婚についてまだ真剣に考えていなかったということを表現しているわけですが、作り手と視聴者との間でその前提の情報共有ができていないので「真剣に考えていない」感じが結と翔也の2人からではなく、ドラマ全体から伝わってきてしまっている。「こいつらちゃんと考えてねーな」の「こいつら」が「結と翔也」ではなく「『おむすび』そのもの」に見えてしまっている。

 そういえばこの、震災とか含めていろいろ「ちゃんと考えてねーな」という感触もまた『おむすび』というドラマからしか得られないものでした。

 そうして翔也が母親(酒井若菜)に送ったメールの文面はこうでした。

「俺、米田結さんと結婚する。ムコになる。」

 件名を示す「Sub」の欄は「無題」。結婚について真剣に考えていなかった男が、結パパにたしなめられて真剣に考えようと思い直した結果の文面がこれですよ。家族への決別宣言です。ここまで四ツ木家の相当な家庭内不和、家族の機能不全が描かれてきたのならギリ理解できますが、せいぜい「野球をやめても実家の農園に翔也の働き口がない」くらいの状態でしたよね。ここも「翔也が言葉足らずな男である」という表現なのでしょうが「『おむすび』そのものが言葉足らずなドラマである」と見えてしまっています。

 そしてこのメールを受け取った翔也ママが遠路はるばるヘアサロンヨネダにやってくるわけですが、まず翔也に「どういうことなの」と聞くのが先でしょうし、こんなメール来たらすぐ電話かけて出るまで鳴らし続けるよな、普通。だって、すぐ来ちゃうくらい情熱的な母親なんでしょう。こういう登場人物の感情と行動の矛盾もまた、『おむすび』では見慣れた光景なのでした。

 ババアのボンヤリ説法からこじつけて野菜を輸入から地場に切り替えようという話も、そもそも社食の規模感が不明なのでピンとこないし、相変わらず不必要な橋本環奈のアップショットも多くてうるさいし、『おむすび』も変わんねーな! という新年初回でございました。

 今年もがんばろう!

(文=どらまっ子AKIちゃん)

◎どらまっ子AKIちゃんの『おむすび』全話レビューを無料公開しています
第1話~第56話
https://note.com/dorama_child/m/m4385fc4643b3
第57話~
https://cyzo.jp/tag/omusubi/

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/01/06 14:00