泥臭く這い上がってきた俳優・山本裕典 復活劇を支える人間味
松本人志による性加害の疑い、中丸雄一のアパホテル密会、中居正広の9000万円女性トラブル、吉沢亮の泥酔不法侵入など、不祥事や疑惑などから活動を自粛したり、テレビ、CMから姿を消したりするタレントが目立つ昨今。「華麗なる復活劇」とは言えないが、泥臭く這い上がってきたのが俳優の山本裕典(やまもと・ゆうすけ)だ。
山本裕典といえば、2005年に「第18回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」で準グランプリ&フォトジェニック賞を受賞し、テレビドラマ『花ざかりの君たちへ〜イケメン♂パラダイス〜』(2007年/フジテレビ系)、映画『ROOKIES―卒業―』(2009年)など多数のヒット作に出演。イケメン俳優として人気を集めた。
しかし2017年、当時の所属事務所が「契約内容の違反」を理由に解雇。その背景には、山本の派手な女性遊びがあったとされている。山本自身「僕自身は黒いと思ってなくて。そこには恋愛があったので、決して法に触れるようなことがあったわけではないです」(2019年1月31日生配信『極楽とんぼKAKERU TV』(ABEMA)より)としているが、お笑いコンビ・カラテカの入江慎也は「人目を気にせず堂々と女性をお持ち帰りする」(同番組)とそのチャラさを暴露していた。
いわば芸能界から干された状態だった山本。そんな彼にとって起死回生の大ヒットとなったのが、2023年7月より始まったバラエティ番組『愛のハイエナ』シリーズ(ABEMA)内の企画「山本裕典、ホストになる。」だ。
同企画はそのタイトル通り、山本がホストに挑戦する様子に密着。シーズン1では、東京・歌舞伎町の店舗でホストデビューを果たした山本が、挫折を繰り返しながら「ホストとはどういうものなのか」を経験。シーズン2では、歌舞伎町で学んだホストのイロハを武器に大阪・ミナミのホストクラブで働き始めるが、またもや業界の洗礼を浴びるところを映し出した。
いずれの回も他企画と併せて放送されているが、2023年8月29日放送回は161万回視聴、2024年3月26日放送回は146万視聴を記録(1月9日時点)。大好評を受け、同企画のスピンオフとしてちゃんぴおんずの日本一おもしろい大崎、お見送り芸人しんいち、ひょうろくの3人がホストデビューする企画も、さらば青春の光のYouTubeチャンネル(2024年6月7日配信)で実現した。1月14日からは新作となるシーズン3が開始。1月2日にはこれまでの総集編と新シーズンの予告編をまじえた「山本裕典、ホストへの軌跡 新章開幕 episode.0」が公開されたが、そちらも再生数は約12万回(1月9日時点)に達するなど上々だ。
山本自身も再び脚光を浴びている実感があるようで「僕なんか一回、干された人間だし、終わった人間なんでどうでもいいんですけど、街歩いてても忘れられてた山本裕典が思い出されているんですよ。忘れられてたのに。めっちゃ感謝してて」(2023年11月7日放送)と涙ぐみながら語っていた。
そんな「山本裕典、ホストになる。」のおもしろさの大きな理由は、プライドをへし折られまくったときにあらわれる山本の人間味ではないだろうか。
かつてイケメン俳優として鳴らした山本がホストとしてはまったく通用せず、売上が上がらない出勤日の連続。同僚のホストたちからは「生半可で来てるんだったら、さっさと帰って欲しい」「バトる筋合いもない。だって眼中にないから」と煽られ、客からも「ホストって、売上ない人は人権がない。なんで女の子が1人の人に何百万ってお金を使うのか理解しないと売れない」と厳しい言葉をぶつけられる。
業界内では先輩とはいえ、それでもホストたちはみんな年下。そんな彼らにナメられまくる山本が、喫煙所に駆け込み、いらだちのあまり殺意むき出しの暴言を吐きまくるところは同企画の名場面としておなじみ。シーズン2の「大阪編」では壁に蹴りをいれるなどしていた。喫煙、飲酒、暴言というバイオレンスな組み合わせは、現在の地上波ではなかなかお目にかかれない。ましてや、それをやるのがかつてアイドル的人気を誇ったイケメン俳優である。『イケパラ』時代、こんな山本の姿を誰が想像しただろうか。
客である女性たちのほとんどが、山本にまったくなびかないところも興味深い。なんなら山本はちょっとウザがられている。俳優としてトップ人気を誇っていた頃の山本はきっとそれまで、自分の意のままに女性と関係を持つことができていたはず。しかし、そういった女性経験が一切通用しない。山本はどれだけの失意を覚えたことか。
ただ、山本はカメラの前で自分のみっともなさをさらけだすこと、笑い者にされることをいとわない。それが見ていて清々しく感じる。また、学ぶ姿勢だけは絶対に崩さないところも感心する。「客を褒めなさい」と言われたら愚直なまでにそれを実行し、シャンパンコールをうまくやるために何度もその練習をし、年下のホストのためにひたすらヘルプとして酒を飲む。同企画を見ると、健気な山本をついつい応援したくなってくる。
そういった山本のがんばりがあってか、大手ビジネスホテルチェーン「ホテルリブマックス」は山本をイメージキャラクターに起用。CMにも登場した。そもそも『愛のハイエナ』シリーズのメインMCがさらば青春の光、ニューヨークという売れっ子2組。彼らの後押しで、地上波のバラエティ番組などから声がかかる可能性もかなりあるのではないだろうか。
山本はまさにセカンドチャンスをつかみかけている。と、同時にタレントの不祥事や疑惑が相次ぐ中、泥水をすする気持ちであらためてやっていかないと、芸能人として簡単には再生できないことがこの企画から伝わってくる。
(文=田辺ユウキ)