『はたらく細胞』が大ヒット! 武内英樹監督作品が「原作改変」でも称賛されるワケ
主演の俳優・永野芽郁が赤血球を、同じく俳優・佐藤健が白血球をそれぞれ演じた、実写映画『はたらく細胞』の快進撃が止まらない。
原作は細胞を擬人化した漫画『はたらく細胞』とスピンオフ作品『はたらく細胞BLACK』(共に講談社)で、昨年12月13日の公開以降、4週連続で興行収入ランキング1位をキープ。
5週目は2位となったものの、興行収入は50億円を突破した。
本作の成功の理由として挙げられているのが、体内の細胞たちの活躍に加えて、人間側の視点を描いたオリジナルパートである。
「不摂生な父親(阿部サダヲ)とその娘(芦田愛菜)の物語を通じて、体内の出来事をよりわかりやすく、感動的に伝えることに成功。映画サイトのレビュー欄には『親子のストーリーに泣かされた』や『人間の行動が体内にどう影響するかを実感できた』という声が多く寄せられ、原作のテーマを一層深める形となっています」(映画ライター)
「原作改変」といえば、23年のドラマ『セクシー田中さん』(日本テレビ系)の騒動が記憶に新しいところだ。
キャラクターやストーリーが改変されたことを原作者がSNSで訴えた直後に急死したことで、原作ファンやメディア関係者の間で議論が巻き起こった。
民放テレビ局のプロデューサーはこう明かす。
「過去にも、映画『海猿』は大ヒットしたにもかかわらず、改変によって原作者が絶縁宣言。またドラマ『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)では、原作にはない恋愛要素が追加され、SNSで批判を受ける事態に。最近は『原作に忠実であること=原作リスペクト』という風潮があり、改悪認定されようものならたちまち『黒歴史』や『原作クラッシャー』と揶揄されてしまう。とくに田中さん騒動以降、実写化のオファーに対して作者サイドから『改変』にNOを突きつけられるケースが増え、原作を確保するのに以前の何倍も苦労しています」
他方、近年の映画やテレビドラマには相変わらず人気漫画やアニメ、小説を題材にした実写化作品が多いのも実状だ。
芸能ジャーナリストの竹下光氏は語る。
「映画に関しては製作に関わる資金を集めやすかったり、リスクを分散できるなどのメリットから、スポンサー企業や広告代理店、放送局、出版社などが委員会に参加し、出資と引き換えに作品の収益を共有する、いわゆる“製作委員会方式”を取り入れている作品が多いですからね。そうなると、すでにある程度のファンを抱えており、それなりのヒットが見込める原作ありきの実写作品に手を伸ばしやすい傾向はあります。この点は民放キー局のドラマもしかりです。ただ、ビジネスライクに安易に飛びついた結果、ただ売れっ子俳優というだけで原作のキャラクターイメージとはかけ離れたキャスティングをしたり、作品の世界観や設定、ストーリーを改悪するなど、原作へのリスペクトに欠ける実写化作品もあり、そうしたドラマや映画は“原作レイプ”などと激しい批判にさらされることになります。とくにSNSが普及した昨今は炎上にも繋がっていますよね」
そんな中にあって、『はたらく細胞』の武内英樹監督はこれまでに『テルマエ・ロマエ』シリーズや『翔んで埼玉』シリーズを手掛け、いずれも大幅な原作改変をしつつも、それぞれのシリーズで興行収入100億円超、50億円超を記録している。
「『テルマエ・ロマエ』は古代ローマと現代日本との文化ギャップを、『翔んで埼玉』は地方と都会の対立をユーモアたっぷりに描き出し、原作の改変部分も高く評価されました。武内監督の得意とする“特殊な世界観を舞台に、大勢の登場人物が入り乱れるコメディ”は『はたらく細胞』でも存分に発揮されており、体内と体外の出来事をリンクさせる人間パートの追加は観客に“自分の体内で起きていること”として物語を身近に感じさせる効果を生んでいます。さらに、阿部や芦田の好演により感情移入を誘うリアリティを付加。健康や生活習慣の重要性を観客に訴えかけ、エンターテインメントとしての楽しさと社会的意義を両立させています」(前出の映画ライター)
『はたらく細胞』の大ヒットは、原作改変が必ずしも否定されるべきものではなく、原作への深い理解とリスペクトを伴った適切な改変があれば作品をより豊かにする可能性があることを示したと言える。
今後の実写化における新しい指針となりそうだ。
(取材・文=サイゾーオンライン編集部)