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『おむすび』第79回 いきなりミステリー! 「信頼できない語り手」アユは犯人なのか

橋本環奈(写真:サイゾー)
橋本環奈(写真:サイゾー)

 引っかかるところでもないのに引っかかってくるのがNHK朝の連続テレビ小説『おむすび』クオリティといいますか、今回、まずはアユ(仲里依紗)がデザイナーとデートに行ったという情報が共有されるわけです。ルーリー(みりちゃむ)は米田家に「アユさん今日デートなんですよ」と言い、チャンミカ(松井玲奈)も店に現れたアユに「三田村さんとデートやなかったん?」と尋ねています。

 しかし、実際に画面に現れたアユ本人は、デートを「断った」と言っている。

 普通に考えて、三田村さんがルーリーとチャンミカに「アユとデートする」と伝えることは考えにくいですよね。恐らくは連絡先の交換もしていないはず。ということは、アユが2人に伝えているということになる。

 この「アユが2人に『今日は三田村さんとデートやねん』と伝える場面」が、どれだけ頭をひねっても思い浮かばないのです。そう伝えるということは、アユはいったん三田村からのデートの誘いを受けていることになる。百歩譲って、三田村のウソを見抜いたアユがチャンミカのために奴らの正体を探ろうとデートを受ける可能性はあるかもしれない。だけど、だったら暗い顔で「断った」と言ってる意味がわからない。

 これと同じことが、震災当日のアユにも起こっています。ママ(麻生久美子)が結さん(橋本環奈)に「アユはチャンミカの家に泊まる」と言ったシーンがありました。当然、ママはアユから連絡を受けて「今日はチャンミカの家に泊まるね」と伝えられたと考えられます。

 しかし、深夜に帰宅したアユはチャンミカを「帰した」と言う。

 ここでも、アユとチャンミカのやり取りがまったく想像できないということが起こっています。時系列として、アユとチャンミカの間で「今日は一緒に泊まろう」という合意が形成され、アユが自宅のママに連絡しているはずなんです。アユがひとりで帰宅したということはその合意が覆されているということなんですが、じゃあなんで一旦「一緒に泊まろう」という合意をしたのか。その意味がわからない。

 アユという人は、証言が不規則なんです。こういう人を指して、ミステリーの世界では「信頼できない語り手」と呼びます。

 震災当日の「泊まる/帰した」については単なる脚本ミスとして片付けるとしても(それもひどい話だが)、今回のようにミステリーを扱おうとした場合、こうした信頼のなさ、言動の矛盾は特別な意味を生んでしまうんですよね。作者が意図的にアユという人物の信頼を損なわせようとしている、そこに何か含みを持たせているという解釈になってしまうんです。

 だから、ミステリーを作る場合は、見る側の「信頼」を厳密にコントロールする必要がある。こういう「信頼」についてのケアレスミスが許されないのがミステリーの世界なんです。

 やれんのか、『おむすび』。第79回、振り返りましょう。

その前にカーニバルの件

 ひみこ(池端慎之介)が旅が好きですぐどっか行っちゃう人だって情報もたぶん初出しだと思うんですが、これはもう専門学校時代の「結は野菜に詳しい」宣言でこちらも免疫がついているので、スルーすることにします。

 それにしてもさ、こんなにあからさまな時間つぶしある? やれサンバカーニバルをやりましょう、3000万かかるからできません。なんの意味もないシークエンスです。しかし、なんの意味もないシークエンスにも、しっかりノイズを混ぜるのもまた『おむすび』なのです。

 市役所の人が「商店街を盛り上げたいけど、カーニバルは予算的に無理」と告げる役割で登場していますが、そもそも市とサイキョーさんの間では、このショッピングセンター建設計画は、どういう話になっているのか。1000平米を超える大型店舗を建設する場合、当然、市役所への届け出が必要になるはずです。1000平米って300坪ですからね。そこらへんのスーパーくらいの広さです。サイキョーのショッピングセンターは商店街に脅威を与えるほどの存在ですから、そこらへんのスーパーよりデカいよね。

 つまり、市役所の若林は今回のサイキョーSC建設についての当事者なんです。商店街側が市役所職員の若林を抱き込もうとするのはわかりますが、「若ちゃん、市役所のほうではどうなっとんのや?」と誰も聞かないのは不自然なんです。

 ドラマの作り手としては、この商店街の行く末に興味を持ってほしいんですよね? 興味を持ってほしそうだから興味を持って見ているのに、肝心なことは何も言ってくれない。そういうストレスだけ置いていく。

 あと、昨日も言ったけど商店街が盛り上がれば盛り上がるほどサイキョーにとっては撤退の理由がなくなっていくわけですけど、どうなってんのかな。このへんは規格外野菜の仕入れの段取りをスルーしたときと同じように、ヌルっと誤魔化して終わるのかな。

 まあいいや。じゃ、ミステリーの話に。

セコム、してますか?

 夜が明けたら、店内が荒らされていて100万からのビンテージデニムと現金が根こそぎなくなっている。

 この店は商業ビルのテナントですから、フロアに防犯カメラもセキュリティシステムも入っていないのは不自然です。ミステリーですから、私たちは何者かがセキュリティを切った可能性を疑います。

 しかも、支払いのために普段はないはずの多額の現金を置いていた。ルーリーは「金庫に入れていた」と証言しますが、「金庫が破られた」とは言っていません。つまり、金庫から忽然と金が消えている。

 セキュリティを切ることができて、会社の口座から金を下ろすことができて、金庫を開閉できる人物。

 もうわかりましたね、状況から見て、この犯行はチャンミカによる狂言です。

 さらに、通報したはずの警察が現場検証を行うシーンがないということは、おそらくルーリーの「通報しました、もうすぐ来るって」もウソでしょう。だってミステリーで「犯人は誰だ!?」をやろうとしてるんだから、詳しい現場の状況を見る側に提供しないのは不自然すぎる。

 ミステリーを楽しむとき、私たちは状況が許す限りの情報を要求します。「もう充分に情報が提供された」という状態で自分なりの推理を繰り、それに対する予想もつかない裏切りが発生したとき、私たちはミステリーの作り手に最大限のリスペクトを捧げるのです。

 だから、現場検証や事情聴取について、ミステリーの作り手は情報開示を怠ってはならない。これはミステリーの鉄則です。ここで現場検証の様子を描かないことは、イコール「現場検証はなかった」つまり「ルーリーは通報していない」と解釈するのが、ミステリーにおけるスタンダードなんです。

 ノンジ氏、あんまりミステリー好きじゃないのかなぁ。例えば麻耶雄嵩さんの『貴族探偵』シリーズとか、そういう「ミステリーの定石、技巧、鉄則」に特化しまくった小説ですので、ミステリー作るとき読んでみたらいいと思うよ。あらゆるテンプレートが詰まってる。

 ともあれ、この強盗事件の犯人はチャンミカとルーリーの共犯ということで決着しました。ターくんが裏で糸を引いている可能性も否定できないね。

 ミステリー的には、アユのデート云々の不規則発言は視聴者に対するミスリードだったことになります。一旦、視聴者にアユを疑わせておいて、真犯人をそのアユの近くに置く。これもまた定番の配置です。

 そういえば、アユはアキピーの近況についても、頻繁にやり取りしているにもかかわらず「仮設に住んでいる」くらいしか知らなかった。それも不自然です。

 こうした不自然な状況の積み重ねから真相に迫るのがミステリーの楽しみですからね。もうちょっと推理してみますよ。

ミステリーは楽しいね

 アキピーが、もともと東北のギャルサーに向けてドラッグを流しているプッシャーだったとしましょう。震災の混乱に乗じて、顧客の拡大を図っている。被災地には復興のために大量の新規労働者が入っているはずです。アキピーにとっては、これ以上ないビジネスチャンスだ。

 チャンミカは古着屋を隠れ蓑にドラッグを仕入れ、アユがかき集めてきた支援物資に忍ばせて岩手に送っていた。アユがアキピーの近況をよく知らなかったのも、直接的な連絡をチャンミカが担当していたと考えれば辻褄が合います。

 ルーリーはおそらく、店に隠してあったドラッグを見つけてしまったのでしょう。そして、興味本位で試してしまった。ルーリーがドラッグに走る理由には思い当たるところがあります。

 この人、帰る場所がないんですよね。東京で勤めたアパレルも潰れちゃって大阪に流れ着いたけど、もうお金もないし米田の家に居候するしかない。実家に帰れない事情があるんです。

 親との不仲は糸島時代に描かれていますし、そういうストレスがルーリーの気の迷いを生んでしまったことは想像に難くない。そんなルーリーの出来心はしかし、不運にもチャンミカに目撃されてしまうことになる。たった1回のドラッグの使用現場を押さえられ、脅迫されて言うことを聞くしかなくなってしまった。

 チャンミカとルーリーも薬物常習者だとすれば、あのファッションショーのアッパーぶりも理解できるし、急に変なテロップが乱発されたのも彼女たちの幻覚だったとすれば腑に落ちるところです。様子がおかしくなったナベべはチャンミカと取引があったし、翔也が肩の痛みを忘れて踊り狂っていた現場にも、ほらチャンミカがいたでしょう。そういうことです。

 たぶん、警察にもチャンミカの顧客がいたんでしょうね。近々、ガーリーズにガサが入ることを知ったチャンミカは、強盗を装って店を荒らし、証拠の隠滅を図った。

 つまり、チャンミカの目的は高額なデニムや金ではなく、ドラッグ取引の隠蔽。そして、親友のアキピーに捜査の手が及ばないようにすることだったのです。それこそが「ギャルの絆」だった。アユを突き放したのも、巻き込みたくなかったのかもしれないね。

 手を汚すのは私たち本物のギャルだけでいい。だってアユ、あなたはニセモノだから──。

真相に迫ってきた

 しかし、まだ疑問が残ります。なぜ、このタイミングでガサが入ることになったのか。

 警察としても、できるだけ大量の現物を押さえたかったはずです。せっかくガサ入れしても、店にブツの在庫がなかったら空振りになってしまう。だから、チャンミカが仕入れたばかりのタイミングを狙ったんです。

 仕入れ元ですか? 直前に海外から帰ってきた男がいたでしょう。あいつが運び屋ですよ。はい、チェックメイト。

 長々と、いったい何を読まされているのかわからないでしょう。もう何を書いたらいいかわからないのよ。だいたい強盗ってなんだよ。あれは侵入窃盗であって強盗じゃないだろ。ちゃんとやれ。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

◎どらまっ子AKIちゃんの『おむすび』全話レビューを無料公開しています
第1話~第56話
https://note.com/dorama_child/m/m4385fc4643b3
第57話~
https://cyzo.jp/tag/omusubi/

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/01/23 18:21