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『おむすび』第80回 橋本環奈不在でも描き切れなかった姉・アユの背景、そして現場の闇を垣間見る

橋本環奈(写真:サイゾー)
橋本環奈(写真:サイゾー)

 NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』第16週「笑え、ギャルズ」が終わりました。

 橋本環奈がスケジュール都合で一時的に撮影から離れたことは誰の目にも明らかですが、その間、主人公の結さんは勉強と子育てに明け暮れていたことになっています。

 考えてみると、結さんが何かに集中して努力している姿というのは、ここで初めて登場しているんですよね。

 書道もパラパラも農家の手伝いも、そのときの気分でがんばったり放り投げたりしていたし、神戸に来たばかりのころは「学業(笑)大げさな(笑笑)」だったし、結婚に向けてお金を貯めようと思っても、すぐ「電話するね」「打ち上げしよう」と言い出していたし、画面の中では全然ちゃんとやらないのに、画面から外れたらずっとちゃんとやってることになってる。

 普通、逆じゃね? と思うんだよな。ドラマを作ってたら、主人公が目標に向かって必死にがんばってる姿こそ見せたくなるもんじゃないのかね。すごく、作品の背骨の部分で歪んでいる感じがするね。

 ともあれ、結さんの不在によって特に「物足りなさ」を覚えることはありませんでした。物足りなくあれよ。第80回、振り返りましょう。

すげえなぁ、仲里依紗

 こんなわけのわからないセリフを言いながら、よくもまあ泣けるもんだと感心してしまったんですよね。ひみこ(池端慎之介)に犯人呼ばわりされて、アユ(仲里依紗)が切々とチャンミカ(松井玲奈)への思いを語るシーン。

「チャンミカが事務処理や経理をやっている」と言いながら、泣くんですよ。そりゃやるでしょ、事務処理と経理。そんなことで感極まってしまうということは、アユさんひょっとして確定申告とかやらないタイプなのかしら。この人、フリーランスのバイヤーですよね。この週はハシカンがいないから、脇役たちの背景を丁寧に描くんですよね。

 まあ細かいことはいいとして(細かくないけど)、ある意味で何をやってもいい週だったわけです。で、アユを主役にして、アユの感情の沸点をここに持ってきた。いわば、このシーンがアユという人物を掘り下げた、いちばん奥にあったものであるはずなんですよね。

 震災以降のアユを振り返ります。

 当日、どうしたらいいかわからない妹に「やるのは私だよ」と言いました。

 2週間後、東北に向かうなっちゃんとバッタリ会って、「……とうほく?」と言ってました。

 1か月後、ナベべに「ギャルらしいことをやれ」と言われて岩手のアキピーを思い出しました。それから11か月、アキピーに物資を送り続けました。

 この火曜日、「アキピーは仮設に住んでる」「ギャルだから前を向けとは言えない」とか言って不機嫌になりました。

 もうおかしいじゃんね。「ギャルらしいこと」としてギャル仲間に物資の支援を始めた人が、「ギャルだから前を向けとは言えない」って。しかも、サイズの合わないギャル服ばかり送り付けていたという。言動の不一致も甚だしい。アユ自身がギャルらしくありたいのか、ありたくないのか。アキピーにギャルらしく前を向いてほしいのか、ほしくないのか。

 しかも、この人に糸島時代に「ギャルなんて恥ずかしい」「私はニセモノ」と言わせてしまっていたために、さらに話がややこしくなっている。チャンミカと読モをやっていたことを、丸ごと黒歴史だと思っていた時期もあるわけです。

 そしてその「読モ時代」という設定も、神戸の古着倉庫で中学以来の再会を果たしたはずのアユとチャンミカの歴史を改竄して挿入されたものである。もう脚本が迷走に迷走を重ねて、意味を成してないんです。

 そんな無茶苦茶な経緯でたどり着いた「チャンミカが事務処理と経理をやっている」というセリフを吐きながら、あんなにドバっと涙を流して泣けるんだぜ。すげえよ、仲里依紗。プロ中のプロだよ。

 だいたいね、アユの背景を語りましょう、その人生を深掘りしましょう、今一度、ギャルの話であることを主張しましょうというのなら、絶対に無視しちゃいけない人がいるはずなんですよね。

 マキちゃんですよ。アユのルーツであり、『おむすび』における「ギャル魂」のルーツだ。震災方面からもギャル方面からも、アユを深掘りした先には、どうしたってマキちゃんがいるはずなんだ。

 ここを語れないのが、本当にこのドラマのストーリーテリングの弱さを象徴していると思うんです。代わりにやったのが妙ちくりんな“強盗”事件って。そんで「つらいときは笑おう」なんて初出のメッセージで大団円なんて。岩手の米もらったんだから、せめておむすびにして食えよ。お粗末にもほどがあるよ。

“強盗”問題の深刻さ

 ナレーションも、ひみこも、あの事件を「強盗」と呼び続けました。

 明らかにあの事件は強盗ではなく、侵入窃盗、つまり空き巣です。しかも、犯人は詐欺集団だという。

 強盗と空き巣と詐欺、同じ犯罪でも全然違うよね。テニスと卓球とバドミントンくらい違うよ。

 例えばふとNHKをつけて、画面にフェデラーとナダルが映っていたとしましょう。テニスコートがあって、当然、2人はテニスをしているわけです。

 お、テニスやってるな、と思って見てたら、実況が「さて始まりました世界卓球、今日の決勝戦に勝ち上がってきたのはスイスのロジャー・フェデラーとスペインのラファエル・ナダルです」とか言ってる。解説も「今日はナダルのチキータが冴えていますね」とか言ってる。すごく変だけど、どうにかこうにか我慢して見てたら、試合に勝ったフェデラーがインタビューに答えている。

「僕は幸せさ。神様が僕にバドミントンを与えてくれたんだ」

 そういう放送が平気で行われているわけです。前代未聞じゃない、こんなの?

 心底ヤバいなと思うのは、この「強盗」というストーリー展開に関係のない明らかな誤用が、そのまま使われていることなんです。

 あれだけの大人が関わっていて、おそらくは現場にいる誰もが「これ、強盗じゃないよね」と思っているはずなんだけど、修正されない。どういう力が「強盗」という誤用をそのまま通しているのか。なぜ『おむすび』に限ってNHK局内の校正が機能しないのか。

 腹が立つというより、もう怖くなっちゃうんだよな。『おむすび』というドラマの現場の裏側に、見たことのない種類の闇が広がってる感じ。マジで怖い。不健全すぎる。

佐野勇斗なんて誰も見てないから

 最後にちょろっと結さんと翔也(佐野勇斗)が出てきて、平和に暮らしているわけですが、翔也の衣装が月曜に食卓で花ちゃんにごはん食べさせているシーンと同じでした。

 別に部屋着だから同じ服を着てること自体はリアリティがないわけじゃないんだけど、橋本環奈の衣装は替えてるんですよね。

 月曜のシーンを撮り終わって、じゃあ次は金曜のシーンを撮りましょう。橋本さん、お着替え入ります。あ、翔也はそのままでいいよ。

 第69回でも、神戸から梅田まで走り出した翔也のリュックのフタがパタパタしていたシーンがありました。

 別にいいよ。おまえのことなんて、誰も見てないから。橋本環奈しか見てないから。

 そういう強烈なメッセージを感じたね。佐野くんのことも視聴者のことも、いくらなんでもバカにしすぎだ。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

◎どらまっ子AKIちゃんの『おむすび』全話レビューを無料公開しています
第1話~第56話
https://note.com/dorama_child/m/m4385fc4643b3
第57話~
https://cyzo.jp/tag/omusubi/

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/01/24 14:00