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『おむすび』第85回 主人公不在で消化された2大テーマと「トレンチコートの女」にまつわる不注意の話

橋本環奈(写真:サイゾー)
橋本環奈(写真:サイゾー)

 NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』第17週「Restart」が終わりました。橋本環奈不在の2週間が終わったといったほうが正確でしょう。

 本作における3つのテーマ、つまりは「震災」「ギャル」「栄養士」のうち、震災とギャルの2つにいちおうの決着がつく形になったわけですが、ここまで「仲里依紗最高や! やっぱりハシカンなんて最初からいらんかったんや!」状態になると、ちょっと主演の橋本環奈さんも不憫と言いますか、あの糸島でのドスの効いた絶叫と慟哭はなんだったのかと思ってしまいますね。

 漏れ伝わってきているところによれば、そもそも橋本さんはスケジュールが取れないので今回の出演について断っていたものの、それを了承した上でNHK側が再度オファーをかけたんだそうですね。それにしても、ここまでこれ見よがしにテーマから疎外される主人公というのもあまり例がないのではないでしょうか。

 橋本さんのスケジュールがある時期は、無理やりにでもテーマに食い込ませなければならない。主題が立ち上がる阪神・淡路大震災当時6歳だったために具体的なトラウマもサバイバーズ・ギルドも抱いていなかったのに、ドラマが震災を語り出したら、あっけらかんとしているわけにはいかない。だから泣いたり落ち込んだりするわけですが、何も理由がないからノイズにしかならない。

 スケジュールが取れない時期が来て、初めてドラマが本腰を入れて震災とギャルについて語れるようになった。この間、橋本さんには申し訳程度にタッチしておいて、本当の意味で当事者であるアユ(仲里依紗)とナベさん(緒形直人)の2人に大きな変化、Restartの第一歩が訪れる。結さんのいないところで、「震災」と「ギャル」が手を結んでいる。

 今回のラスト、ハギャレンに囲まれて笑顔を見せる結さんでしたが、リサポンの就職先も知らなかったし、タマッチが結婚していることも知りませんでした。花ちゃんがいないし、誰も花ちゃんの話をしていない。このドラマは主人公の結さんに、何でも話せる友達を作ってやることもできなかったし、母親にしてやることさえ放棄している。

 ここ、なんだかすごく残酷に映ってしまったなぁ。作り手側にそんな意図がないのはわかっているけど、このときの結さんを演じる橋本環奈が「自分が周囲から取り残されているのに気づいていない人」に見えてしまった。

 第85回、振り返りましょう。

これくらいトンチキでいいのよ

 いつになく『おむすび』特有のトンチキが詰まった回でした。

 ガーリーズが発信したSNSによって、商店街に活気が生まれている。急に生えた駅前のマンションから人が湧いて出て、500円のクソ高いメロンパンを買っていく。これくらいの「そんなわけねーだろ」を押し通すのはお手の物ですし、緑子に不必要な悪態をつかせるキャラクター造形のズレっぷりも相変わらずです。

 そういえば、結さんの考えた餃子とメロンパンね、全然売れてなかったからスルーしてたけど、大人気になるならほっとくわけにはいきませんよ。

 まず餃子ね、町中華のオペレーションについてあなた方はどれだけ取材したんだ、と思うわけです。当然、オリジナルを謳うからには皮も餡も手作りでしょう。通常の餃子とは別に5種類の仕込みが必要になる。餃子だけで6倍の時間がかかるということです。もう何年もバイト募集の貼り紙を出している太極軒ですが、どうやら老夫婦2人で営んでいるようなので、それこそ過労で倒れちゃうだろうね。錯乱して「全部消えちゃう」とか言い出すかもしれない。ご近所の方には定期的な見回りを推奨したいところです。

***ここから先は事実誤認がありましたので訂正してお詫びいたします***

 それとメロンパン。中には白あんが入っているそうですが、あんな砂糖イン砂糖オブ砂糖みたいな食い物、健康に悪すぎるだろ。1000kcal超えてるぞ絶対。これ、そこらへんのパン屋が気の迷いで作ったならわかるけど、仮にも栄養士が考案しているわけです。

「栄養バランスのプロが名物メニューを作る」という、主人公の結さんにたったひとつ残されたテーマに寄り添えるシチュエーションで、栄養バランスが取れたパンすら考えさせてもらえない。四ツ木家のイチゴを使おうとか、星河時代に築いた生産者とのネットワークを駆使して規格外野菜を使おうとか、作り手側がちょっとでも「栄養士の結さん」という役柄のキャリアにリスペクトがあれば、こんなジャンキーな提案は出てこないはずなんです。ホントかわいそう。

***ここまで。メロンパンは結さん考案ではなく、パン屋さんご自身のアイディアでした。当方の思い込みにより誤った記述となりましたことを謹んでお詫び申し上げます。***

 もうひとり、かわいそうなのが結さんの道連れで画面から追い出されてしまった翔也氏(佐野勇斗)。プロ野球選手を目指していたとか、総務の仕事で充実感と自信を得ていたとか、そういう過去が全部引きはがされて、糸島での初登場時の「単にイチゴ持ってくる奴」に戻ってしまっている。

 結婚して1年以上たっているはずなのにパパ(北村有起哉)の床屋仕事も初めて見たみたいだし、どうやら床屋を目指すような雰囲気が漂ってましたね。商店街の課題として「集客」と「跡継ぎ」があって、集客のほうはSNSで万事解決、跡継ぎは翔也氏がやってくれて解決ということなんでしょうが、肩に大ケガさせられても医者に行かせてもらえなかったり、ギャルにさせられたり、ガキの手遊びの道具じゃないんだから少しは丁重に扱ってあげなさいよと思うんですよ。物語の都合で振り回していいレベルを超えている。

トレンチコートの女

 ターくんたち3人がトレンチコートの女に自首しろと脅されて出頭していた件、これもトンチキの極みですが、まあいいじゃない、ピーターだし。これくらい明確に開き直って無理を通してくれれば見やすいもんです。

 ただ、ここでも「女って言っちゃうんだ……」というノイズが挟まってくるんですよね。今週、曲がりなりにも多様性について触れて「男でも女でも関係ない」という価値観を提示したのに、ピーターを「女」と呼んでしまう。注意深く「トレンチコートを着た何者かに脅されて」とすることができない。バカな展開を作るのはいい、バカをやるなら真剣にやれって話です。

 去り際の「ほなね」からの抱擁シーンは超よかったけど、その瞬間だけなんだよなぁ。ここでも急にスナックママから旅人にジョブチェンしてるし、「闇カジノ」も唐突だし、アユはまだしもひみこさんが泣いてる意味がわからない。たぶんアユがひみこさんにとって「古い友達」のひとりで、その新たな門出に感極まっているということなんだろうけど、知らんからね、あなたたちの関係性を、こっちは。頼むよ。号泣する準備はできてるんだ。

先に泣くな、アユ

 一昨日も書きましたが、『おむすび』における阪神・淡路大震災をめぐる物語というのは、マキちゃんとナベ、それにアユという三角形なんですよね。いよいよその三角形が揃い踏みすることになった今回のクライマックス、マキちゃんのお墓の前で、アユとナベがRestartへの決意を語ります。

 泣くのが早いんだよな、アユ。昨夜、似たようなことで夜道で泣いたんだから、ここはいったん吹っ切れてないとピーターと抱擁した夜のシーンの意味がないんですよ。震災の件で整理はついてもデコ靴を通じてビジネスパートナーの関係は続くんだろうし、今生の別れを演出する必要はないじゃん。

 明るく2人でがんばっていこうね、からの、でもやっぱりちょっと寂しいね、からのナベべ渾身のヘンテコギャルピース「超アゲ~」でアユちゃんブワっと涙があふれて泣き笑い、でしょうよ、まあ好みの問題ですけど。

 あれ、なんか久しぶりに好みの問題で『おむすび』について考えた気がするな。好み以前の問題が多すぎたんだな。

 来週からは結さん復帰でいきなり管理栄養士になるようです。そんな急に難関であるはずの管理栄養士資格を取っちゃうんだとしたら、それは好みじゃないなぁ。好みじゃないぞ!

(文=どらまっ子AKIちゃん)

◎どらまっ子AKIちゃんの『おむすび』全話レビューを無料公開しています
第1話~第56話
https://note.com/dorama_child/m/m4385fc4643b3
第57話~
https://cyzo.jp/tag/omusubi/

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/01/31 14:51