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『おむすび』第86回 もう「努力の過程を描け!」とも思えないドラマそのものへの不信感

橋本環奈(写真:GettyImagesより)
橋本環奈(写真:GettyImagesより)

「花がお腹の中にいるころ、体調を崩して入院した米田結」というナレーションで始まった今回。経緯としては、「結さん体調不良で食欲がないのに病院に行かない」→「ようやく病院行ったら腎盂腎炎」→「さらに妊娠も発覚」という流れであって、確かに事実関係としては間違っていないけど、微妙にニュアンスを改竄してるよなーという感じで早くも不安を感じるわけですが、とにもかくにもNHK朝の連続テレビ小説『おむすび』は6~7年をすっ飛ばして平成30年にやってきました。

 うーん、なんかもう別に「結さんの努力の過程を描けや!」とも思えなくなってきてるんだよな。

 とにかく『おむすび』というドラマは「普通」が通用しないというか、スケジュールが取れない橋本環奈、「ギャル」「震災」「栄養士」というコンセプトの渋滞、さらに主人公の年齢設定と「震災のトラウマ」のアンマッチに加えて、規格外野菜やジェンダー、育休制度といった社会問題のつまみ食い、福岡県西方沖地震やアユ(仲里依紗)の初めての墓参り、結さん(橋本環奈)の初めての妊娠出産育児といった超特大ライフイベントのオールカットと、「私たちが見たいもの」と「制作陣が見せたいもの」の齟齬が大きすぎて、悪い意味で展開が読めなくなっている。

 たぶん、その努力の過程を描かれたところで、この鑑賞者的な渇望感が満たされることはなかっただろうという、そこにはすでに確信がある。

 結局のところ彼らが作る『おむすび』を見るしかないし、嫌なら見るな、ということにしかならないのよねえ。寂しい話だけど。

 第86回、振り返りましょう。「おむすび、管理栄養士になる」だって。もうなってるやん。知らんけど。

顔面つよつよだな

 逆にここまで大胆にすっ飛ばしてくれると脳内補完が捗るもので、堂々と病院内を闊歩する結さんにはさほど違和感がなかったんです。それどころか、ようやく自分の意志で進路を決めたんだな、という爽快感すらあった。

 思い出してみると結さんという人は、栄養士を目指したのだって彼氏の影響だったし、専門学校に入るとなれば「学業って(笑)大げさな(笑笑)」というお仕着せのギャル思想にかぶれて真剣に取り組もうとしてなかった。

 専門学校時代も「野菜に詳しい! スイスチャード!」とか「野菜の成長速度は違う! 心の復興も同じ!」とか急に付与された能力と精神的裏付けのないロジックで切り抜けてきたし、星河への就職も縁故のゴリ押しで面倒見てもらったし、まるで計画的でない家族計画の失敗(失敗だよな)によって妊娠してしまったせいで東日本大震災に際しても何もできなかった。

 このへん、中途半端に過程を描いてしまったせいで、逆に物語に無理が生じていたんですよね。これも『おむすび』の特徴で、画面から追い出された瞬間に人物にリアリティが生じるということがあるんです。

 翔也(佐野勇斗)がギャル化して「大っ嫌い!」と言って帰った糸島で再会した陽太&恵美ちゃんカップルとか、卒業以来初めて太極軒に集まったJ班とか、確かに彼らに時が流れているという感触があった。そういうことが今回、結さんにも起こっている。

 加えて、やっぱ堂々としてるのが似合うんだよな、橋本環奈という俳優が。

 この人はどう見ても天性の発光体であって、悩んで落ち込んで周囲に面倒を見てもらいながら人生をキャッチアップしていくという役柄がキャラクターに合ってなかったんだと思う。そうやって面倒を見てもらってるのに「私が助けている」と言い張ってきたのも、混乱と不快感を振りまくことにしかならなかった。

 今回、4年目の管理栄養士で、課長(濱田マリ)にも一目置かれているという立場くらいがちょうどいいのでしょう。久しぶりに顔面つよつよな結さんを見た気がしますもん。

 逆に乳幼児の子育てや難関国家試験の合格への道のりを、例のスイスチャード・メソッドによるご都合主義で描かれていたらと思うと、飛ばして正解だった気すらしてきます。それくらい、もうこのドラマを信用できなくなってる。

モノマネは「未熟さ」の描写なのか

 無事、管理栄養士になった結さんは、患者に妙なタメ口をきくなど、その道を目指すきっかけになった藤原紀香のムーブをコピーしながら仕事をしています。

「あの人のような管理栄養士になりたい」と思って、その人のマネをする。これ普通なら(また普通ならって言っちゃうけど)、結さんの未熟さを示す描写なんですよね。たかが4年のキャリアで、あのベテランと同じ振る舞いをしている。患者との軋轢を生んで「やっぱり紀香のモノマネだけじゃダメよね、私なりの管理栄養士を目指さなきゃ」となりそうなもんですが、ここでは「ギャル要素」が話をややこしくしています。

 あの結さんの傍若無人な振る舞いが「紀香的」でありつつ「ギャル的」でもあるので、「結さんが紀香をマネて若気の至りで暴走しています」と言いたいのか「ギャル魂でイキイキ働いています」と言いたいのかがわからなくなっている。

 ここに、糖尿病の教育入院をしている患者なのに、結さんに説明されるまで合併症について何も説明を受けていなかったという不条理、結さんたちを必要以上に敵対視する出入り業者の管理栄養士といった「いつものノイズ」が加算されていくにつれ、先ほどまで感じていた爽快感もグングン急降下、だいたいなんでいつの間にか大阪に本籍地移してんだよ、とか、ようやく赤ちゃん花ちゃんの声が聞こえたかと思ったらダイジェストかよ、といった一旦は流した冒頭シーンへの不満もムクムクと首をもたげてくるのでした。

 やはり一筋縄ではいきませんな。

「食べることが大好き」すら徹底できない

 結さんは「食べることが大好き」なので、患者が大福を食べていることを見抜きました。前にもどっかで「食べることが大好き」とセリフで説明した場面がありましたが、実際に結さんが美味そうに食ってるシーンって病床での冷凍ブドウくらいなんですよね。あれは体調が悪いときにもこれなら食えるという意味のシーンであって、「食べることが大好き」という趣味趣向の話ではない。

 せめてここくらいちゃんとやればいいのに、と思うんです。

 なんですかあの夕食、スパゲティミートソースとサラダと味噌汁。別に人ん家の夕飯に文句言うつもりはないけど、「食べることが大好き」と言った回くらい食事シーンにはこだわればいいのに。普通に(もうごめん)ハンバーグとか生姜焼きなら別にいいと思うし、糸島の干物とかならなお良かったと思うけど、ちょっとヘンテコな夕食を出しておいて、何の説明もない。サラダも取り分けないで食べ始めるし、「栄養のプロ」&「食べるの大好き」という最強コンボを備えた人物の食事シーンとしては、やっぱりお粗末に見えてしまうんです。

 これにより「片栗粉で大福を見分ける」というシーンのリアリティがなくなってしまう。単なる場当たり的なコントでしかなくなる。夫の家事参加、娘のジェンダー、そういう社会への目配せにばかり気を取られて、人物像の掘り下げを怠っている。これも『おむすび』にずっと感じてきた違和感です。

 新章のスタートとして説明に終始した回ではありましたが、これ病院ドラマとしてコロナ禍を扱うつもりなのかな。けっこうヤバいと思うけど、大丈夫かな。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

◎どらまっ子AKIちゃんの『おむすび』全話レビューを無料公開しています
第1話~第56話
https://note.com/dorama_child/m/m4385fc4643b3
第57話~
https://cyzo.jp/tag/omusubi/

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/02/03 14:00