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【寄稿・中川淳一郎】フジの大荒れ記者会見で思い出す、読売新聞の「ヒゲ記者」と“権力の監視とモラルの監視”

【寄稿・中川淳一郎】フジの大荒れ記者会見で思い出す、読売新聞の「ヒゲ記者」と権力の監視とモラルの監視の画像1
フジテレビ会見の様子(写真:サイゾー)

 中居正広氏をめぐるフジテレビの「出直し会見」(1月27日)は10時間半にも及び、「オールナイトフジ」と呼ばれるほどのロングランとなった。

フジテレビ「10時間超会見」でも晴れぬ疑惑

 191媒体・437人が参加したが、この会見は2回目である。1回目は1月17日に実施されたが、参加が許可されたのはテレビ・ラジオ放送記者クラブ員のみで、週刊誌記者やフリーランスは参加不可能だった。しかも動画撮影を禁止するなど、クローズドなものだった。

 当然「情報隠蔽だ」「身内だけで甘っちょろい会見を開いた」「これでお茶を濁せたと思うなよ」といった批判が噴出し、2回目の会見がオープンな形で10日後に開催されたのである。会見ではフジテレビの極悪性が白日の下に晒されるのでは、と当初は思われていたものの、若干様相は異なった。

 なんとフジテレビに対する同情の声がXに多数書き込まれたのだ。10時間半もの長時間にわたって記者の質問に答え続け、腹も減っただろう、トイレにも行きたいだろう、といった慮りをする人が案外多かった。

 この同情論が誕生した最大の理由は、一部の記者がフジテレビの港社長を含めた老齢の幹部を「吊し上げ」「公開処刑」にしていると捉えられたからだ。

 左派系の著名な記者4人が特に名指しされたのだが、とにかく詰問調で糾弾し、持論の演説を長々と行ったりする。同じような質問をする者もいるし、自分の書きたいストーリーに沿った決めつけ前提の誘導尋問的な質問をする者もいた。

 会場では質問への答えに納得しない場合や、自分が当てられない場合に文句を言ったりヤジや怒号を飛ばすといった大荒れの会見になった。この様子からフジテレビが同情されたのである。途中、指名された通販新聞社の記者がマナーの悪い記者に対し、「手を挙げた人が質問するというルールになっているのでそこは守ってください。静かにしてください、マジで」と一喝し、同氏がネットで絶賛された。そしてお定まりの「マスゴミ」「クズ記者」の大合唱である。

 Xには、以下の書き込みがあった。

「フジテレビにしっかりしろとか怒鳴ったクズ記者はどこの記者ですか? 公の場所に出てきてきっちり詫びろや」

「マラソン会見」と詰問調の記者

 今回筆者が思ったのは、会見で同情を集めるには、かつての総会屋的な記者の存在が不可欠である、ということである。メディアに従事する人間はどこか「正義マン」「巨悪を正す」的意識があり、極悪人であるフジの幹部を追及する「絶対的に正しい自身」の姿に酔いしれている面もあった。まぁ、「文春によると~」と独自ネタはなく、週刊文春の記事をベースに質問しているだけの記者もいたが。

 この「マラソン会見」と詰問調の記者、態度の悪い記者のおかげでフジテレビは若干救われた面もある。しかも会見後、文春は記事の内容を変更。フジの敏腕プロデューサーが件の性的問題が発生した会を設定したのではなく、中居氏本人が女性を誘っていた、と記事をシレッと変更していたのである。そうなると、文春への疑念も噴出するし、フジへの同情も高まる結果となる。

 ネット時代に入り、「態度の悪い記者」「不快な記者」が特定されるようになったが、これの元祖が2005年5月の「読売新聞のヒゲ記者」である。死者107人、負傷者562人を出したJR福知山線脱線事故にまつわるJR西日本の記者会見に参加した記者である。

 会見にはJR西日本の幹部が出席し、事故の原因等を説明するほか謝罪をしたが、会見に出席した若い口ヒゲの記者が激高しながら「あんたらもうエエわ、(社長を)呼んで」と発言したのだ。すぐさまネット上ではこの記者の正体暴きが開始する。

 ネット上ではまったく関係のないヒゲの記者がその人物だと特定する向きもあったが、後に週刊新潮が「『記者会見で罵声』を浴びせた『ヒゲの傲慢記者』の社名」の記事を掲載し、読売新聞がこの記者に不穏当・不適切な発言があって記者のモラルを逸脱していたと社会部長名で謝罪。社会部長は「冷静さを欠いたと言わざるを得ません」との談話も寄せた。

 もともとマスコミは「災害時、ヘリコプターを飛ばして救助や救いの声を邪魔する」「どうでもいいことで夜討ち朝駆けをし、人々に迷惑をかける」「普段は弱者を守るふうなポジションでいるのに、平気で集団リンチをする挙げ句、誤報までする」など、ネットで批判される行動例は枚挙にいとまがない。それが「マスゴミ」という言葉の誕生・定着につながったのだ。

 大谷翔平の元通訳、水原一平が賭博に関連し大谷のカネを盗んでいたことが発覚した際は、水原の両親宅を訪れ、大谷が新居を購入したことが明らかになれば、ヘリコプターで撮影して大谷に引っ越しを余儀なくさせるなど、過剰報道が問題視されたことも記憶に新しい。古くは朝日新聞の「サンゴ事件」などの「やらせ」も含めてマスコミに対して厳しい声はあったが、ネット時代になると「○○社の記者」に加え、記者本人が実名を晒されて批判の対象となる。

 今回も複数の記者(フリー含む)が「マスゴミ」扱いされたが――「権力を監視する」ことが役割のマスコミ人もネットにより「モラルを監視される側」にあることは肝に銘じなければなるまい。

(文=中川淳一郎)

元テレビPが指摘するフジ起死回生策

中川淳一郎

1973年立川市出身。1997年博報堂入社、2001年無職になりフリーライターになり、雑誌『テレビブロス』のフリー編集者に同年末になる。2006年からネットニュースの仕事を開始。毎月800本ほどの記事を編集する人生に疲れ、2020年8月31日にセミリタイアし、佐賀県唐津市へ。著書は『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『炎上するバカさせるバカ 負のネット炎上史』(小学館新書)等。

X:@unkotaberuno

中川淳一郎
最終更新:2025/02/03 12:00