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『R-1グランプリ2025』ファイナリスト9名決定 『M-1』戦士、さや香・新山とウエラン・井口の明と暗

ウエストランド・井口浩之
ウエストランド・井口浩之

 2日、『R-1グランプリ』(フジテレビ系)の準決勝が東京・NEW PIER HALLで行われ、34人のピン芸人がその舞台に立った。

 大会史上最多となる5,511人がエントリーした今回の『R-1』は、昨年に引き続き「芸歴制限なし」の大激戦。プロアマ、コンビやトリオを問わずすべての芸人に門戸が開かれた。その中で、ファイナルを勝ち取ったのは以下の9名だ。

ヒロ・オクムラ
チャンス大城
田津原理音
ハギノリザードマン
ルシファー吉岡
吉住
さや香・新山
友田オレ
マツモトクラブ
(決勝ネタ順)

初出場は5名

 今回、初出場を果たすのはヒロ・オクムラ、チャンス大城、ハギノリザードマン、さや香・新山、友田オレの5名。

 ヒロ・オクムラは昨年の『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)で、同じくピン芸人の三福エンターテイメントとユニット「今夜も星が綺麗」で準決勝に進出。敗者復活戦でもヒッチハイクネタで爪あとを残している。相方の三福が「西島秀俊に似ている」ということでバズったこともあり、「僕はピン芸人で史上初の“じゃないほう”と言われてるんです」のパンチラインでこの日の会見を盛り上げた。

 言わずと知れた地下芸人の帝王・チャンス大城は50歳にして初のファイナルへ。すでにバラエティの世界ではブレイク済といえる状態だが、その本懐はやはり漫談である。昨年の街裏ぴんくに続き、くすぶり続けた中年芸人の戴冠となるか。

 奇妙な小道具コントによって一部でカルト的な人気を誇っていたローズヒップファニーファニーを21年に解散し、以降、ピン芸人として活動してきたハギノリザードマンも初のファイナルを射止めた。出身である大阪NSC26期といえば、かまいたちや元和牛の2人、天竺鼠、アインシュタイン・河井ゆずるといった人気者が揃う華の期。遅れてきたルーキーが捲土重来を期す。

『M-1』22年、23年で2年連続ファーストステージトップ通過を果たしながら最終決戦で敗退しているさや香の新山、昨年は『M-1』には出場せず『キングオブコント』(TBS系)に挑んだものの準々決勝で敗退。しかしこの『R-1』ではファイナルにコマを進めてきた。不仲で知られるコンビだが、この日の会見では新山が盛んに相方・石井との仲良しアピールをする異例の展開で会場を盛り上げている。

 ハナコ・岡部大やにゃんこスター・アンゴラ村長、ラパルフェなどを輩出している早稲田大学お笑い工房LUDO出身の友田オレも初のファイナル。23年には現役大学生として『ABCお笑いグランプリ』で決勝進出を果たしているが、早くもメジャータイトルに手が届く位置まで上がってきた。準決勝では音響オペレーターを用意するのを忘れるという致命的なポカを犯したが、吉住の担当オペの手を借りてなんとか勝ち抜いたという。

待ち受ける王者&レジェンド

 23年『R-1』王者の田津原理音が2度目のファイナルへ。前回の優勝は「芸歴10年以内」の制限があったため、今回は改めて最強ピン芸人の座への挑戦となる。会見では「僕がピン芸人になると決意したのは芸歴2年目のときに『R-1』でルシファーさんたちがめちゃめちゃウケているのを見たとき。『この大会で勝ちたい』と思ったんですよ。念願叶ってやっとぶっ潰せます」と怪気炎を上げたが、その舞台裏では大きなプレッシャーに涙していたことを後にさや香・新山がYouTubeで明かしている。

 昨年2位、『R-1』では4回目のファイナルとなるのが吉住。20年に『女芸人No.1決定戦 THE W』(日本テレビ系)で優勝を果たした翌年から、スケジュールの都合で不参加だった23年を除き毎年ファイナルに顔を出す常連だが、いよいよ優勝の気運が高まっている。『THE W』との2冠となれば、ゆりやんレトリィバァに続く偉業。そのゆりやん以来、5年ぶりの女性芸人の戴冠となるか。

 そしてマツモトクラブとルシファー吉岡。ともに『R-1』史上最多となる7度目のファイナル進出となった。東京一人コントの双璧が立ちはだかることになる。

 今年も昨年に続いて敗者復活ステージはなし。この9人で、ファイナルが争われる。

「時間の無駄だった」と井口は吠える

 おそらく、通ったという確信はなくとも、イチウケだったという自信はあったのだろう。準決勝で敗退したウエストランドの井口浩之は当日中に個人YouTubeを更新。「いや、ふざけるなよ本当に」「めちゃくちゃムカついてます」「もうR-1はいいかなという気持ち」「時間のムダ」「だったら3回戦で落としといてよ」とまくしたてた。

 井口の『R-1』に対する愛ゆえの毒舌はいつものことだし、事実ウエストランドを『M-1』優勝に導いたのも「『R-1』には夢がない」というパワーフレーズだったわけだが、この日の井口の毒舌にはどこか芸を超えた寂しさの吐露があったように見えた。

「ピン芸人の人の大会なんでね、もうコンビの片割れは出るのを禁止にするのがいいんじゃないかなって正直思いましたね」

「ここ数年でいうと、コンビの片割れは1組くらいしかうからないというか」

「禁止にするのがいい」という発言の裏には、「禁止にしないから出たくなる」という芸人の性があるはずだ。同じ動画で井口は「こういう気持ちになるのは、賞レースに挑戦しているからということもある」と、その心境を明かしている。

 その「コンビの片割れ」として今回ファイナルに進んだのが、さや香・新山である。新山も翌3日にYouTubeで『R-1』決勝進出報告をアップしている。

 そこで新山が語ったのは、『R-1』に向かう上での恵まれた環境だった。

『R-1』用のネタを叩くために、寄席でもさや香の出番とは別でピンの出番をもらえる。劇場に所属し、多くの東京芸人からアドバイスをもらうことができた。ピン芸人としてライブに呼んでもらえる。そうした環境が、今回のファイナル進出につながった。その感謝を、新山は繰り返していた。

 井口は違うのだ。そもそものライブ出番が少なくなっている上に、義理堅い井口はライブでコンビでの活動を優先してきた。ピンネタを叩く場所などあるわけがなく、常に『R-1』予選のステージが初下ろしという状況だった。『R-1』3回戦は、『M-1』の敗者復活戦で審査員を務めた2日後だった。そういう環境で、井口は自他ともに認める準決勝「イチウケ」をさらったのである。

「面白ければいいっていう面もあると思うし、そこに賭けてほしかった。そこを許す度量である大会であってほしかった」

 井口はそう言った。準決勝敗退者のネタ動画はYouTubeにアップされるという。その動画を見れば、誰もが思うはずだ。

「むちゃくちゃ面白いな、でもこれは通らんな……」と。

(文=新越谷ノリヲ)

新越谷ノリヲ

東武伊勢崎線新越谷駅周辺をこよなく愛する中年ライター。お笑い、ドラマ、ボクシングなど。現在は23区内在住。1977生。

n.shinkoshigaya@gmail.com

新越谷ノリヲ
最終更新:2025/02/05 18:00