『おむすび』第87回 急な「しごでき栄養士」ぶりに、頭の中で「おまえ誰だよ」が鳴り響く
「中野さん、血糖値、安定したやないですか」
中野さんが手にしている検査結果の表は10枠の期日に分かれていて、そのあと後輩くんの「10日間、食事に気を付けて過ごされた結果ですね」というセリフがあることからして、この表はその10日間の推移であると言いたいわけですよね。
10日間で血糖が280から128へ、HbA1cは9.0から8.1へ急降下しています。糖尿病は10日間の節制で数値が改善すると言っている。しかも、シュークリームは許すというユルユルの節制でした。
これやっちゃダメだと思うんだよなぁ。そんなに下がらないよ。
結さん(橋本環奈)の腎盂腎炎と重症妊娠悪阻も1日の絶食で治ったし、翔也(佐野勇斗)なんて糸島時代から食事の増減ですぐ体の切れがよくなったり悪くなったりしたし、社食のなるみ姉さんたちも瞬く間に健康になっていたし、栄養士の仕事の結果を描きたいのはわかるけど、極端にリアリティのない描写はウソとかデマの類に近いと思うんです。曲がりなりにも、今日放送されたのはNHKの医療ドラマですよ。よくないと思う。
あとハイタッチの強要もね、これ男女逆だったらセクハラですよ。ということは、セクハラですよ。美人の女性なら立場を利用して異性に接触を図っていい、なんてことにはならない。それが許されるならジェンダーやルッキズムの問題になる。別に言いたかないけど、そういうめんどいのを折に触れて挟んできたのはそちらさんですからね。
というわけで今日は開始1秒後に文句を言いたくなってしまったNHK朝の連続テレビ小説『おむすび』第87回、振り返りましょう。
おまえ誰だよロックンロール
糸島時代、「ギャルになる!」と宣言した瞬間に2年間のタイムリープが発生し、いつの間にか専門学校に入学したかと思いきや初日から同じ班の子たちにサッチンだのカスミンだのギャルネームを付けだしたときにも「おまえ誰だよ」と思ったものですが、この管理栄養士編の結さんはあのときにも増して「おまえ誰だよ」って感じですな。
栄養士を志してからというもの、結さんは基本的に「できない子」として描かれてきたんですよね。専門学校の授業もちんぷんかんぷんだし、翔也のために作ったメニューも適当だったし、炊き出しのメニューを考えようというときも、緑子とナベの不仲のことに気を取られてボヤーっとしてたし。
それを、周囲に助けてもらいながら、おいしい手柄だけもらっていく。そういうキャラクターとして生きてきたわけです。
星河時代も、翔也にフラれてメソメソしていたところ、コック長・立川(三宅弘城)が気を使って仕事を振ってくれた。その後、いろいろあって立川さんも別れ際に泣くほど仲良くなったみたいですが、その過程は特に描かれていない。結さんの具体的な手柄といえば、出所不明の規格外野菜がメニューに取り入れられたくらい。
それが、今になってみると後輩くんを「石田っち」呼ばわりするような立派な管理栄養士になっている。
「しごでき管理栄養士に成長しました」と言いたいのはいい。その過程を描いたほうがいいんじゃないの? と思うのは、この「おまえ誰だよ」感って、ないほうがいいんじゃないの? そのほうがドラマっておもしろくない? ということなんです。
米田結という人を、私たちは6歳のときから知っているわけです。震災前、セーラームーンが好きだったこと。震災に遭って、あんまり記憶にないけどどうやら「おむすびおばさん」のことは覚えていること。糸島に引っ越して友達ができなかったけど、陽太が仲良くしてくれて支えられたこと。家は姉のアユがギャル化したせいで、あんまり平和ではなかったこと。高校で書道王子に出会って、ほのかな恋をしたこと。ルーリーたちに誘われて、フェスのステージでパラパラを踊って、見たことのない景色を見たこと。そして、恋人ができて栄養士の夢を抱いたこと。
そういう人生が有機的につながっていたなら、どれだけ今の立派な結さんをリスペクトできていただろうかと考えるわけです。まるで家族みたいに愛せていたと思うんです。
実際には、時間が飛ぶたびにリセットされて「おまえ誰だよ」な人が現れる。知らない女の人が後輩を「石田っち」と呼んでいる。この結さんに愛着がないから「こいつ誰だか知らねーけど失礼なやつだな」という印象だけが残る。
あと、この「石田っち」にしても外科医・蒲田(中村アン)の「メシ」にしても、荒いんだよな。はっちゃけてる感じを出したいんだろうけど、単に粗野なの。この荒い感じを「おもしろ」として提示してくるところ、好みじゃないんだよなぁ。専門学校時代の英会話の先生のときに感じた「このセンス、好みじゃない!」という感じがまた出た。
野菜染めの再来か
野菜染めの回、私にとっては目新しくてステキな情報ばかりだったし、好きなんですよ。
今回はその野菜染め回を彷彿させる説明回になりました。これはこれで、野菜染めに比べたら退屈だけど必要だったということでしょう。
この中の、言語聴覚士を「食に関係する仕事」と限定したところは気になっちゃいましたねえ。「文字通り、しゃべったり聴いたりする機能の専門家だけど、食にも重要な関わりがあるのよ」と説明できないもんかな、と思うんです。この言い方だと「玉ねぎは染物に使う植物なのよ」と言ってる感じなんだよな。「おいしく食べられるし、皮は染物に使える」と言ったほうが、玉ねぎそのものを指す表現として適切でしょう。説明をする回の説明をするシーンなんだから、もうちょい丁寧に言葉を選ぼうよと思いました。
あとやっぱり悲劇を利用してくるんだな、というところ。
ネフローゼの子どもと出会って、それをきっかけにNSTに加入するという展開を作りたいのはわかるし、それはいいんです。
まず勝手にこの子のカルテを見ちゃってることにびっくりしちゃうし、ここでこの子の父親を事故で殺してるんですよね。父親が死んで、病気が再発したと言っている。
つまり、結さんにこの子の存在を印象付けたのはネフローゼという症状ではなく、父親の死だったわけです。そのネフローゼの子のことばかり考えてボヤーっとしているところ、マリ科長からNST入りを勧められる。
うんざりするのは、ここでマリさんが石田っちにクイズを出して、そこにクイズ番組風のオモシロサウンドエフェクトをかぶせてきたことです。
あのさ、人が死んでんだぜ。人が死んで、その遺児の病気が再発した。その子の病気に心を痛めて、何かできないかと悩んでいる米田結。そのシーンに、なぜコメディタッチが必要なの? 人の心がないんか、と思うんだよ。本当に浅ましいと思う。見ている人に登場人物に寄り添ってほしいなら、まず作ってる側がその心情に寄り添いなよ。
いくらなんでも翔也、ああ翔也
総務の仕事は10年もやってるから楽勝だそうです翔也くん。今日も今日とて大好きなヘアサロンヨネダに入り浸ってるわけですが、パパ(北村有起哉)とお客さんのささやかな雑談にずいぶんと心温まっていたようですね。
この人、普段どんな人間関係の中で生きてるんだろうと心配になりますよ。10年、総務部でなるみ姉さんたちと一緒にやってきたわけでしょう。総務だったら星河の営業とも接点があるでしょう。あの程度のうっすい雑談に心を動かされて未経験の床屋に転職を決意しちゃう(しちゃうんだろ?)って、よっぽど星河で疎外されているとしか思えないですよ。人の人生の20代の10年だよ、なんだと思ってんのよ。なんの誇りも、実績も、地位も残させてやらなかった。
翔也、あまりにもかわいそうすぎます。たまにはお酒でも飲んで踊って、嫌なこと忘れてUNITEしてね。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
◎どらまっ子AKIちゃんの『おむすび』全話レビューを無料公開しています
第1話~第56話
https://note.com/dorama_child/m/m4385fc4643b3
第57話~
https://cyzo.jp/tag/omusubi/