『おむすび』第88回 器用に「ギャル」を出し入れする米田結、そこに魂はあるのかい?
思えば遠くに来たもので、先週の水曜日は閉店セールなのに客足が途絶えたガーリーズ梅田2号店のために神戸の商店街のみなさんがギャルメイクしてSNSで拡散したりしてたんですよね。
あれほど「みんなギャル」というメッセージが込められたお祭りのシーンで、写真1枚(しかもなぜかグリーンバック)でしか参加できなかった結さん(橋本環奈)に、今さら「ギャルやけん」とか言われても説得力がないんだよな。
子育てと勉強に追われてたから、という理由になっているし、実際はスケジュール都合なんだろうけど、そんなの見てる側には関係ないからな。少なくともあの期間、結さんという人はギャルじゃなかったし、そんなふうにギャルになったりならなかったりする人を「ギャル魂を抱いた人」とは見られないんです。
今回、結さんのギャル成分として「物怖じせず、言いたいことをズケズケ言う」というキャラクターを打ち出し、それによって手柄を立てさせましたが、また初っ端から矛盾してしまっていた。
NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』第88回、振り返りましょう。
メガネ拭き拭き薬剤師
マリ科長にNSTに誘われ、見学することになった結さん。メガネを拭き拭きしている薬剤師さんを見て、こんなことを思うんですね。
「あの薬剤師さん、怖そうやけんあんま話したことないっちゃんね」
管理栄養士として働き始めて4年、おそらくはあの薬剤師さんもNSTに参加していることから同等かそれ以上のキャリアがあると思われます。4年、同じ職場にいる人に「怖そうやけん、あんま話したことない」とか言ってる。
患者にはズケズケとタメ口で行くのに、4年も一緒に働いている同僚の薬剤師に対しては「怖そう」という第一印象みたいな理由で壁を作っている。結さんが、そういう人として描かれているわけです。それってギャルなん? という話です。
結さんが問題を解決するために次々に敵を作り出すしかないという『おむすび』作劇によって、本来描こうとするキャラクターの根幹に綻びが出てしまっている。
そういうシナリオ的な手落ちにがっかりしていると、今度は変な演出が出てきます。
回診に向かう5人衆の姿を映した、正面からの煽りカット。
「なんか戦隊ヒーローみたいで超カッコいい」とは、結さんの心の声。
確かに、テレビの画面にはそう映っています。でも結さんは5人衆の向かって左後ろにいるんです。その角度から「戦隊ヒーローみたい」には見えないでしょ。このスベる必要がないところまでスベってる感じ。しんどいんだよなぁ。
まだ終わらんのか松崎
カンファが始まって専門用語が飛び交うシーン、よかったと思うんですよ。これこそ取材しなきゃ作れないシーンだし、薬剤師さん、看護師さん、言語聴覚士に管理栄養士と、それぞれの役割もよくわかる。
ここにまた急に敵が出てくるわけです。
「まだ終わらんのか松崎!」
見ればわかるだろ、まだ終わんないよ。必要以上に高圧的な態度のドクターと、必要以上にヘコヘコする松崎。せっかく取材して作ったカンファのシーンの価値をドラマが自ら毀損してくる。
星河のコック長・立川の初登場シーンを思い出します。結さんの存在を丸ごと否定する人を置くしかない。結さんやNSTメンバーが良かれと思ってやったことが患者に悪影響を及ぼし、それに対してドクターが怒るならわかるんですが、このやり方だとドクターにも共感できないし、NSTの院内における立ち位置もブレてしまう。ドクターが怒っている理由は「自分の担当患者のことを部外者にあーだこーだ言われたくないから」だそうですが、NSTって主治医の立てた方針を無視して勝手に患者に出す食事を決めてるんです? 「NST=部外者」って理解で本当に大丈夫?
さらにドクターは「こっちのカンファもあるんや、早よせえ」とも言っています。このセリフは松崎のこの日のスケジュールを示唆するものです。
「まだ終わらんのか」「早よせえ」と言うからには、松崎にはこの後、別のカンファのスケジュールが詰まっていることになる。
だったらこのカンファを「巻きで」終わらせて次のカンファに行くのかと思ったら、そのまま回診に出ていく。それにより先ほど示唆された松崎のスケジュールが曖昧になり、ドクターの「まだ終わらんのか」「早よせえ」というセリフが無効化される。ただ「感じ悪い人」という印象だけが残る。
そしてやっかいなのが、『おむすび』が必要としているのは、常にこの結さんにとって「感じ悪い人」なんだよな。相手の怒りが正当な理由を伴っていると、問題を「ギャル魂」では解決できなくなるので、常に「ただ感じ悪い」だけの人を求めている。不健全なもんです。
「ただ感じ悪い」2号登場
潰瘍性大腸炎の堀内さん、NSTが病室に入ってきた瞬間に都合よく「退院する」と言い出しますが、この理由もよくわからない。当初は「治ったから仕事に戻る」と言っていたのが、「とにかく、この病院のメシはマズすぎてかなわん」に変遷している。
「とにかく」なんだよな。とにかく結さんの「物怖じせずにズケズケ言う」という性質を表現しなければならないから、そのまま相手役に「とにかく」と言わせてしまう。「とにかく」と言った瞬間に堀内さんは「ただ感じ悪い人、第2号」という記号になってしまうし、看護師の「叩き上げのワンマン社長」というセリフも、何の説明にもなってない。
堀内さんに関しては、主治医を呼ぶタイミングも変です。急変してからじゃなく「退院する」と言って着替え始めた時点で「森下先生呼びますね」でしょ、どう考えても。なんであんたらが対応しようとしてんの。そらドクター森下も怒るわ。部外者があーだこーだ言ってんなよ。
ネフローゼ少年がごはん食べなかった理由も病院への不信感からくるハンストだったそうですが、「ほとんど摂取していない」状態でどうやって生きてるのよ。釈尊なの? 悟りでも開くの?
「ギャルを提供している」感
何よりしっくりこないのが、堀内さんや少年に対する結さんの態度が「やってあげてる」感じなんですよね。この患者の心を開くには、このしゃべり方がいいと、選択して提供している感じがする。いろんな引き出しの中から「ギャル」を提供している感じ。
それが功を奏するのはドラマだからいいとしても、それって「ギャル魂」じゃないよねと思ってしまうんです。ルーリー(みりちゃむ)みたいに常にギャル、常にポジティブ、時には失敗するけれど、めげずに明るく突き通す、それなら結さんの「ギャルなんで」というセリフにも説得力が出るんですが、状況に応じて出し入れするなら、結さんにとって「ギャル語」や「ギャル感」はビジネスをスムーズにソリューションするためのツールでしかない。要するにニセモノってことです。
そのニセモノ感の象徴が、冒頭で言った人畜無害な薬剤師に対する偏見ね。
結さんはハギャレンやアユとの関係を経て、ギャル的なコミュニケーションが人の心を開かせることを知り、それを仕事に利用していい感じになっている。そういうふうには見えるんだけど、同時に「ギャルになれなかった人」にも見えるんです。ギャルでもないくせに、ギャルを自称してギャル的な価値観をつまみ食いしながら、「しごでき」管理栄養士として活躍していく。
今のところ、新章における管理栄養士・結の人物像はそうとしか見えないし、そうやって器用に他人の哲学を上辺だけ利用して「しごでき」ってされても、そこに魅力を見出すのはなかなか難しいところよね。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
◎どらまっ子AKIちゃんの『おむすび』全話レビューを無料公開しています
第1話~第56話
https://note.com/dorama_child/m/m4385fc4643b3
第57話~
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