『おむすび』第90回 「金曜日の解決」にこじつけるために歪められた職場、歪められた人間関係
![橋本環奈(写真:GettyImagesより)](/wp-content/uploads/2025/01/20250128-cyzoonline-column-hashimotokanna3-pic01.jpg)
昨日は作り手側のやりたいことが明確にわかった上で、その段取りの雑さにどっぷりと疲れてしまったわけですが、今日はもうちんぷんかんぷんだわ。今、ちんぷんかんぷんて打とうとしてちんぽってミスタッチしたわ。そんなことも書いちゃう気分だわ。
NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』第90話、振り返りましょう。振り絞れ。
イッツ・ソー・フライデーフライデー
金曜ですから、今週の困りごとが全部片付くことになります。副題は「おむすび、管理栄養士になる」でしたから、これをもって結さん(橋本環奈)は管理栄養士になったということなんでしょう。なんで「管理栄養士になって4年」の人物を描こうとするとき「管理栄養士になる」という副題を付けるのか、あともう誰もこの人を「おむすび」と呼んでないけど大丈夫なのか。知らんけど話を進めるよ。
潰瘍性大腸炎の堀内さんに不味い飯を出し続けていたNSTでしたが、主治医のドクター森下(馬場徹)の意向によりこの患者を対象から外すことに。しかし、金曜ですので堀内さんの問題についても結さんが解決しなければいけませんから、結さんはバインダーを両手に抱えてそのへんをウロウロしています。ヒマなのかな。
と思ったんだけど、そういえばNST活動以外の日の結さんの担当は消化器内科と外科でしたね。潰瘍性大腸炎なら消化器内科だ。このへんから関係性がもうこんがらがってくるんだよな。
プロットとして、結さんが所属するNSTと堀内さんの接触が絶たれたことが語られています。赤いボールペンでリストに斜線を引くシーンはそういう意味でしょう。さらに今日、堀内さんの病室の前で一瞬ノックをためらう結さんの姿が映っている。これも、堀内さんを気にかけるのは今や業務外だが、どうしても気になってしまうという描写です。
でも実際は消化器内科担当の結さんは日常的に堀内さんと接しているはずなんですよね。いろんな管理栄養士がいるんだと思うけど、結さんは紀香にならって、めっちゃ患者を見回って話しかける栄養士として描かれている。それなのに、NSTに加入することになったとき、結さんは堀内さんと初対面だったし、コミュ力お化けのはずなのに担当科医のドクター森下とまるでコミュニケーションが取れていない。ドクター森下が患者にどう接しているかも知らなかった。
この日までの消化器内科における結さん、ドクター森下、堀内さんの三角形がものすごく歪んでいるんです。
おそらくは、栄養士だから栄養に関係が深い消化器内科の担当にしたい、というのが最初にあって、さらにNSTというのを取材で知ったからドラマに織り込みたいし、小児科の患者とも接点を持たせて泣けるシーンを作りたいという欲が生まれた。その整合性を取らないまま(あるいは意図的に無視して)、「結さんが堀内さんを救う」というシーンにたどり着こうとしているために、無理が生じている。
報連相だいじか?
次の問題、堀内さんの家族関係について。
怒鳴り散らされた息子が会社に戻ろうとすると、母親が「父さんの言うこと、気にせんでええからね」と声をかける。このとき父さんが言ったのは「大きな契約をするときは俺に相談せえ」という業務上の指示でした。言い方はよくないけど、社長である息子が納得しているということは会社にとってもそうしたほうがいいのでしょう。
「父さんの言うこと、気にせんでええ」という母親の言葉は、そのまま「大きな契約をするときも父親を無視していい」という意味になります。これが「バカ息子」「無能」「アホンダラ」というストレートな悪口だったら母親の言うこともわかるけど、もしくはこの母親が社長より上の会長職に就いているならわかるけど、シンプルに会社の業務に口を挟んでいることになる。このへんで、すでにこの親子の三角形も歪み始めている。
さらにこの母親が結さんを薄暗い個室に誘い、「前より血便がひどい」「お腹も痛いみたい」と容態を報告している。「こんなこと栄養士さんに相談していいんか、わからないんですが」とエクスキューズしているから通るという問題じゃないですよ。ドクター森下が怖いから言えないのはわかるとしても、まず看護師だし、結さんもすぐさま「看護師さんに申し伝えますね」と返さなきゃいけない。消化器内科担当の栄養士が、患者の容態の悪化について知ったのです。すぐに医局に情報を共有しないのは職務怠慢、病院に勤める者としてあるまじき行為です。
しかし、結さんは何をしていたかというと、週一のNST会合でドクター森下の陰口を言いながら、メンバーにだけその情報を伝えている。どれだけ怒鳴られても委縮しないはずの結さんが、なぜかドクター森下にだけは話しかけられない。仕事上の必要な連絡、しかも患者の命にかかわる情報を、相手が話しかけやすいかどうかで、伝えたり伝えなかったりしているんです。
「森下先生、食事管理のことはNSTの意見を参考にしていただきたいのですが」
ようやく口を利いたと思ったら、ギャル言葉を使うか使わないかも、相手次第。相手によって態度を変える人間は、社会人としてもギャルとしても信用できませんよ。
もうここからは無茶苦茶です
結さんにマリ科長から着信があって、「堀内さんの奥さんから連絡があって、そっちに息子さん行ってる?」と言っている。
なぜ奥さんはマリちゃんに電話したのか。そっちってどこなのか。マリちゃん今日は休みなのか。奥さんはマリちゃんの個人携帯にかけたのか。
堀内さんはウナギを喉に詰まらせて窒息で死にかけています。この直前、ドクターはNSTに対して「エンゲ?」と言ってましたね。堀内さんの血便と腹痛の悪化は把握していたけど、嚥下機能が低下していることは知らなかった。知っていれば、こうならなかった可能性だってあるはずなんです。結さんがすぐ連絡していれば、です。
ウナギを買ってきた息子は結さんに病室から連れ出され「なんで僕がいてるってわかったんですか?」と問います。なんすか、その質問。目の前で父親が死にかけてるんですよ。病名も知らないし、厳重な食事制限があることも知らない。結さんは「お父さんと話をしてください」と言いますが、息子に何も言ってないのは常に付き添ってる母親でしょう。で、結さんに言われたことが心に刺さってムムムとなってますが、横の病室ではその父親が死にかけてるんすよ。まずはそっちを気にしなさいよ。
母親も息子も変すぎるんです。これじゃ堀内さんも浮かばれないわ。
あとはお決まりの「米田さんのおかげ」でドクター森下も堀内さんも改心するわけですが、結さんは堀内さんにメニューの便宜を図る、美味しいものを作る、と宣言します。
できるなら最初からやってやれって。ついこないだ「不味い」と言われたときは真剣に取り合わず、適当なギャルテンションで丸め込んでいましたが、相手が死にかけたら「美味しいものを作る」と言い出す。あのとき、堀内さんの声に真剣に耳を傾けて対応していたら、堀内さんも病院食でお腹いっぱいになって、ウナギを寄越させることなんてなかったかもしれない。結果として、あのイカレポンチなギャル対応が失敗だったと、図らずも『おむすび』自身が告白してしまっているんです。
「病院食が不味い」と言って食べない患者に、美味しい食事を出せるのに出さなかったこと。患者の病状が悪化していることを知りながら、すぐに医局に報告しなかったこと。この2つの結さんの不始末が、今回の堀内窒息事件の発端になっています。いくら1000年に1人の顔面で圧をかけてきたところで、その事実は揺るがないんですよ。
「私たちのこと、信じてもらえませんか?」
見てる側は堀内ほどチョロくないよ。信じられるはずもない。
あと、患者の家族にイスを出しなさい。立たせてんじゃないよ。
翔也、床屋になる
それはまた来週にしましょうね。ちんぷんかんぷんなものを紐解く作業というのは、エネルギーを使うもんだね。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
◎どらまっ子AKIちゃんの『おむすび』全話レビューを無料公開しています
第1話~第56話
https://note.com/dorama_child/m/m4385fc4643b3
第57話~
https://cyzo.jp/tag/omusubi/