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『おむすび』第91回 濃密な会話を書くことから逃げまくる脚本、蔑ろにされた翔也の10年

橋本環奈(写真:サイゾー)
橋本環奈(写真:サイゾー)

 感情がスポイルされている、と感じるんです。

 冒頭、ナレーションベースで結さん(橋本環奈)が管理栄養士になって4年、NSTに配属されてイキイキ働く様子が映し出されます。一方の翔也(佐野勇斗)は星河を辞めて、理容師を目指すという。

『おむすび』職場も人間関係も歪みすぎ!

 翔也がそれを結さんに伝えるシーンの後、「明日、花にも話そう」というセリフに重ねて、第86回の家族3人での食事シーンが挿入され、結さんの「家族で一緒にがんばろう」というセリフが続く。

 ここでNHK朝の連続テレビ小説『おむすび』がやったことは、「父の転職について娘への説得完了、花ちゃんも笑顔で大賛成」という構図の捏造です。過去の単なる食事シーンに「父親が転職することになっていろいろ大変だが、家族で一緒にがんばろうと団結した」という意味を後付けしている。とんだイカサマですよ。

 この冒頭のダイジェストで歴史を改変する悪事、前にもやってるんですよね。「ムスビン久しぶりー!」とやってきたハギャレン一同と、「翔也アンケートよくやったエライ!」と拍手する総務の同僚たちの姿に「職場の人々、仲間たちの支えのおかげで」というナレーションをかぶせて、みんなが結&翔也の結婚を祝福しているシーンに作り替えている。第71回です。

 だいたいね、生まれたときから星河電器という大きな会社で働いてきた父親が、急にサラリーマンを辞めて理容師になる。娘にだって思うところはあるでしょう。8歳なら8歳なりの葛藤や疑問があるはずなんです。少なくとも「なんでやねん」とは思うでしょう。

 父親の翔也は以前から言葉足らずでお馴染みですから、マジな顔して「カッケーからだ」とか言うんだろうね。そんな翔也の背中を押して、支えることを決意した結さんが、娘を説得する役割を担うわけだ。

 花ちゃんの疑問に向き合い、母親として、家族として、結さんの言葉で花ちゃんの同意と応援を取り付ける。それが母親の役割ってもんだ。

 このとき花ちゃんが何を思い、結さんが母親として何を語ったか。そこに今の米田家のありようが現れるはずだったんですが、何もなかった。過去のシーンを使いまわしてハリボテの団結が描かれた。また、人生の転機における人の感情が安易に飛ばされている。

「花と一緒に家族で、しっかり話し合って決めた」じゃねーよ。100万回目の「そこを描けよ」が飛び出しちゃうよ。

 第91回、こんな始まりで「母親って何なん?」が語れるとは思えませんが、はい、振り返りましょう。

なんで髪巻いてきた?

 パパ(北村有起哉)とママ(麻生久美子)を前に、翔也が理容師になるという決意を告げる結さん。これ何帰り? なんで結さんはばっちりメイクにふんわり巻き髪ピアスでホステスみたいなカッコしてんの?

 翔也を床屋に転職させる理由については、先週の金曜日にYahoo!ニュースで統括さんたちが語ってましたね。いわく、このようなことらしいです。

「翔也という人間が野球の道を挫折した後どうするかについて(中略)いろんな選択肢を考えました。そんな中で、せっかく『ヘアサロンヨネダ』という家業があるし、『さくら通り商店街』の個人商店の跡取り問題などの背景もある。翔也が理容師を目指すことで、近い距離でより深く、彼の物語を組んでいけるのではないかと思いました。」

「かつて野球選手の道が閉ざされはしたけれど、翔也らしい幸せを見つけてほしいという、我々制作者の思いがこもっています」

 野球の道を挫折した後、翔也は10年近く星河の総務で働いてきたわけですが、これが「腰掛けだった」という告白ですよね。

 結婚の話のとき、翔也は両家の両親の前で、今の仕事を続けて家族を養うという宣言をしていたはずです。むしろ結婚への真剣な思いを「金をやりくりする」ということでしか語ってない。

 統括さんたちの言葉通りに翔也の進路を定めるなら、野球部退部と同時に星河退社、ヨネダに入って修行開始、理容師免許を取ってから結婚、一人前になってきたころにようやく出産でしょう。

 翔也の床屋への転職に説得力を出せるタイミングだってなかったわけじゃない。肩を壊して金髪ギャル化してUNITEした翌日、翔也は髪の色を戻すためにヨネダに立ち寄っています。これから糸島の結さんに会いに行くという、その直前です。

 ここ、あまりに前後の展開がトンチキすぎてスルーしてたけど、めちゃくちゃ濃密な時間だったはずなんです。あのへんちくりんな金髪を黒染めしている間、翔也とパパママは何を話したのか。娘が結婚前提で付き合ってた彼氏が野球をやめて金髪になって店に入ってきたんだぜ。当然、事情を聞くよな。

 パパと翔也が師弟関係になるなら、あの日の「黒染め」がもっとも2人の距離が近づいて、関係性が深まった時間だったはずなのよ。そこらへんの営業マンやバンドマンへの言葉より、もっと翔也の人生を動かした言葉があってしかるべきだった。プロポーズの前日ですよ。101万回目の「そこを描けよ」ですよ。

 こういう人生のクソデカ分岐点で彼らが何を考え、何を話したかを表現しなかったくせに「彼の物語を組んでいける」とか「翔也らしい幸せを見つけてほしい」とか言うから、ウソつけよと思っちゃうんですよ。

そこは視聴者を代弁しちゃダメ

 ダイエット中毒の摂食障害少女とは、これまた面倒な患者を用意してきたもんだと思っていたら、薬剤師さんがNSTで「ややこしい患者、押し付けられただけでしたね」とか言っちゃって、それは言っちゃダメ。実際、悩んでる子も見てるかもしれないし、そういう子の親も見てるかもしれないでしょ。鋭利に刺さるんだよ、こういうの。

 その後ナースが「森下先生が頭下げるなんておかしいと思ったわ」と言ってるけど、ドクター森下(馬場徹)は反省して改心したことになってなかったっけ。ここでは『おむすび』がドクター森下をどう扱いたいのかがわからなくなってる。単に悪者にしておいたほうが便利だし結さんの手柄が立つから、うっすら悪者にしておきたいだけという下心が見える。

 その摂食障害少女の描写も変で、加工キラキラ女子に実際なりたくて、なりたすぎて何も食わなくなってるのに、パジャマと名前をホメられて心を開きかけている。「結さんコミュ力で壁を突破!」じゃないんだよ。「すっぴんパジャマ姿」なんて、もっとも彼女の理想からかけ離れた姿でしょう。「パジャマよう似合っとうよ」と言われて「そ、そう?」とはにかむ描写は、この子の「カワイイ」という価値観に対する冒涜だと思う。

 だいたいさ、カレーボーイは「パパのカレーの味」で解決、窒息オヤジは「これからは美味しいものを作る」で解決と、2つとも「味」で解決してるのも引っかかるんですよ。「美味しいものを食べれば云々」というメッセージと「管理栄養士の仕事を描く」というコンセプトが、渋滞を起こしてる感じ。あと、この少女は心療内科につなぐべき案件ではないのかね。

愛子の不倫にドキドキ!?

 愛子さんに謎の男から密会のお誘いが来てましたね! もしかして、愛子さん私たちの知らないところで不倫してたりするのかな。って、誰が思うかボケ。

 ブログの書籍化? あの内容で? 出版ナメんなボケ。

 以上です、編集長!

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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第1話~第56話
第57話~

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/02/10 14:00