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『おむすび』第92回 震災描写よりヤバそう……この解像度で摂食障害を描いて大丈夫なのか

橋本環奈(写真:GettyImagesより)
橋本環奈(写真:GettyImagesより)

 でさ、不倫かと思ったら、不倫じゃなかったんだよー! ガハハハハハッ! って、これどういう層の人が笑うと思って作ってるんだろう。

『おむすび』濃密な会話から逃げ続ける脚本

 NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』でこうした中年が不倫していると錯誤させるシーンは専門学校時代のモリモリ(小手伸也)に続いて2回目で、あのときも何なん? と閉口しましたが、今回もむべなるかな。

 最初からブログ出版の話であると明かされているし、仮にあんなメッセージチョイ見せみたいな下手くそな匂わせではなく完璧に上手な伏線が張られていたとしても、似合わないんだよ。このドラマにおいて今、愛子さん(麻生久美子)が不倫してるかも? という展開は似合わないの。

 要するに物語の展開として愛子さんのブログを書籍化したいというプロットがあって、そこにひとつ演出を加えて盛り上げようという心意気があるわけでしょう。その心意気はいいけど、方向性が超ダメなんです。

 これ、ある意味で、とっても『おむすび』というドラマを象徴している事案だなと感じるんだよな。普通に愛子ブログに書籍化の話が舞い込んで、それに家族たちがどう反応するかでドラマを作れないんです。

 なぜなら愛子ブログに何が書いてあるか、ほとんど誰もその内容を知らない。人気があるらしい、ということは語っていても、その内容について誰かが感想を述べたことは一度もない。結さん(橋本環奈)もパパ(北村有起哉)も、書かれている内容を把握している様子がないから、当然それが書籍化されるとしても何の感想も抱けない。

 例えば結さんがこのブログに対して「私の個人情報を勝手に書かないでよ」と思っていたとしても、逆に「有名人になったみたいでうれしい」と思っていたとしても、そのどちらでも書籍化に対してリアクションが取れるし、パパも反応できるわけです。もし愛子がブログを始めたときから「書籍化」というプロットが存在していたのだとしたら、あまりにも逆算ができていない。

 愛子さんという人物にとって、このブログを書くという行為は日常における大切な時間のはずなんですよね。糸島時代からずっと続けてきているし、仕事場でもスマホ片手にセコセコ更新するほど、彼女の毎日に食い込んでいる。

 そしてこの人は、娘たちを結婚させるために栃木に飛んで婿の親を説得したり、その婿が床屋になると言い出しても「私はいいと思うな」とか真っ先に理解を示したり、明らかに物語を転がす重要人物として登場しているわけです。

 そんな重要人物の日常を、作り手側が愛してないんだよ。日常を描く気がないの。だからこんな焼き直しの不倫疑惑を安いサスペンス演出で見せることくらいしかできない。百歩譲って、本気でこの不倫疑惑がおもしろいと思ってるならいいよ。本気で「不倫してるかも?」と思わせるつもりがあるなら、まだいい。簡単な話、直前にパパと愛子が軽くケンカでもしてれば、少しは緊張感も出るってもんです。

 でも緊張感を出すつもりもないんだよな。ちょっとそれらしいエピソードがあって、尺が埋まればそれでいい。そういうものを見せられている。今日も今日とて。

 第92回、振り返りましょう。

エビバディおうむ返し

 摂食障害で入院しているマリエちゃんですが、結さんがママから聞き取りをしたところ、小さいころからお好み焼きが好物だったそうです。

 そんなマリエに、結さんは「食べかた講習会」のチラシを手渡しながら「マリエちゃんの好きなお好み焼きもあるよ」と教えてあげます。

「お好み焼き?」

 このおうむ返しの意味がわからんのよね。

「お好み焼きかー、好きやわー、でも太るしやめとこー」というのがこのときのマリエのムーブなわけですが、そうはならんでしょ、と思うんですよ。このあたり、言い方が難しいところなんですが、マリエにとって好物のお好み焼きは「今の醜い自分を作った毒」みたいなもんでしょう。

 このあとマリエが「食欲がなくなる薬ってあるらしいやん?」と問いかけ、結さんが「ってことは、食欲はあるんやね」と返す場面も含めて、おいおい解像度大丈夫か? とめちゃくちゃ不安になるんです。

 これまで『おむすび』では「社会人野球」や「炊飯器開発」について、ものすごく理解度の低い、まるで小学2年生の思い描いた絵空事みたいな描き方をしてきましたが、さすがに摂食障害少女についてはちょっとあのやり方だとマズいことになると思うんだよ。NHKそのものの社会的信用にかかわってくるくらい、丁重に扱わなきゃいけない話だと思う。

「ってことは、食欲はあるんやね。やったら我慢せずに食べたいもの言ってみて」という発言の危険度、統括さんたちは認識しておられるのかしら。

 このあとの結さんの説明、ラストでアユ(仲里依紗)に相談するところも含めて、ドラマそのものがこの少女を「ホントは食べたいくせに我慢して食べない子」だと思ってないか、ということなんです。自分の「食べる/食べない」という意思をコントロールできる子だという前提で摂食障害を描いたら、それは大間違いだということです。

 なんかこの感じ、東日本大震災を描く直前あたりで「この調子で震災の話やって大丈夫なのかよ」と思っていたときのことを思い出します。結果、震災の話は大丈夫じゃなかったからな。

飲み会シーンも悲惨ですけれども

 上記のマリエの件に比べれば、居酒屋シーンの結さんはただ不快なだけだったので、そんなに問題視するようなことではありませんでしたね。

 だいたい結さんと薬剤師はモメてもいないのに松崎がしゃしゃってきて親睦会を開く段取りも強引すぎるし、みんなの私服をえらそうにジャッジメントするノリもクソ寒いし、そもそも結さん別にオシャレじゃねーし、上司の馴染みの店で食う前からゴチャゴチャ文句言ってんのもクソ性格悪い上にコミュ障丸出しで社会人失格だし、食い物のカロリーくらい管理栄養士じゃなくてもだいたい知ってるし、糖質どうこう言うならテメーはビールじゃなくハイボールなり焼酎にしろよって話だし、ネコちゃんはかわいいよね。

 そんなおおむね不快なシーンの連続でしたが、ただ不快なだけならまだしも、また手抜きを感じるんです。紀香の赴任先を「離島」だという。

「離島で管理栄養士やってるみたいです」というのはあくまでプロットであって、ドラマのセリフを書くというのは、そこにその人物なりの具体性を付与する作業なんです。

「佐渡で」「宮古島で」「北海道の利尻で」「瀬戸内海の小さな島で」、どこでもいいよ、結さんがその場所を指定した瞬間に、視聴者の脳内に「紀香の現在」の画がパッと浮かぶんです。それがドラマなんです。ドラマやろうよ、ドラマ。

 あと、今回の結さんの服装ジャッジメントとメニューへのいちゃもんですが、たぶん祝日であることも関係あるんだろうな、とちょっと感じましたね。普段見ない人に、改めて「ギャルですよ」「管理栄養士ですよ」という人物紹介をしたかったという意図があったんだと思う。そんな器用なことできないんだよ、もう。そういうふうに作ってこなかったんだから。大失敗。

ちょっと怖い話

 昨日の話なんですけど、パジャマの件ね。なんで結さんがカレーボーイとサプリメントガールの両方に対してパジャマをホメたのか。これ変なんですよね。プロの脚本家がこんなヤケクソみたいなことするわけないと思って、考えてたんです。

 んで、昨日お風呂入ってるときに嫌な想像が浮かんできちゃったんで書き留めておきます。あくまで妄想ですからね。別に読まなくていいよ。

 * * *

???「で、患者は心を閉ざしてるんだけど、結のコミュ力で心を開かせるんだよ」

ノの字「なるほど。でも、どうやって心を開かせるんでしょう、簡単じゃないと思いますよ。父親を亡くした小学生と、摂食障害の女子高生でしょう」

???「それを考えるのが脚本家の仕事だろ。ガハハハハハッ!」

ノの字「(なんだこいつ……)」

???「じゃ、やっつけといて、よろしく!」

ノの字「そんな、少しは考えてくださいよ、今まで全部言うこと聞いて書いてきたじゃないですか!」

???「知らねーよ、パジャマでもホメときゃいいんじゃねーの? じゃな、ハシカンちゃん、飲み行こうぜー」

──その夜──

ノの字「クソが……何がパジャマだ……まあいい、言う通り書いてやるよ。今までだってそうだったんだ、ガキも女もパジャマだ、2人ともパジャマにしてやる、ククク、ざまあみろ、あとは現場で勝手に直せ、少しはこっちの苦労を理解しろってんだ……」

──次の日──

???「オッケー、これで行こう!」

ノの字「えっ?」

ハシカン「えっ?」

???「さまざまな選択肢から、あえて2人の患者のパジャマを高く評価するという選択をしました。きっと2人とも、家でもこのパジャマを丁寧に着ていたんでしょう。このほうが、本当にドラマが伝えたいメッセージが伝わると考えました」

 * * *

 妄想だかんね。怒んないでね。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

◎どらまっ子AKIちゃんの『おむすび』全話レビューを無料公開しています
第1話~第56話
第57話~

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/02/11 14:00