俳優・ロケ・企業…各方面に距離を置かれるフジテレビ 頼るは過去の遺産、ピンチをチャンスに変える“禁断の一手”
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中居正広の女性トラブルへの対応のまずさから、相変わらずフジテレビが存亡の危機に晒されている。スポンサーが一斉にCMを引き上げ、減収額は数百億円にも及ぶ見込み。新年度のスポンサー集めもままならず、4月以降に深刻な苦境に陥りそうだ。
「かつては視聴率争いでトップに立ち続けたフジテレビですが、近年は民放4位が定位置。“振り向けばテレ東”と揶揄されてきましたが、今回の一連の騒動がいよいよダメ押しになりそうです。大手芸能事務所からは、“今、フジテレビに出てもメリットがない”と出演を拒否され、ロケ地から協力を断られたり取材を拒否されたりと、番組制作にも支障が出始めている。大幅な減収で制作費を削られるのは確実で、手足を縛られた状態での番組作りを余儀なくされそうです」(マネー誌記者)
何も見えない暗闇に入り込み、出口が見つからない状態のフジテレビ。売れっ子芸能人に距離を置かれ、ロケも取材もできず、制作費も限られる三重苦の状況で、4月からはどんな番組を作れば良いのか。
「制作費を削りたい時の鉄板企画が衝撃映像、街ブラ、企業コラボの3つ。このうち街ブラはロケがやりにくく、“◯◯の売れ筋商品”“△△の人気メニュー”といった企業コラボも当分無理なので、衝撃映像や面白動画の番組がもっとも手っ取り早いのでは」(WEBメディア編集者)
過去の人気バラエティ番組でも放送すればよいとの声もある。たしかに、フジの黄金時代の人気番組を流せば、かなり話題になりそうではある。
「YouTubeでは、過去の人気番組の出演者たちが“同窓会”と称して集い、当時の思い出を語ったり、裏話を披露したりして再生回数を稼いでいます。指をくわえて見ているぐらいなら、“本家”が自局のアーカイブを引っ張り出して、堂々と紹介すれば良い。もちろん使えない映像は山ほどあるでしょうが、使える場面だけ使い、当時の出演者をスタジオに呼んでこぼれ話などをトークしてもらえば、立派に番組は成立します。過去の遺産を使うタイミングはまさに今しかありません」(同前)
背景にはテレビ界全体のトレンドもある。フジテレビに限らず、昨今「昭和」や「平成」はヒットを生む1つのキーワードである。
「かつてのヒット曲を歌うカラオケ番組も大増殖しています。2025年がちょうど昭和100年にあたることも、昭和振り返り番組が多い一因です。テレビ局は若者を取り込もうと必死ですが、現実的にはテレビのコア視聴者層は中高年です。手っ取り早く結果を出すには、人口的にボリュームゾーンで発信力もある40~50代に向けた番組を作るのは有効な戦術ではあります」(同)
フジの過去バラエティ、今放送できない「不謹慎」以外の理由
とはいえ過去のアーカイブ映像をそのまま流すのは難しい。元テレビ朝日プロデューサーの鎮目博道氏が、“業界事情”を解説する。
「まず、放送番組の権利問題があります。ドラマは再放送ありきで制作しますが、バラエティ番組の場合、たとえば“3年間に2回放送”など期間と放送回数に制限をつけて制作することが多い。その制限を超えた部分は関係スタッフや出演者に再度交渉し、許諾をとる必要が出てきます。その関係者を全て探し当てるのは困難なのが現実です」
さらに、「音楽」の権利問題もある。
「音楽も再使用の許可をとらないといけない場合があります。つまり、かなり昔のバラエティ番組を今放送するためには、権利関係でさまざまに高いハードルがある。今過去のバラエティ映像が放送されることがあっても、許可がとれた部分だけ抜粋した形のことが多いのは、こうした事情です」(鎮目氏)
また、今の時代に過去のバラエティ番組を放送しづらい理由として、想像に難くないのは“コンプラ問題”だが、「当時の~」などと注釈を入れたとしても難しい――と鎮目氏は言う。
「BPOが、“痛みを伴うものを笑いの対象にして放送するのはいじめを助長する”という勧告を出したこともあり、局はどこも過去映像の再放送には敏感になっています。昔のバラエティ番組は、人の体格や見た目に関する言葉など、今では許されないものが“当たり前”。全体の流れとしても“アウト”なものが多く、SNSで余計な批判を招きかねません」(鎮目氏)
壁となるのは、やはり「地上波」という公共性だ。
「配信なら見たい人が見ればいいという理屈が成立するし、収益も見込めるから多少骨を折ってでも再放送を実現するメリットはあるかもしれないけど、地上波での再放送はそんなにお金にならないうえに炎上リスクもある。とても労力に見合わない」(鎮目氏)
結果として、前出・WEBメディア編集者が指摘するように、“OKが取れた部分だけを見ながら当時の出演者がトークをする”という懐かし番組的なものが現実解というわけだ。
かつて多くの人が楽しんだコンテンツを今一度確認すれば、テレビ史の新たな一歩が生まれるかもしれない。4月以降、フジが放送するバラエティ枠に注目したい。
(取材・文=木村之男)