『おむすび』第97回 主人公が患者対応しないと全然不快じゃないという発見、ただつまらないだけになる

おお、何か今日は久しぶりに胸につかえるもののない、ただシンプルにつまらない回でしたね。ただつまらないことが安堵感につながるという稀有な作品となってまいりました、NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』。あんまり書くことがなさそうなので、今日は先に余談からいきましょう。
改めてさ、なっちゃんすごくね? と思うんですよ。
平成30年前後、コンビニ業界はいわゆる「絶対3強」の時代に足を踏み入れています。激動の時代なんです。このころ、ファミリーマートはエブリワン、ココストア、サークルK、サンクスといった弱小・中堅のコンビニを次々に飲み込み、そのすべてをファミリーマートブランドに統一。フィットネスジムやコインランドリーとの併設店舗を展開するなど、活発な動きを見せていました。
その一方ローソンはポプラ、スリーエフとの連携を強め、「トイレ貸します」宣言をして政府から災害対策基本法第2号第5号に基づく指定公共機関に認定されるなど存在感を示しています。
当年の決算書によるとファミリーマートの店舗数は15,513、ローソンは14,659とその競争は熾烈を極め、その上に王者・セブンイレブンが20,876店で地盤を固めつつある。
この当時、コンビニといえばこの3社を指すものに他なりませんでした。
そんな最強コンビニ3つ巴時代に、なっちゃんは自ら企画から開発までを手掛けたスイーツを店舗展開している。地域限定か全国か知りませんが、とんでもなく優秀なスイーツのプロであることは疑いようもありません。しかも、まだ30歳そこそこ。まさに「食」のスペシャリスト、スーパーエリート、若き天才です。どっかの地方病院のイチ管理栄養士が太刀打ちできる相手じゃない。「食」に関する総合力として、格が違う。
それどころか、今のなっちゃんがいるポジションは、翔也(佐野勇斗)がかつて目指した「プロ野球選手」より大変な場所だといってもいいでしょうね。それだけ苛烈な競争を、あの女の子は勝ち抜いている。大げさじゃなく、なっちゃんだけで朝ドラ1本作れるくらいの立身出世伝ですよ。
それが、そうは見えないんだよな。『おむすび』は、どっかで「たかがコンビニ」と思っている。町の総菜屋の娘っ子がコンビニの商品開発に携わることの困難さ、ひいては食品産業全体に対しての理解の薄さが露見してしまっている。業界を調べていないことがバレている。
これと同じようなことが、過去にもありました。大学2年連続本塁打王の大河内がプロのドラフトにかからずノンプロの星河電器に入社してきたことに、なんのエクスキューズも示さなかった。大学野球もプロ野球も、コンビニ業界についても、ろくに取材をしていないからこういうことになるんです。誰が見てもおかしな状況、不自然な配置がまかり通っている。普通の人が考える「その職業における常識」が把握できてない。シンプルに、ダサいことになってんなと思います。
あと、あんま関係ないけどアユ(仲里依紗)とラーメン大食い対決をして、後にガーリーズ2号店にやってきて妙ちくりんなファッションショーの発端になったアスカという女性、あの子も大河内らしいね。普通に考えて「大河内」なんて名字がドラマの中で偶然かぶることなんてないだろうから、おそらくは姉弟という設定で何かエピソードを作ろうとして、途中でやめたんでしょう。このへんも、現場の混乱や脚本の変遷が垣間見える微笑ましい風景です。
そんなこんなで第97回、振り返りましょう。NHKプラス、第96回と第97回のサムネイルが並んでいるんですが、両方とも結さん(橋本環奈)が神妙な顔でバインダーを抱えていて、もうそういう生き物なのかなと思いました。
もう伏線かどうかもわからない
栃木からやってきた翔也ママ(酒井若菜)、携えてきたイチゴは促成栽培だそうで、愛子(麻生久美子)は熱心に耳を傾けています。聞けば、イチゴは掛け合わせでさまざまな品種が研究されており、その可能性は無限なんだそうです。
こういうウンチクが作中、野菜についても先に語られていたら、「スイスチャード事件」や緑子の心をこじ開けた「野菜の成長速度」の話も説得力があったのになぁと残念でなりません。イチゴの話が後の伏線になるのかどうかはわからない。ダブル大河内のように捨てられるのかもしれないし、まだアスカとホームラン王の姉弟の物語がワンチャン復活することだってあるかもしれない。
一方、具合が悪そうなパパさん(北村有起哉)は家族での焼肉を辞退して自室へ。最近食事も減っているそうで「朝はおむすび1コ、昼はうどん、夜はおかずは食べるけどごはん少な目」なんだとか。ここで結さんの得意技である千里眼が発揮されます。
「それやったら、1日1,300kcalも摂ってないやん」
ママは単に「おかず」としか言ってない。いうまでもないけど、カロリー数値なんて「おかず」によるでしょう。プロが書いてるシナリオとは思えないイージーなセリフ回しですが、これで翔也ママが「結ちゃんさすが、プロの顔」とか言い出すんだから、イージーなもんです。
「プロの顔……?」はいオウム返し。出た、伝家の宝刀。牧歌的ですなぁ。
家族が出ていった後、台所の薬箱から市販の胃腸薬を物色するパパさん。そこに、ものすごくダサい服装の結さんがスマホを忘れて帰ってくるわけですが、パパは胃の調子が悪くて医者にかかってるんですよね? 生検中でも胃薬くらい処方してやってくれ、ドクター森下(馬場徹)。
このあとのパパと結さんの「知り合い問答」も微笑ましい限りではありますが、ここなんで焼肉なんだろう。太極軒でよくない? 細かいことだし、全部のセリフに厳密に意味を持たせる必要なんてないと思うけど、唐突に「焼肉」とか言われるとビックリしちゃうんだよな。先日の居酒屋でのメニューのカロリーに激昂するという異常行動もあいまって、義母との食事会なんて冷や冷やしちゃう。
翌日、医局ではドクター森下がいつもの栄養ドリンクを飲んでいますが、この栄養ドリンクも伏線なのか単なるキャラ付けなのか、判断が難しいところなんですよね。普通の医療ドラマなら気にならないけど、何しろ「栄養」がテーマのドラマで、主人公は自分の歓迎会でも居酒屋のメニューにケチをつけるほどの栄養マニアです。ドク森の栄養ドリンクに言及しないのは不自然すぎる。と思ったんだけど、結さんが栄養について語るとき、その9割以上はカロリーについてですから、もう不自然なのかどうかもわからなくなってくる。
生検中であるパパの容態を聞き出そうとする結さん。容態も何も生検中なので「生検中だ」と答えればいいところですが、ドク森はわざわざ守秘義務について語ってきます。
ヘイ、ドク森。目の前にいるバインダー妖怪は夜な夜な勝手に患者の電子カルテにアクセスしてるから、見つけたら叱りつけてあげてね。あと、こうやって職業倫理を物語の展開によって出し入れするところもドラマの世界観が崩壊する原因になるから、手が空いたらノンジ氏のことも叱りつけておいてね。
衣装部何やってんの
自らの死を悟り(?)、最期に長女の仕事ぶりを目に焼き付けておきたいと思ったパパさん。神戸の店を抜け出して梅田のガーリーズ2号店にやってきました。
何やら元気のないパパに、アユ(仲里依紗)は「元気にしてあげる」とギャルコーデを始めるんですが、最初のヒョウ柄ジャケットを「あかん」と言って選んだブルゾンが、ヒョウ柄よりだいぶ地味なんだよな。パンツも偶然居合わせたナベのインナーと色が被ってるし、「KING OF GALが選んだ!」というインパクトが全然ない。こういうところ、衣装部の腕の見せ所だし、「ギャル」をテーマにしたドラマの世界観を構築する上でこだわりまくらなきゃいけない部分だと思うんだけど、どうにもがんばってる感じがしないんです。ホント、作ってる誰の情熱も感じられない。
ともあれ緒形直人と北村有起哉が並ぶとやっぱり画面が締まりますし、結さんが患者と関わらないと不快な場面が訪れないというのは、新たな発見だったような気がします。
なんで結さんが患者と関わると不快なのか、ちょっとわかったんだよな。この人、4年も総合病院で働いてるんだよね。当たり前だけど、担当した患者が死んだことだってあるはずなんだ。医療関係者なら誰もが経験しているはずの「患者の死」というものを乗り越えた形跡がないんです。
作中で結さんの担当患者がもっとも死に瀕した瞬間はセンター分けウナギの窒息事件でしたけど、このとき結さん病室の外の廊下で、偉そうに「親子論」をぶって息子に説教してましたからね。迫るものがないんだ。
八重ちゃんの件で「初めての挫折」「初めての失敗」を演出していましたが、「総合病院で4年勤務」という設定が当然含んでいるであろう「本当に悲しいこと」をどう整理して仕事を続けてきたのか。それが結さんというキャラクターに落とし込まれていないから、やることなすことペラッペラに映るのよ。
もうパパが死ねばいいとまでは言いませんが、今回のエピソードではそこんとこ、ある程度このイージー栄養士に突き付けてほしいものですね。
(文=どらまっ子AKIちゃん)