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『おむすび』第99回 人物に中身がないから「親族がガンになる」という設定をまるで生かせない

橋本環奈(写真:GettyImagesより)
橋本環奈(写真:GettyImagesより)

 NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』、20日放送の第99回では主人公である管理栄養士・米田結(橋本環奈)の父親がステージ2の胃ガンであることがわかり、手術が成功しました。

『おむすび』過去が漂白されていく

 いうまでもありませんがNHK朝の連続テレビ小説は15分であり、そのたった15分の間に主人公の父親がステージ2の胃ガンであることがわかり、手術が成功したのでした。

 ストロークがないのです。ドラマ的にいえば、父と娘の関係を描く絶好の機会であるはずです。胃ガンについて詳しくないから不安を抱く父と、医療関係者でステージ2の胃ガン患者を担当したこともあるであろう管理栄養士の娘の間に、どんな会話でも作れる“おいしい”シチュエーションなんだけど、こんなあっさりいくんか。

 なんというか「つまんね」とか「やる気あんのか」とかもちろん思うんだけど、虚しさを感じましたねえ。結さんという人物がホントに空っぽで何もなくて、作り手側もこの人の中身を作ってあげようとか、輝かせてあげようという気持ちがゼロであることがハッキリした回だったように思います。

 ああ、しんどいな。しんどいし、この感じを言語化するのはムズいな。振り返りましょう。

「頼りになる」だけを描いて何を感じろというのか

 ドクター森下(馬場徹)が米田親子にガンを告知するシーン。結さんは、にわかにショックを受ける愛子(麻生久美子)に視線を送ると、医師の説明をフォローする役割に徹することになります。

「全然早期やけん、大丈夫」

「外科の先生もすごく頼りになる方やけん、安心して」

 まるで親子の中で、結さんだけは先に検査結果を知っていたかのような言い方です。なんだ、この温度感のない告知シーンは。

 親がガンであることを告知されて、たぶんここで描かれた結さんの心の動きというのは「そういう可能性もあると思っていたけど、やっぱりそうか。ママはそりゃショックを受けるよね、私だって不安だけど、ここは私がしっかりしなきゃ」というものだと思うんだけど、その脚本の意図を演出しようという熱が感じられないんだよな。

 医師が「胃ガンです」と言って、「はぁあっ……」とショックを受ける愛子がいる。愛子にとって、夫のガンを告知されるというのはそれこそ超特大ライフイベントなんですよね。この瞬間、もっとも大きく心が揺れているのは愛子だということに、脚本上はなっている。

 例えばここで間を作って結さんが愛子の肩に手を乗せる、愛子が結さんを見上げて、肩に乗せられた結さんの手を握り返す、みたいな演出を入れて結さんと愛子の心の動きを見せてあげると、このライフイベントを彼女たちがどう受け止めているかも察せられるところなんですが、このドラマはここに至っても主人公の結さんに「役割」以上のことをさせてあげられない。

 父親が、夫がガンを告知されたら、どうあれ頭の中にいろんな考えが駆け巡って脳みそフル回転すると思うんですよ。結さんの「全然早期やけん、大丈夫」「外科の先生もすごく頼りになる方やけん、安心して」というセリフはあくまで医療関係者という立場から絞り出されたものであって、本当に思っていること、言いたいことの代替であるはずなんです。

 このあと、ひとしきりNSTの回診も終わって帰っていくシーン、翔也が結さんを「凛々しくて頼もしかった」と評し、愛子は「すごく感動した」と言っている。ここで翔也や愛子が結さんに賛辞を向けるとすれば「不安に揺れる心を抑えて仕事に徹していた」ことであるべきなんだけど、単に通常業務をこなしていることしか評価できない。

 告知シーンの結のセリフも、NST回診後の翔也と愛子のセリフも、患者がパパ(北村有起哉)じゃなくても言えちゃうことなんです。「医療関係者である主人公の家族がガンになった」という設定のスペシャリティがまるで生かされていない。

 思い出したシーンがあるんです。

 糸島時代の第13話、結さんが書道王子にほのかな思いを寄せていたころの話です。

 王子がほかの書道部員と「好きな女の子のタイプ」について話していて、「まあ、小柄で、親しみやすくて、元気で、笑顔がかわいい子ですかね」と言っている。これを盗み聞きした恵美ちゃんが「これもう、結ちゃんやろ!」と結さんに伝えて、結さんテンション爆上げということがあったんですが、このとき、変なシーンだなと思ったんです。

 すべてを悟った風のキャラクターである王子だったら「何かに一生懸命取り組んでいる子」とか「人に気を使える子」とか、内面的なことを言いそうなもんですが、『おむすび』というドラマは結さんの内面、結さんの魅力をひとつも描いてこなかったから外見と印象論でしか結さんという女の子を評価できないんだなと感じたんです。

 それから85回も話数を重ねて、まだ『おむすび』は「凛々しい」とか「がんばって働いてる姿に感動した」とか、見た目と印象論でしか評価できない。つくづく内面を描いてこなかったドラマだと思うわけです。

 このドラマって、めちゃくちゃ「結さんアゲ」「結さんこそ救世主」という展開を作っておきながら、まったく米田結という人物に愛情を注いでこなかったんだな、ということが、すごく明らかになった回だったと思うんです。ちょっとうまく言語化できてる気がしないんですが、今日の結さんはすごく空っぽだった。

アユ、しっかりしなさい

 あとは言語化しやすい話。

 なんでアユ(仲里依紗)が急に仕事のできない人になっているのか。

 ナベべ(緒形直人)とチャンミカ(松井玲奈)にオリジナルブランドのサンプル品のクオリティの低さを指摘され「ファーストサンプルよりはマシになった」と言ったり、「海外やからメールでやり取りするしかなくて」「画像で何度も修正して」とか、KING OF GALらしからぬ顔で言い訳を繰り返してる。

 ナベべが言うように現地に行って誰が作ってるか確認してくる必要まではないと思うけど、10年以上アパレルで働いてきて、急に商品のクオリティについての判断が甘くなる意味がわかんないんですよ。

 ギャル服で日本中を元気にすると言って会社を立ち上げた人が、その走る方向を見誤ってなんらかの壁にぶつかるならわかるんだけど、本業の能力のクオリティを急に下げるのは、すごく悪手だと思う。

 アユを壁にぶつけたいという意図があったとき、アパレルの仕事のその先の壁というのを設定できないんですよね。作り手側が壁を発見できなかった、あるいは発見しようとしなかった、ということです。

 これも、アユという人物、アパレルという職業に対して愛情がまったくないと感じさせる部分です。

 どいつもこいつも、『おむすび』に出てくる「失敗」って、「がんばった結果だからしょうがないよね」と思えない。全部、「それはおまえが悪いよ」と思えるものばかり。この失敗を乗り越えていけ、と応援できる「失敗」がひとつもない。

 縫製が甘いTシャツを妥協でよしとしようとする自称KING OF GALなんて、誰も応援できない。愛せない。今すぐその看板を下ろしてほしい。

 前にも言ったけど、作り手が愛情を注いでいない人物を見る側が愛せるはずないんだよ。今さらいうけど、ホントにダメな作品になっちゃってると思う。作り手も演者も見てる人も、誰も幸せになってない気がする。あくまで個人の感想ですけど。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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第1話~第56話
第57話~

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/02/20 14:00