テイラー・スウィフト人気に「変化」の兆し ブーイングでフォロワー減少

押しも押されもせぬ大スターのテイラー・スウィフトに「時代の変化」が忍び寄っている。2月2日に開かれた第67回グラミー賞では1つの賞も獲得できず、9日に観戦に訪れたプロフットボール王座決定戦「スーパーボウル」では、ブーイングの嵐を浴びた。ソーシャルメディアのフォロワー数も一時約14万人以上減ったとされ、「イケイケ」のミュージック界の女王に「変化」の兆しが見え始めた。
アルバム売れてツアー大成功でも、まさかのグラミー賞ゼロ
テイラー・スウィフトのファンのことを「Swifties(スウィスティーズ)」と呼ぶ。かつて日本では安室奈美恵のファンを「アムラー」と呼んだが、これと同じような呼び名である。その「スウィフティーズ」にとって予想外の結果となったのが今年のグラミー賞だ。最高峰の「年間最優秀アルバム賞」など6部門にノミネートされながら、1つの賞も獲得できなかった。
グラミー賞の歴史の中で、6部門以上にノミネートされて1つも獲得できなかったのは10人しかいないが、テイラー・スウィフトはその仲間に入ってしまった。
テイラー・スウィフトは前回2024年の第66回グラミー賞で「年間最優秀アルバム賞」など2賞を受賞した。これによりテイラー・スウィフトのグラミー受賞数は14となった。「年間最優秀アルバム賞」の受賞は4回。通算で同賞を3回受賞したフランク・シナトラやスティービー・ワンダーらの最高記録を抜き、歴代トップとなる快挙を達成した。
その授賞式でのスピーチでテイラー・スウィフトが制作中であることを明らかにしたのが、2025年のグラミー賞でノミネートされた11枚目のアルバム『The Tortured Poets Department』だ。
2024年4月に発売され、米ビルボード年間アルバムチャートの1位に輝いた。本人の私生活を描いた歌詞があるなど「スウィフティーズ」にはたまらないアルバムとなった。
勢いを世界に見せつけたのは、新アルバムだけではなかった。米国をはじめ世界5大陸を回ったツアー「エラス・ツアー」が爆発的な人気となり、世界中でテイラー・スウィフト旋風が巻き起きた。
2023年3月にスタートし、2024年12月までの18ヵ月にわたるロングランだった。公演回数は152回にのぼり、約20億ドル(約3000億円)以上を稼いだとされる。
「偏りなく賞を分配」のもとで変わった「女王」への評価
活躍ぶりからするとテイラー・スウィフトがグラミー賞の「年間最優秀アルバム賞」を受賞するのは堅いとみられていた。受賞となれば5回目で、大物ぶりがさらに際立つことになるはずだった。ところがグラミー賞の審査員は彼女を支持しなかった。
破竹の勢いで「女王」に駆け上がってきたテイラー・スウィフトを止めたのは、もう1人の「女王」のビヨンセだった。『COWBOY CARTER』で「年間最優秀アルバム賞」など3つの賞を獲得し、自身が持つグラミー賞の通算最多受賞記録を35回に更新した。
ミュージック業界では売れたからといって賞が取れるものではない。それは当たり前としても、これだけ活躍したテイラー・スウィフトが今回、グラミー賞を1つも獲得できなかったことは「スウィフティーズ」でなくても疑問に思う。グラミー賞の選考理由は明らかにされないが、米国の音楽評論家の間には、主催団体が偏りなく他の優れた音楽家も評価する方針で審査が行われたとの分析が多い。売れている歌手ばかりに賞をわたすのではなく、他の音楽家にも功績を分配しようという考え方だ。もう少し砕けた表現をすると「テイラー・スウィフトはいっぱい賞を取ったから、もういいでしょ」ということだ。
「グラミー賞の申し子」と言われるビヨンセが「年間最優秀アルバム賞」を受賞したことを考えると、この分析も的の真ん中を射貫いているとは言えないが、米ミュージック業界がこれまでのようにテイラー・スウィフトを奉るようなことをしなくなるということは、安易に想像がつく。
恋人を応援 地元からは「裏切り者」の厳しい視線
「時代の節目」のようなグラミー賞を目撃した「スウィフティーズ」に、さらなる衝撃を与えたのは2月9日にニューオーリンズで開かれた「スーパーボウル」だ。
テイラー・スウィフトの恋人であるトラビス・ケルシーがいるカンザスシティー・チーフスとテイラー・スウィフトの生まれ故郷であるペンシルベニア州のフィラデルフィア・イーグルスの戦いとなり、テイラー・スウィフトは恋人がいるチーフスをスタジアムで応援した。
スタジアムの観客は圧倒的にイーグルスファンが多かった。テイラー・スウィフトはトラビス・ケルシーと付き合う前は、故郷のイーグルを応援し、ヒット曲「Gold Rush」の中には「私のイーグルスのTシャツがドアにかかっている」という歌詞があるほどだ。
この「イーグルス」の歌詞についてテイラー・スウィフトは2023年5月に地元フィラデルフィアで開かれた「エラス・ツアー」のコンサートで、バンドのイーグルスではなくアメリカンフットボールのイーグルスのことだと断言し、観客から割れんばかりの拍手、喝采を浴びている。
イーグルスのファンにしてみれば、敵のチームを応援するテイラー・スウィフトは「裏切り者」である。
試合中、VIP席から観戦するテイラー・スウィフトの様子が電光掲示板に映し出されると、イーグルスファンから、厳しいブーイングが起きた。ゲームに出場していたトラビス・ケルシーが心配するぐらいのブーイングだった。
チーフスはこの6年間で5回もスーパーボウルに出場し、3回優勝している、テイラー・スウィフト並みに波に乗っているチームだったが、試合はイーグルスが圧勝。トラビス・ケルシーの引退がささやかれるなど、こちらも「時代の節目」を迎えた。
米国の大衆メディアは、スーパーボウルでのテイラー・スウィフトの不人気ぶりを、インスタグラムのフォロワー数の減少と合わせて伝えた。
スーパーボウルでの応援がきっかけで、テイラー・スウィフトのフォロワー数は一時約14万4000人減少したという。
政治思想的にトランプ大統領と対峙するテイラー・スウィフトのソーシャルメディアのフォロワー数については、これまでフェイクニュースが流されるなど、ニュースを流す側は慎重になるネタだ。米国の大衆メディアは、「女王」のフォロワー数はそれでも2億8000万人以上を超えていることを、しっかりと押さえながら、すべてがうまくいく時代が終わりかけている大スターの近況を伝えている。
(文=言問通)