CYZO ONLINE > 芸能ニュース > 『おむすび』「米田家の呪い」は言い訳

『おむすび』第103回 子ども騙しにもならない単なる言い訳と堕した「米田家の呪い」というキーフレーズ

橋本環奈(写真:サイゾー)
橋本環奈(写真:サイゾー)

 太陽の塔はいいですよね。たぶん子どものころに一度見ていると思うけど、その記憶はほとんどなくて、大人になって初めて見たのはノーランの『ダンケルク』(17)の上映を見に行ったときでした。オリジナルサイズのIMAXで見られるのが日本で唯一エキスポシティの109シネマしかなくて、ふざけ半分で1人で行ったんですよ、東京から飛行機で。日帰りで。

『おむすび』松平健をスベらせるな

 結局、映画のほかには万博公園しか行かなかったけど、太陽の塔がホントにカッコよくてね。思わずキーホルダー買っちゃったもん。IMAXのほうは、東京の普通の劇場で見たやつとの違いは正直あんまりよくわかりませんでした。大迫力ではあったけどね。

 でもまぁ、「『ダンケルク』見るためだけに万博公園行ったなぁ」なんつって、こうしてたまに鑑賞者としてのしょーもない自己顕示欲を満たせるわけですから、数万円使った価値はあったんだろうなと思います。

 さて、NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』ですが、今日もトンチキなお話でしたねえ。どうします? 振り返ります? 第103回、やっときましょうか。

これは「詐欺に遭った」でいいんだよな

 たぶん詐欺じゃないんだろうな、何しろ大鶴義丹だし、コマツバラって役名もセリフで言ってるし。こっからいい話に持ってくのも難儀だと思うけど、まあいいや。

「父親である永吉(松平健)が金を使い込んだから大学に行けなかった」ことか、もしくは「父親が大学に行く金を何に使ったのか言わない」ことか、そのどちらかに積年の恨みを募らせていた結パパこと聖人さん(北村有起哉)。こんなときはだいたい主人公の結さん(橋本環奈)が解決するのが世の常ですので、今回も結さんがママ(麻生久美子)に「私に任せて」と言い、永吉さんの妻であるばあば(宮崎美子)を籠絡してその秘密をつかみました。

 秘密の中身以前に、なんだこの段取りは、と思っちゃうんですよ。ドラマにおける秘密の暴露って、いわゆる感情の臨界点じゃないですか。40年以上秘密にしていたことが暴かれるわけです。40年分の思いを破壊するだけのパワー、説得力というものがほしくなるわけです。

 もう結さんに手柄を渡すことには異存ないです。そうしたければ、そうすればいい。せめてちゃんと手柄を立てるだけの行動を演出してやってほしいんです。

 じいじと対峙させろって話です。ばあばに話を聞いてからでもいいよ。

結「聞いたよ」

永吉「そうか……」

 そういうシーンを作れんもんかね。溺愛していた孫娘が30歳近くになって、じいじも生い先が短いことを自覚し始めて、大人同士の関係というものを描けんもんかね、と思うんです。

 なんかずっと、結という人物を成長させることから逃げてるんだよな。これ、今さら言うけど橋本環奈はホントに被害者だと思う。今回は、あまりにも制作陣に恵まれなかった。魅力を引き出してもらえなかったと思うし、昨日も今日も29歳の女性を演じさせてもらえてない。1000年に1人の国民的美少女が「バインダー妖怪」とか呼ばれてんだぜ。少しは責任を感じてほしいものですよ。

 で、その暴かれた秘密についてもボンヤリした話でした。昭和51年の岐阜の水害に遭遇したじいじが、家を失った被災者に金を無心されて「半年後に返済する」という口約束を信じて貸してやったんだという。家に電話して、ばあばに振り込ませたと。

 どういう夫婦関係なのよ。ばあばだって、聖人が大学に行きたがってたことは知ってたんだよな? 「このお金だけはダメです」「息子のためのお金です」って言ってないの? そんでじいじに「よかばい! 振り込めばい!」って電話口で怒鳴られたとしても、そういう時代だったとしてもだよ、40年たった後に、あんなふうに「永吉さんだからしょうがない」みたいな他人事として話しますかね。「今となっては、もっと断固として拒否すればよかった」という後悔は微塵もないんですかね。この夫婦の判断によって息子と夫が断絶してるわけですよ。ばあばだって、その責任の一端をずっと引きずって生きるのが大人の振る舞いじゃないのかね。

 こうなってくると、「米田家の呪い」というフレーズそのものが身勝手で場当たり的な判断によって他者を犠牲にすることに対する自己正当化、「自分の哲学に基づいた行動ではなく、あくまで呪いによるものである」という他責思考、その言い訳としてしか作用しなくなってくるんです。「呪い」という言葉に疑問を抱いた花ちゃんへの説明も、まったく説明になっていない。子ども騙しにもならない。

 そういうフレーズをドラマのド真ん中に置いていることに対して、もう率直に「つまんねえ」と言っているのです。

結さん半休撤回問題

 ともあれ家族みんなで万博公園に行こうと約束をし、神戸に集合した米田家一同。結さんもお昼までで半休を取って、大阪の病院から直行することになっていました。

 いやこれ、翔也(佐野勇斗)と花ちゃんも大阪の自宅から直行でよくない? この日までじいじとばあばも大阪だよねえ。お弁当作りも大阪の翔也宅でやればよくない? なんでわざわざ4人で逆方向の神戸まで来てんのよ。アユ(仲里依紗)をワンタッチさせるにはここに集合させるしかないんだけど、アユが顔を出す必然性も今日のところは特に見当たらないし、もうわけがわからない。

 その結さんは昼前、上がりしなに例の妊婦さんに呼び出されて「お母さんの味噌汁」を所望される。パパカレーのときと同じ、雑なレシピを出入り業者に押し付けて、また業務外で味の再現をさせようとしている。作るのは柿沼。「患者のため」なんてきれいごとを言ってるけど、やってることは権力勾配にかまけたパワハラでしかない。結さんはもちろん、マリ科長の「してやったり」の顔も醜悪至極。

 半休撤回を翔也に告げる会話も変です。

翔也「なんかあったんか?」

結「患者さんのために今うちができることをしたいんよ、やけんごめん」

 会話になってないじゃん。この夫婦、大丈夫かよ。電話のシーンの間に、特にカット割りもなく「行間」が発生してるってことなの? こういう、やろうとしてることがシナリオで実現できてないのもストレスなんです。ホントにプロかよって思っちゃう。結さんの発言、いらんのよここ。

<電話>

翔也「なんかあったんか? ……うん、そうか、うん、わかった」

<電話切る>

永吉「どうした?」

翔也「結が来れなくなった、仕事だって」

永吉「なんば言いよっとか! ××××!!」

翔也「患者さんのために今できることをしたいって」

聖人「そうか、ならしゃーない」

 です。

 あと、特定の患者のために半休を返上することを美談として語るのはホントにダメ。これ星河時代に育休から戻るのをためらう描写もあったけど、あれと同じで、労働者の権利とその獲得に至る闘争を何だと思ってるのか。頼むよ、公共放送。

 万博公園へのピクニックについては、結が来ないのでじいじとパパの2人で行くことに。家で弁当食ってる花ちゃんがかわいそうすぎて泣けてくるよ。「永吉さんは本当は聖人と2人で行きたい」のは別にいいけど、あんなに楽しみにしてた家族を置き去りにする理由にはならんでしょう。

 主役のハシカンだけならまだしも、いよいよ濱田マリや宮崎美子までクソに塗れさせてしまった『おむすび』案件。どうすんのこれ。かろうじて、翔也と花ちゃんがストレッチしてるシーンだけが救いだったね。2人で強く楽しく生きていってほしい。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

◎どらまっ子AKIちゃんの『おむすび』全話レビューを無料公開しています
第1話~第56話
第57話~

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/02/26 14:00