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『おむすび』第111回 「社会経験ないんか」という作り手への疑問が「ドラマ見たことないんか」になっていく

橋本環奈(写真:GettyImagesより)
橋本環奈(写真:GettyImagesより)

 なっちゃん役の田畑志真さん、まだ19歳だそうですね。ちゃんと30歳に見えるお芝居をしていて、すごいなぁと思いました。合コン女子大生だったころは、ちゃんと合コン女子大生に見えたもんな。われらがハシカン大先生にもがんばってほしいところです。

『おむすび』ムカつく理由

 ところで、先週のお弁当エピソードでのなっちゃんの“無能化”について、木曜日のYahoo!ニュースでいつもの統括さんが例によって釈明に追われていましたね。

 なっちゃんの頭の中からスイーツ開発の記憶がすっぽり抜け落ち、コスト管理も工場との折衝も何もかもできなくなっちゃってたことについて、統括さんいわく、NHK局内の試写会でも同様の声が上がっていたんだそうです。

「後出しではいくらでも言えますが、言われてみれば当たり前のことに気付かないことも現実にはあります。特に若い時には。すなわち“知悉(ちしつ)してはいない”ということですよね。その中で、まったく違う視点からの発想に、彼女たち自身の目線で気がついていく。それをきちんと受けて吸収していく、という姿を描きたいと。登場人物にはそういう人になってほしいという思いがありますので、そのあたりを大事に脚本を作っていきました」

 また「あえて」のようです。なんというか、そろそろことわざになりそうな気すらしてきましたね。例えばラーメン屋でギョウザを注文したら、生焼けで出てきたとしましょう。バイトくんに「これ生焼けだけど」と言って皿を突き返したら、店長が出てきて「あえて焼きませんでした。丁寧に、大事に包んでいます」と釈明する。そんなとき、私たちはこう言うのです。

「そういう問題じゃないだろ、『おむすび』の統括コメントじゃないんだから」

 だいたいね「現実にはあります」なんてドラマの作り手が言っちゃいけないんですよ。空からカエルが降ってくることだって、現実にはあります。将棋の藤井聡太やプロ野球の大谷翔平のキャリアだって、フィクションの中で描いたら「空からカエル」レベルのトンチキです。あくまで作中でリアリティを出せるかどうか、本当にその世界の中に「なっちゃん」という人が実在するかのように思わせることができるかどうかが、ドラマという媒体の勝負なんです。視聴者がなっちゃんを好きになるかどうかは、その先の話です。

 統括さんの言う「知悉していない」という人物像と、大手コンビニでスイーツ開発を成功させたという実績のアンバランスを見て、私たちは「こりゃ食えん」と言っている。可能性の問題じゃないんだよ。

 とはいえ、試写会でこの件を指摘する声が上がっていたことには少し安心しますね。次作以降に生かしてほしい。ハードル下がり切ってんな。

 というわけで、ハードル下げ切っていきましょう、NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』第111回は、いよいよコロナ編のスタート。振り返りましょう。

「社会経験ないんか」という問い

 お弁当開発の結果、大手コンビニにスカウトされちゃった結さん(橋本環奈)。この時点で、このドラマの作り手に対して1万回目の「社会経験ないんか」が発動してしまうわけですが、結さん、どうやらその話を職場に共有しているようですね。

 コロナ初期、栄養科のみなさんは結さんがコンビニに転職するかどうかの話をしている。

 こういう話、普通の職場ではおおっぴらにやるもんじゃないんです。もう「社会経験ないんか」を通り越して、「ドラマとか見たことないんか」までいってしまう非常識ぶり。この人材の引き抜きが、社会通念上コンビニ側から病院への不当なディールであることになんて、まったく思いが及んでいないのでしょう。

 ここで、石田っちの「米田先輩、辞めちゃうんですか」という先週の予告にあったセリフが飛び出します。予告ではこれに結さんの「本当にごめんなさい」というセリフが続いていたわけですが、こういう予告詐欺みたいなのも下品だからやめたほうがいいと思うよ。

 続いて、家で花ちゃんが「花、ママが考えたお弁当食べたい」と言うシーン。「いつも食べてるんちゃうんか、やっぱり家でごはん作ってないんか」というツッコミはさておき、いつの間にか「コンビニへの転職=お弁当の企画を考案する」という定義になっているのもおかしいんです。

「そんな簡単やないんよ」「一個のお弁当開発するのに、すごい時間かかったんやけん」と結さんは言いますが、そんなのは転職を悩む理由にはならないんです。コンビニ側はあなたを「開発部長」として迎えようというわけではない。あくまで栄養士として、企画を栄養面からサポートする役割を求めていることは明らかです。

 こうしてちぐはぐな転職エピソードが進んでいくわけですが、なんでこんな面倒くさい転職話をやってるのかな、と考えるわけです。スカウトの時点で不自然だし、その後の全員の言い草も不自然に不自然を重ねている。

 そこまでして、なんで結さんを転職に悩ませたいのか。

 これ、たぶんだけど「さすが結さん」をやりたいんですよね。『おむすび』といえど、コロナ禍という大規模なアポカリプスの中でイチ管理栄養士の結さんに手柄を立てさせるのは、なかなか難儀だと考えたのでしょう。ギャルマインドで押し通したり、誰かの「親と同じ味」を柿沼に再現させるくらいじゃ、なんの解決にもならない。

 だから「病院にいる」こと、そのものに価値を付けようとしているんだと思うんです。

 おいしい転職話を断って、患者さんのために病院に残る。さすが結さん、優しいね。この期に及んでも「結さんアゲ」というコンセプトを死守してくるあたり、もはや逆に感心してしまいますし、かすかに残っていた「コロナくらいちゃんと描くのでは」という期待も霧散していくしかありません。もう「コロナ」というお題で「結さんをどうアゲるか」しか考えていないことが明らかになってる。

整体師が蕎麦屋の空き店舗で子ども食堂

 どういう意味? その空き店舗は誰の持ち物なの? 市役所の若ちゃんより前に地権者はどう言ってるの? 商店街の真ん中って言ってるけど、いつから、どうして空いてるの?

 別にご都合主義を全否定するわけじゃないけど、少なくとも『おむすび』は、ハシカン不在の2週間を費やしてショッピングセンターができて商店街の人の流れがどうこうとか、ナベべ(緒形直人)が店を売却してどうこうとか、そういう話をやってきたドラマなんです。

 それが、ここにきて「商店街の真ん中の空き店舗」を登場させて、関係性もよくわからない整体師が子ども食堂の企画を立ち上げている。「子ども食堂」というトレンドを挿入したいだけ、その企画をコロナで潰したいだけというのはよくわかるけど、こういう安易な設定を持ち出すことで過去の商店街の闘争エピソードが全部チャラになっちゃうんです。やっぱり真面目にやってなかったんだな、というのがわかっちゃう。ハナから真面目に作っていたなんて思ってないけど、わざわざドラマ側から念押ししてくることはないだろって。

 ほかも今日はバラバラだったな。なんか疲れちゃった。

 結さんが「顔が怖い」くだりもなかったことになって、知らない患者とにこやかに話しているし、パパ(北村有起哉)はママ(麻生久美子)に、ママが提案してきた理髪コンテストについて「これどう思う?」って聞いてるし、そのママがイチゴ栽培について興味があると言い出したときの「イチゴ栽培って、どこでやるんや」「わかんないけど、それを考えるのも楽しいの」という会話も変だし、そりゃ糸島だろうし、再び理髪業への思いをたぎらせ始めた夫にイチゴ栽培の提案をして「2人でいろんなことに挑戦しよ」と言ってるのも腑に落ちない。

 それに続く「ママ→糸島」「結一家3人→神戸」「アユ→事務所」という拠点の配置換えも無理やりだし、この席に花ちゃんがいないのはマジで意味がわからないし、もはやこうして月曜日に雑にばらまかれた要素が金曜日に回収されるのを待つ、という、単なる作業になってきましたね。人の感情も、描かれる世界の設定も、何もつながっていない中にコロナという劇薬が投じられることになる。これまで以上にストレスフルな1週間になりそうですが、張り切っていきましょう!

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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第1話~第56話
第57話~

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/03/10 14:00