CYZO ONLINE > 芸能ニュース > 世間を挑発し続ける映像作家・足立正生監督インタビュー

世間を挑発し続ける映像作家・足立正生監督インタビュー 「逃げ通すという、極限的な戦い」描いた映画『逃走』公開

世間を挑発し続ける映像作家・足立正生監督インタビュー 「逃げ通すという、極限的な戦い」描いた映画『逃走』公開の画像1
『逃走』 ©「逃走」制作プロジェクト2025

 御年85歳のここへ来て、世間をザワつかせる問題作を立て続けに発表している映画監督・足立正生。その最新作『逃走』が、来たる3月15日から公開される。今際の際に自ら本名を名乗って死んでいった桐島聡の49年にも及んだ逃走劇に、元日本赤軍という異色の経歴をもつ映像作家は、何を感じ、何を見たのか。入魂の一作に込めた思いの丈をうかがった。

世間を挑発し続ける映像作家・足立正生監督インタビュー 「逃げ通すという、極限的な戦い」描いた映画『逃走』公開の画像2
足立正生(写真:新越谷ノリヲ)

<プロフィール>
足立正生(あだち・まさお)
1939年5月13日生まれ。福岡県出身。日大藝術学部を中退後、若松孝二に師事。71年には、カンヌ国際映画祭の帰国途上でパレスチナに渡り、現地で共闘したパレスチナ解放人民戦線を題材に『赤軍ーPFLP 世界戦争宣言』を発表する。74年には日本赤軍へと合流して、国際手配。逮捕されたレバノンで3年の禁固刑に服して、00年に帰国した。22年の安倍晋三銃撃事件を題材にした前作『REVOLUTION+1』でも賛否両論を巻き起こして、大きな話題に。

世間を挑発し続ける映像作家・足立正生監督インタビュー 「逃げ通すという、極限的な戦い」描いた映画『逃走』公開の画像3
『逃走』場面写真 ©「逃走」制作プロジェクト2025

描きたかったのは桐島の孤独な「闘い」

――映画『逃走』は、1974~75年の連続企業爆破事件から、およそ半世紀にもわたって市井に潜伏をし続けた桐島聡を主人公にした物語です。同じ時代を生きてきた活動家のひとりでもある足立監督とすれば、やはりそこには「自分が撮らなければ」という使命感のようなものも?

足立 メディアによって情報化が進むと、多かれ少なかれ、事件の実相はぐちゃぐちゃになっていきますからね。そうなるまえに、自分が感じた、あるいは理解した、彼=桐島についての意見を早く言いたい。彼が主張したかったことに寄り添った作品を、なるべく即効性のある形で世に出したい。そういう思いは明確にありました。まして今回の作品は、死んだ彼に対するレクイエムの意味もある。だからまぁ、諸々あって、このタイミングでの公開にはなりましたが、本来であれば、(1月29日の)命日を迎えるまえに出したかったぐらいです。

――小回りの利く低予算作品とはいえ、当該の出来事からたった1年あまりでそれを題材にした劇映画の公開にまで漕ぎつけるのは、異例のスピードでもありますよね。

足立 山上徹也をモデルにした前作『REVOLUTION+1』のときもそうでしたけど、今回に関しても、具体的に動き出したのは、死に際に本名を名乗った、というのを聞いてすぐ。昨夏にはもう、撮影も終わっていたんです。この夏には、同じ題材の『桐島です』(高橋伴明監督/7月4日公開)も公開されるようだけど、実際、ある会合で偶然一緒になった脚本家の梶原阿貴さんから、「今度、桐島やるんです」と聞かされたときには、こちらはすでに脚本も書き上げていたからね(笑)。

――本編を拝見すると、結果として逃げおおせた格好となった桐島に対する「羨望」のようなまなざしも、個人的には感じました。実際問題、監督ご自身がもっとも作品に込めたかった思いというのは?

足立 それはやっぱり、彼が「闘った」ということ。これに尽きますよ。もちろんそこには、多少なりとも自己顕示欲もあっただろうし、それは獄中にいる黒川芳正やなんかも何かで指摘していたけれど、でも、わざわざここへ来て、本人であるということを名乗り出たというのは「捕まらなかった」とか、そんな単純な思いだけではおそらくない。私がもし彼の立場ならば、「黒川、おまえみたいなパクられたやつのぶんまで俺は逃げていたんだ。それがわからないのか」って。それぐらいのことはきっと言いたかったんじゃないのかな、って。

世間を挑発し続ける映像作家・足立正生監督インタビュー 「逃げ通すという、極限的な戦い」描いた映画『逃走』公開の画像4
『逃走』場面写真 ©「逃走」制作プロジェクト2025

想像を絶する逃亡生活へのリスペクト

――ある種、“名乗り”は、人知れずひとり続けてきた闘争に対する勝利宣言でもあったのでしょうか。

足立 それ以上だったと思う。そもそも桐島は、黒川、宇賀神(寿一)らと、間組(現・安藤ハザマ)爆破事件を起こした「さそり」の一員ではあるんだけど、それと前後して起こった同種の事件とは、ほぼ無関係。同じ東アジア反日武装戦線内の「狼」や「大地の牙」の主要メンバーが、のちに日本赤軍と合流したことをもって、「事件は確定できていないから時効は成立しない」とされているだけで、彼自身が直接的に関わった事件に関してだけ言うなら、実は15年後の89年の時点で時効は成立していて然るべき。逃亡中のメンバーと共犯関係にあるというのは、世間にそう思わせたい警察当局が勝手に言っているだけで、本来的には“冤罪手配”でもあるんだよね。

――確かに、メンバーのなかで唯一前科のなかった桐島は、彼の死後に寄せられた黒川受刑者による獄中からの手紙によっても、「韓産研(オリエンタルメタル社・韓産研爆破事件)への容疑は100%冤罪。桐島が実行したのは間組本社と間組作業所のみ」と、中心メンバーではなかったことが示唆されています。それだけに、客観的には「なぜそうまでして、彼は逃げ続けたのか」という思いは拭えないわけですが…。

足立 だからこそ私は、本来の時効である15年が過ぎて以降の彼の潜伏というのは、これはもう明確に「闘い」だったと思うわけです。15年も経てば警戒心も少しは薄れそうなものなのに、それを解くような素振りはその後も彼にはいっさいない。そのあたりの徹底ぶりからも、「他のやつのぶんまで俺が引き受ける」という強い思いが見てとれる。もはや対警察という点においても「逃げる」「追いかける」といった次元を突き抜けてしまっていたとさえ思うよね。

――もし監督が同じ立場でも、半世紀近くも潜伏するなんてことはできませんか?

足立 私も海外出張を30年くらいやって、国際手配までされた身の上ですけど、ひとくちに「逃亡」と言っても、私の場合は解放区のなかだったり、アラブ以外でも一応、自由に活動もできていましたからね。そういう意味でも、彼とはいかにも対比的。彼が潜伏していた神奈川の藤沢へ行って、私なりにリサーチも進めてみましたけど、名を偽って生きるのは本当に並大抵ではなかったと思う。肩入れしすぎだと言われるかもしれないけど、活動家としてはデタラメだった私からすると、逃げ通す、なんていうその極限的な戦いには、もうリスペクトしかないですよ。

世間を挑発し続ける映像作家・足立正生監督インタビュー 「逃げ通すという、極限的な戦い」描いた映画『逃走』公開の画像5
『逃走』場面写真 ©「逃走」制作プロジェクト2025

何があっても若者のことは100%支持

――傍から見ると、監督自身も齢85にして、まだまだ現役でトガり続けていると言いますか。その言動からは権力に対するカウンターであり続けたい、という気概のようなものをヒシヒシと感じるわけですが、創作に対するその旺盛なモチベーションは、いったい何を源泉にしているのでしょう?

足立 端的に言うなら、「怒り」だろうね。だからいまだに、現在進行形で起こっている世界中のあらゆる事象に対して常に怒っていますよ。それこそ、TVニュースなんかを見てるともう、アナウンサーまで憎らしくなるぐらいに腹が立つしね。私がテレビでニュースを見始めたら、横に座っている人はたいていプイッといなくなりますよ。テレビに向かって好き放題に罵倒を始めたりしちゃうから(笑)。

――足立監督の若かりし頃に比べると、現代の若者は総じて、世のなかに対して関心が薄いとも言われます。その怒りの矛先が、いわゆる“Z世代”の「近頃の若いもん」に向かうことも?

足立 いやむしろ、たとえ間違っていようが、クソみたいなことを言っていようが、若者のことは100%支持する、というのが私のスタンス。すでに歴史が証明しているように、どんなに時代が移ろいでも、段階ごとに同じことを繰り返すのが若者ってものだとも思うしね。彼らからの批判は、前時代の人間たるわれわれが甘んじて受けざるを得ない。合理化がどんどん進んでいく社会のなかで、昔よりはるかに苦しい状況に置かれている彼らのことを思えば、大げさじゃなく「キミたちのクソ小便だって、俺は食うぞ」という心持ちにすらなるからね。

――とはいえ、ちょうど山上徹也と同世代だったりもする“氷河期世代”のぼくらからすると、「アンタらがちゃんと“総括”しなかったせいで、いまどうしようもなくなってるんじゃないか」との思いもあります。

足立 それは確かにそうかもしれない。でもね、私は全共闘より少し上の世代だけど、そもそも論で言うなら、彼らの多くもべつに「自分は革命家だ」なんて思ってない。学園闘争にしたって、「社会の変革」をテーマとしては掲げてはいたけど、その根源にあったものが何かと言ったら、個々がもつ正義感でしかないからね。そういうふつうの学生がそれぞれにもつ正義感から純粋に立ち上がった、というのが全共闘のよさであり、強さでもあったんだよ。桐島にしても、元をただせば、活動家でもなんでもなく、ただバンドをやりたかっただけの男だったわけだしね。

――つまり、結束力の弱い個の集合体だったからこそ、志半ばで瓦解することにもなったと?

足立 いやいや、革命なんてものは、個の集合体からしか起こりえないものだと、私は思ってるから。ただ、学生たちだけでやっているうちはよかったけど、もっと大きなものを目指そうと思ったら、どうしたって外から入ってくる人たちとの協働も必要になる。その仕方を作れなかったというのは、やっぱりムーブメントが萎んでいった“敗因”としてはひとつ大きいよね。それこそ、党派性が露骨に介入するようになってからは、やれ、革共同(革命的共産主義者同盟/のちに中核派と革マル派などに分裂)に入れだなんだと、さながら草刈り場のようにもなったしね。

世間を挑発し続ける映像作家・足立正生監督インタビュー 「逃げ通すという、極限的な戦い」描いた映画『逃走』公開の画像6
『逃走』場面写真 ©「逃走」制作プロジェクト2025

世間に対する“挑発家”であり続けたい

――では最後に、そんな抗い続ける足立監督から、次代を背負う世代にいまだからこそ伝えたいことはありますか?

足立 なんだかんだと言っても、私は人々の力はすごいと、いまでも心底思っているから。だからこそ、あなた方より若い世代の人たちが生きやすい社会にしていくためにも、「近頃の若者は~」なんて言葉でお茶を濁してサボるのはやめようよ、ということは、声を大にして言いたいね。私にできるのはせいぜい、世間を挑発するくらいのこと。ここまで来たら、桐島の遺志を継いで、残りの人生は“挑発家”として生きていけたら本望だね。

――昨今はなんでも切り取られるご時世ですから、「遺志を継いで」なんて言うとヘンな誤解を招きますよ?(笑)

足立 もちろん、桐島のように爆弾を作ってやろうとか、もう一度、飛行機を盗んでやろうなんてことは、いまさらありえないわけでね(笑)。とにもかくにも今後も世間を挑発していく。若者たちとは徹底的に対話をし続ける。これ以外に道はないんじゃないかな。だからこそ、若い人たちにこそ、今回の『逃走』はぜひ観てほしい。そのうえで彼=桐島が下した「逃げる」という決断の意味を、あらためてディスカッションできたらうれしいね。

――目下、SNSを発端とした“財務省解体デモ”などは、右左の思想の別なく全国的な広がりを見せていますし、最近では1000台ものトラクターがロンドンに集結したイギリスにならった“令和の百姓一揆”なんて動きも出てきている。監督のおっしゃる通り、人々の力もまだまだ捨てたもんじゃないのかもしれませんね。

足立 まぁ、日本の抗議デモはちょっと行儀がよすぎるとは思うけどね。私らの若い頃は、機動隊に左右からサンドイッチにされることはあっても、「信号で止まれ」と言われて律儀に止まるやつは誰もいやしなかった。基本的人権、表現の自由の範疇で認められているデモが、信号ごとにズタズタに分断される国なんてのは、間違いなく日本だけ。国としてはすでにイスラエル支持を表明しているフランスだって、国鉄の労組が「パレスチナ虐殺反対」の集会をやるとなったら、駅の機能を止めてまでそこを会場にしちゃうからね。デモってのは、本来はそうあるべきもののはずなんだよ。

――ぜひそのあたりから挑発、アジテーションしていってください。

足立 そうしたいところだけど、私自身はデモに行くのを禁止されているんだよ。行くと、すぐ熱くなって「オマワリ、てめぇこの野郎」とかってやっちゃうから(笑)。ただまぁ、そうやって社会に「不穏分子はあらかじめ取り締まってしまえ」という空気が醸成されて、デモひとつ満足にできない世のなかになっているのも、私ら活動家が飛行機を盗んだり、大使館を占拠したりと、散々やってきたせいでもある。そこは私自身の総括として、反省もしなきゃいけないね。
(文=鈴木長月)

世間を挑発し続ける映像作家・足立正生監督インタビュー 「逃げ通すという、極限的な戦い」描いた映画『逃走』公開の画像7

『逃走』
©「逃走」制作プロジェクト2025
2025年3月15日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

映画『逃走』公式サイトはコチラ

監督・脚本:足立正生
出演:古舘寛治  杉田雷麟 中村映里子

企画:足立組 
エグゼクティブプロデューサー:平野悠 統括プロデュ―サー:小林三四郎 
アソシエイトプロデュ―サー:加藤梅造 ラインプロデューサー:藤原恵美子 音楽:大友良英
撮影監督:山崎裕 録音:大竹修二 美術:黒川通利 スタイリスト:網野正和 ヘアメイク:清水美穂
編集:蛭田智子 スチール:西垣内牧子 題字:赤松陽構造 キャスティング:新井康太 
挿入曲:「DANCING古事記」(山下洋輔トリオ)
本編:114分

【2025年|日本|DCP|5.1ch|114分】(英題:ESCAPE)©「逃走」制作プロジェクト2025 
配給・制作:太秦  製作:LOFT CINEMA 太秦 足立組

最終更新:2025/03/14 09:00