『おむすび』第118回 大枠で何をやってるのかわからない、細部でめちゃくちゃに気持ち悪い

イライラするのは、今週登場した詩ちゃんという「マキちゃん似の謎の少女」、その「謎」に視聴者が興味を持っているだろうと決め込んで作劇していることなんだよな。そういうところ、すごく見る側に甘えていると感じるんです。
持ってないよ、興味。この子の過去に何があったんだろう、なんでご飯を食べないんだろうって、別に心配にもならないし、そもそも知らないんだもん。
あと「死んだ誰かに似てる」っていう設定でドラマを生もうとしていること自体も、けっこう不快です。作り手側の「似てる」でもって田原詩という人物に興味を持ってほしいというスタンスは、この子にすごく失礼だと思うの。ノの字、キャバクラで嬢に「元カレに似てる」とか「パパに似てる」とか言われると喜ぶタイプなのかな。単純だな。それって、バカにされてるんだけどな。
というわけで、今回もおもしろいかおもしろくないかでいえば、超おもしろくなかったNHK朝の連続テレビ小説『おむすび』第117回、振り返りましょう。
大枠が見えん
もう残り8回だし、なるべく細部へのツッコミじゃなく100回以上の放送を受けた大枠の話をしたい段階なんですが、ここにきてまったく大枠が見えないのよな。最終回に向けて何をやりたいのか、マジでわかんない。だからもう、シーンひとつひとつの話をしていくしかない。レビュアーとして忸怩たる思いです。
備品庫、今にもくたばりそうな詩ちゃんの横顔を見据える花ちゃん、母親譲りの顔面圧をかけてきて、かなり怖いです。考えてみれば、この子が親族以外の友だちと話しているところを一度も見たことがないので、他人とどういうコミュニケーションを取る人間なのか全然知らないわ。何かの都合でサッカーのシーンが撮れなかったのは仕方ないにしても、ヨネダでなっちゃんあたりと仲良く話をする場面くらい挟んでおけばよかったね、と思いました。
「なあ、病室に戻らんでええの?」
おまえがここに引き入れたんだろ。
「抜け出すって、ホンマに大丈夫なんかなぁ」
大丈夫なわけないだろ。
「これやってるとき、めっちゃ楽しいってことある?」
ズケズケ距離詰めてくんな、うっとおしい。
「歌うの好きなん、じゃあ将来は歌手やねえ」
おせっかいババァか。「アンタ将来は吉本やねえ」か。
「やってみんとわからんと思うけど」
無責任なこと言ってんな。
「もしもし! お母さん! 助けて!」
スマホ持ってたんかい、じゃそのお母さんはなんで息を切らして走り回ってたんだよ。あと、病院内を走るのはやめましょう。
えーっと、役者は全然悪くないです。2人ともオーダーに応えようと必死にお芝居をしてたと思う。ここで必要だったのは「詩ちゃんは歌が好き」という情報の開示だったんだと思うけど、お話を詰め込むために関係性の薄い2人の会話でこの開示作業をやってしまうから、無理が生じるんです。特に詩ちゃん役の子は難しかったと思うし、「まあ、歌うことかな」というセリフは納得してないだろうなー。大丈夫です、こんなのちゃんと言える人いないよ、書いたやつが悪い。
結果的に詩ちゃんの命を危険にさらすことになった花ちゃんの行動を父の翔也がたしなめている、それを遮って「えらかったよ、よく助けてあげたね」と頭ポンポンするババァ(麻生久美子)とジジィ(北村有起哉)は耄碌しきってんな。この備品庫のくだり、動機も行動原理も会話も最初から最後まで何も成立してなくてホントに嫌になっちゃった。
あと、そういえば、そもそも結さんと翔也(佐野勇斗)と結さん(橋本環奈)の恋愛も、関係性が薄いのに急に結さんが震災エピソードを披露したことから始まってたな。そういうドラマだったわ。
先輩は? 先輩はどうしたの?
とりあえず「歌が好き」という属性を与えられた詩ちゃん、あいかわらずご飯を食べない理由はわかりませんが、担当の管理栄養士はパソコンで何か文字を打つだけであいかわらず常食を出してくるし、プリンがダメならゼリーだろと子ども扱いしてくるしで話す気にもならない様子。さっさとどっかに行ってほしいところですが、執拗に付きまといをやめません。
その栄養士がめざとく見つけた手鏡、どう見ても100円ショップのやつですが、ロゴと鋲飾りから「KOG」製であることがわかります。これアユ(仲里依紗)はいくらで売ってんだろ。
その手鏡は、詩ちゃんのプリで埋め尽くされていました。笑顔あふれる中学生たちと「ズッ友」の文字は卒業式に撮ったもののようです。
そうか、友だちいたのか。このときが確か12月だから、9カ月前までは楽しくやってたのね。
で、第116回にNSTのナースから説明があった個人情報を見返してみると、2週間前に大阪の先輩を頼ってきて、途中でスマホと財布を盗まれて、繁華街で行き倒れていた。
入院して、警察を通して身元もわかった。このつきまとい管理栄養士にお願いしたいのは、どうかその「大阪の先輩」に連絡を取ってほしいということなんです。鏡の修理なんか後でいいです。現状、唯一連絡先がわかって、詩ちゃんが頼りにできるのはその先輩でしょう。スマホが盗まれたから連絡先がわからないなんて話は通らないですよ。iCloud、Androidは知らんけど、たぶんクラウドバックアップシステムはあるでしょう。令和5年末、連絡先の復元なんてたやすいはずです。
いかにも「心配しています」という顔をしながら、詩ちゃんのためにできることを全力で考えようとしない。そういうところ、この管理栄養士を信用できないんですよ。むしろこの詩ちゃんという「マキちゃん似の子」を世間から隔離して私物化しようとしているように見えてしまう。何のために? ノの字が話をおもしろくするためにそう仕向けている。それがバレてるからおもしろくないのです。
愛子さん、まるで成長していない
また家出ですかぁ? あんたも18のころから成長してへんな。
この展開も大筋として意図がよくわからん中に、細部の気持ち悪さが満ちあふれていました。
糸島から野菜を送ってきた佳代さん(宮崎美子)の手紙、こう締めくくられています。
「歩と結、花ちゃんにもよろしくね(ハート)あと聖人にも」
もうひとり家族がいること、お忘れですか? もう80くらいだろうし、愛子が心配するのも無理ないな。翔也もたまには顔出して、存在を思い出させてやってください。
早朝に書き置きを残して家出した愛子、その書き置きを見つけた聖人はすぐさま結さんに電話を掛けます。ダルそうに対応する結さん。
「こんな朝早くになん? はぁー……」
ガンサバイバーの父親が早朝に電話をかけてきたんですよ。こんなの、着信画面を見た瞬間に「何!? 誰か死んだ!?」ってなるんですよ、令和5年、電話ってそういう存在です。こういう常識のズレは、何度見ても慣れないんだよな。ノの字、どういう生活してんのかって、びっくりしちゃう。この人、どれだけ非常識のバリエーションを持ってるんだろう。
あと、これは明言されてないけど、アユは両親と同居だよな。聖人はまずアユを叩き起こして、それから2人で結に電話でしょう。
『おむすび』というドラマで、特に米田家という家庭にはずっと「薄情」という印象がついて回ります。やってることは情に厚いのに、ひとつひとつの言動、行動がどこまでも薄情なんです。
そうなってしまうにはやっぱり原因があって、これ、あんま言いたくないけど、シンプルに脚本がド下手なんだと思うんだよな。家族への愛情を描いてないんじゃなく、愛情を描く技術がない、描くべきシーンを取捨選択する能力がないということだと思う。これをやったら見る側が不快に思うだろう、違和感を抱くだろうという、想像力がない。
さて、あと7回です、どうなることやら。
(文=どらまっ子AKIちゃん)