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後藤まりこインタビュー「最近まで歌詞は意味よりも聴こえ方や歌っていて気持ちええかどうかを重視していた」

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後藤まりこ/撮影=西邑泰和

 唯一無二の歌声とソングライティング、過激なパフォーマンスを武器に数々の伝説を残す一方で、舞台「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」で森山未來の相手役を演じ、テレビ東京の深夜ドラマ「たべるダケ」では主演を務めるなど俳優としても活躍する後藤まりこ。3月29日(土)より公開の映画『ボールド アズ、君。』で、カリスマ的な存在感を放つロックバンドのボーカルを演じる彼女に本作の撮影エピソードや音楽を始めたきっかけなどを中心に話を聞いた。

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© 2024「ボールドアズ、君。」製作委員会


『ボールド アズ、君。』
3月29日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開

出演:伊集院香織(みるきーうぇい) 後藤まりこ
刄田綴色(東京事変) 津田寛治
監督・脚本・音楽・編集:岡本崇
製作:コココロ制作 配給:Cinemago

公式サイト:https://kokokoromovie.com/boldaskimi/
公式X:https://x.com/kokokoromovie
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© 2024「ボールドアズ、君。」製作委員会

人付き合いが苦手な南條珠(なんじょう・たま/伊集院香織)は、小学生の頃からシネコンとは一線を画すこだわりのラインアップのミニシアターを自分の居場所としていて、支配人の井澤雄一郎(いさわ・ゆういちろう/津田寛治)を神様と呼んで慕っている。そんな珠にとって、ロックバンド“翳(かげ)ラズ”のボーカル・瓶子結衣子(へいし・ゆいこ/後藤まりこ)はもう一人の自分を救ってくれた神様。中古ギターを入手して、スーパーギターバトルで優勝するほどの実力になるも、さらに上を目指して練習する日々。翳ラズの記事を読み、次の翳ラズのライブチケットは必ず入手すると決意を新たにする。そんなある日、珠がバイトをする居酒屋に、たまたま瓶子結衣子がやってきて、珠がアップした“弾いてみた動画”を見ていたことが発覚。珠は「翳ラズと同じステージに立って直接お礼を言うこと」を目標に、さらに動画制作に精を出すが、行きつけのミニシアターが翳ラズのライブのタイミングで閉館するということを知り……。

<プロフィール>
後藤まりこ
2003年に結成したバンド「ミドリ」でボーカルとギターを担当する。2007年メジャーデビュー。現在は「DJ後藤まりこ」「後藤まりこアコースティックviolencePOP」名義で音楽活動をしながら、楽曲提供をするなど活動の幅を広げている。俳優としてはロックミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」にて森山未來と共演する他、ドラマや映画でも唯一無二の存在感を放っている。

公式サイト:https://www.510yavai.com/
公式Instagram:https://www.instagram.com/510marik0/
X:https://x.com/510marik0
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCmI-oklucCz5RkaBcABsRrQ/featured

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撮影=西邑泰和

高校時代はジャニス・ジョプリンとあぶらだこにドハマリした

──どういう経緯で映画『ボールド アズ、君。』にご出演することになったのでしょうか。

後藤まりこ(以下、後藤) 岡本崇監督の長編映画デビュー作『ディスコーズハイ』(2022)に出演させていただいて、その流れでオファーをいただきました。前回は僕の音楽を聴いてくださって声をかけてくださったんですが、今回の『ボールド アズ、君。』では絶対にライブシーンを撮りたいと仰ってくれました。岡本監督は映画の人であり音楽の人でもあると思います。

──岡本監督自身、音楽活動を行う一方で、数多くのMV制作を行っていますからね。岡本監督の印象はいかがですか?

後藤 とても丁寧な方ですし、脚本や完成した映画を観ると、言いたいことがいっぱいあるんやろうなというのが、現場の雰囲気なども含めて感じました。映画のワチャワチャとした雰囲気が、岡本監督らしいんですよね。

──『ボールド アズ、君。』は岡本監督の「音楽や映画の作者の意図には関係なく救われた」という自分の経験を元に、“勝手に救われよう”をテーマに掲げています。

後藤 誰しも勝手に救われるという経験はあることで、みんな自分勝手だと思うので、それでいいと思っています。

──今回演じたロックバンド”翳(かげ)ラズ”のボーカル・瓶子結衣子(へいし・ゆいこ)役は、主人公の・南條珠(なんじょう・たま)にとって神様のような存在ですが、後藤さんへの当て書きなのかなと感じました。

後藤 どうなんでしょうね。ト書きが少なくてセリフが多いなというのが台本を読んだ印象で、岡本監督からは「好きなようにやってくれ」と言われました。今思えば、もっと映画として瓶子結衣子という役を演じるべきだったのかなという心残りがあります。確かに素の自分過ぎるなと思いました。

──珠は人付き合いが苦手で、ミニシアターが自分の居場所。ギターバトルで優勝するほどの実力を持ち、いつか翳ラズと同じステージに立つことを目標に奮闘します。そんな珠に共感する部分はありましたか。

後藤 共感する部分もありましたが、私はあんなに一生懸命な子じゃないです(笑)。僕も周囲に馴染めないことはありましたけど、それについては何とも思わなくて。その辺は分からない部分でした。

──珠のように、特定のミュージシャンに傾倒した経験はありますか?

後藤 高校生のときにジャニス・ジョプリンの『パール』を聴いて、ドハマリしました。周りの友達はHi-STANDARDなんかを聴いていて、当時は「何がいいの?」と思っていましたが、後にハイスタも好きになりました。あとは「あぶらだこ」というバンドに、すごく影響を受けました。高校生のときに『月盤』というアルバムを購入して、特に歌詞が良かったんです。それなのに歌詞を書いているボーカルの長谷川裕倫さんが、ライナーノーツに「吹けば飛ぶような私の歌詞が」みたいなことを書いていて。こんなに素晴らしい歌詞を書いているのに、なんて謙虚なんだと感銘を受けました。

──あぶらだこのライブを観に行くこともあったんですか。

後藤 当時はライブハウスって怖いというイメージがあって行けなかったですね。

──高校時代はジャニス・ジョプリンとあぶらだこに傾倒したと。

後藤 そうですね。自分の中で共通する何かがあったんでしょうね。珠ちゃんと同じで、ハマるとそればかり聴くんですよ。

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© 2024「ボールドアズ、君。」製作委員会

音楽好きが撮っているのが伝わってくるライブシーン

──冒頭に仰っていた翳ラズのライブシーンが本作の大きな見どころですが、お客さんの熱狂がリアルで臨場感がありました。

後藤 お客さんはエキストラではなく、実際このライブに来たいというお客さんに来てもらったんです。撮影中は気付かなかったんですが、完成した映画を観たら、普段僕のライブに来ている人たちがいっぱい映っていました(笑)。いつものライブと違って、演奏シーンは当て振りなので、自分の声がマイクから出ないことに少し違和感がありました。会場に流れていたのも事前に録音された音源なんですが、それでもバンドメンバー役の人たちのノリが良くて、僕もテンションが上がりました。

──珠を演じた伊集院香織さんと面識はあったのでしょうか。

後藤 香織ちゃんが「みるきーうぇい」というバンドをやっていて、関西で一度ご一緒させていただきました。ギターも上手いし、すごく真面目で。珠ちゃんの真面目さは、香織ちゃんの真面目さそのもの。かなり役に近いと思います。台本を読んだときに、「これを香織ちゃんが演じるんや」と楽しみでしたし、完成した映画を観て、「やっぱり香織ちゃんやな」と感じました。

──完成した映画を観た印象はいかがでしたか?

後藤 台本を読んだときは、「これをどうやってまとめるんだろう」と思ったんですが、しっちゃかめっちゃかになっていながらも、岡本監督らしく綺麗にまとまっていました。ライブシーンも音楽好きが撮っているなというのが伝わってきて、すごく大事にしているなと。普通の映画のライブシーンよりも長く時間を使っているところも見ごたえがありました。

何かをしたいという気持ちがあって、それがおかしな方向にねじ曲がった

──映画にちなんで、後藤さんが音楽を始めたときのお話しもお聞かせください。人前で歌おうと思ったきっかけは何ですか?

後藤 めちゃくちゃ単純なんですけど、高校時代、他校の人がLINDBERG、JITTERIN’JINN、JUDY AND MARYのコピーをするために女性ボーカルを探していたんです。そのときに声をかけられて、「やるやる!」と言って始めて、それが楽しくて今も続けている感じですね。

──今挙がったバンドの音楽は聴いていたんですか?

後藤 聴いていなかったです(笑)。よく分からないけど楽しそうだからやってみようというノリで始めて。聴いてみたら、良かったし好きやったし、そこからちゃんと音楽を聴くようになりました。

──オリジナル曲を作り始めたのはいつ頃からですか?

後藤 2、3回ステージに立ってみて、「オリジナルがあったらかっこいいよね」という話になって、無理やりオリジナルを作ってみたんです。そしたら「自分らでもできるんだ」という自信になり、それが楽しくてオリジナルを続けていくことになりました。

──曲作りは後藤さんがされていたんですか?

後藤 そうです。最初はギターが弾けなかったので、鼻歌で作った曲を聴いてもらって、それを形にしていったんですが、バイトで稼いだお金でギターを買って、簡単なコードから覚えて本格的に曲を作り始めました。

──歌詞についてどのように考えていましたか?

後藤 音に合う言葉を探すということが重要で、言葉の意味自体はあまり深く考えていませんでした。最近まで、意味よりも聴こえ方や歌っていて気持ちええかどうかを重視していました。歌詞から曲ができる人はすげえなと思います。

──パフォーマンス面で派手な表現をするようになったきっかけは?

後藤 最初は普通のパフォーマンスだったんです。ただ、ぶっちゃけ歌も上手くないし、ギターも弾けないという自覚がありました。でも何かをしたいという気持ちがあって、それがおかしな方向にねじ曲がってしまった結果ですね(笑)。

──高校時代はライブハウスが怖くて、あぶらだこのライブに行けなかったというお話がありました。活動初期は大阪を拠点にしていましたが、当時の大阪のライブシーンはいかがでしたか?

後藤 実際は怖くなかったんですよ。そういう人たちもいたとは思いますが、みんな大阪人らしく、「どうやったら目立てるか」ということを考えていた人が多かったですね。ただ当時、難波ベアーズというライブハウスだけは出ないようにしていました。なぜなら「ベアーズの壁には死体が埋まってる」という噂があって、そんなことはないと思いながらも避けていました(笑)。今は大変お世話になっていますけどね。

──ライブハウスを通しての、横の繋がりみたいなのはあったんですか。

後藤 自分らは「関西ゼロ世代」という枠組みで呼ばれたこともあったんですが、あまり最初は交流がなかったんです。ある時期から、関わりを持つようになって、「なんだこれは」と。「これが自由なんや」「ライブには決まりがないんや」と、その人たちからはすごい影響を受けました。

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撮影=西邑泰和

今は1本1本のライブがめちゃくちゃ大事

──メジャーデビュー後も、過激なステージングは変わらなかったイメージがありますが、事務所などから止められることはなかったんですか?

後藤 初期の事務所からは全く言われなかったですね。ただバンド解散後に入った事務所のときにちょっと言われて、速攻で辞めちゃいました。バンド系をいっぱいやってる事務所なのに、ちょっとでもマネージャーさんの言うことを聞かなかったら、「俺が止めろって言ったときには止めなきゃ絶対駄目」と言われて。それで止めなかったから、すごい怒ってはったんです。こっちも合わへん人と一緒にやってても楽しくないですからね。

──ライブに臨む意識など、当時と変わった部分はありますか?

後藤 変わりましたね。その頃は右も左も分からなくて、本格的にバンドをやり始めた20代前半とか、メジャーに行くまでは、「どんだけやったろか」「爪痕を残したろか」って気持ちがあったんです。フェスに出させてもらうようになったときも「何これ?」って。なんでこんな人のおる場所でやってんのって意味が分からなかったです。あの頃は、やり捨て感もあったんですよね。でも今は1本1本のライブがめちゃくちゃ大事です。

──もうすぐ新年度が始まりますが、音楽活動でやろうと思っていることはありますか。

後藤 アルバムをリリースできたらなと思っています。前作の『未来』をリリースしたのが2024年1月11日で、ちょっと間隔が空いているんですよね。一人でやっていると終わりがないんですよね。やり込んでいって、言いたいことを詰め込んでいったら、誰かから「そろそろ完成させて」と言われない限り、延々とやってしまうので、そろそろ完成させたいです。そもそも先延ばしにする性格なんで……。

──最後に改めて『ボールド アズ、君。』のおすすめポイントお聞かせください。

後藤 映画好きの方が観ても、音楽好きの方が観ても楽しめる映画です。映画好きの方からすると、「なんで、こんなに音楽のシーンがあんの?」と疑問を持たれるかもしれないんですが、観終えたときに良かったと思える映画になっています。

(取材・文=猪口貴裕/撮影=西邑泰和)

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猪口貴裕

出版社勤務を経て、フリーの編集・ライターに。雑誌・WEB媒体で、映画・ドラマ・音楽・声優・お笑いなどのインタビュー記事を中心に執筆。芸能・エンタメ系のサイトやアイドル誌の編集にも携わる。

最終更新:2025/03/24 19:18