松本人志が認め、千鳥が憧れた天才的ツッコミ…インパルス堤下敦の今とコンビ復活の可能性

インパルスの堤下敦が、テレビ朝日系『バラバラ大作戦』内で3月24日深夜に放送されたバラエティ『クロナダル』にゲスト出演。平成・令和を代表する「嫌われ芸人」の一人として呼ばれた上に、相方の板倉俊之と一緒にコントができない現状をイジられるなど散々な扱いとなった。
いまだに「アウト」な存在であることが浮き彫りになった一方、サンドウィッチマンの伊達みきおが堤下のツッコミ技術を絶賛したことが話題になるなど、芸人として再評価の兆しも見えている。
堤下の芸人としての実力や業界内での評価、コンビ復活の可能性などについて、お笑い事情に詳しい芸能ライターの田辺ユウキ氏が解説する。
「好きな司会者」1位の川島明と松本人志不在で再評価されるMC芸人たちの今
「嫌われ芸人」扱いの一方で……
番組では、前回に続き「平成・令和の嫌われ芸人」の中から真の嫌われ者を決める企画を実施。「クズ界のツートップ」といわれる安田大サーカス・クロちゃんとコロコロチキチキペッパーズのナダルに加え、堤下や品川庄司の品川祐、ドランクドラゴンの鈴木拓、さらば青春の光の東ブクロが集まった。
「曲がり角でぶつかって入れ替わったら嫌なのは誰?」というお題が出されると、クロちゃんは「公共交通機関しか使えなくなる」という理由で堤下を指名。品川が「あと板倉に嫌われたくない」と続けると、クロちゃんは「堤下さんになったとしても、板倉さんとはもうコントできない」と堤下の現状を切り捨てた。堤下は「まだコンビですから分かりませんよ」と食い下がったが、クロちゃんが「なんで今(コントを)やってないんですか」と問うと、堤下は「できないからですよ」と即答して笑いを誘っていた。
堤下といえば、2度にわたり自動車事故を起こして免許を返納。以降はほとんど地上波のテレビ番組から声がかからなくなり、めっきり露出が減ってしまった。相方の板倉は堤下のことをいまだに許していないといわれ、コンビでの活動は凍結状態が続いている。
「嫌われ芸人」として過去の不祥事をネタにするくらいでしか地上波では需要がない状況といえそうだが、その一方でサンドウィッチマンの伊達みきおが堤下を絶賛したことが最近スポーツ紙メディアで取り上げられたことで話題に。
伊達が堤下のYouTubeチャンネルにゲスト出演した際、堤下について「関東のツッコミ界ではベスト3に入る」とべた褒め。具体的には「ツッコミのスピード」「ツッコミのワードの多さ」が別格だといい、「俺は結構、つっつん(堤下)の勉強したよ」と参考にしていたことを明かした。さらに、伊達は「同じ体形でね、標準語だし。同じようなツッコミ。ライバルなんですよ」と語り、今もライバルとして意識していることを告白したのだ。
松本人志が認め、千鳥が憧れたツッコミ
誰もが認めるトップ芸人である伊達が称賛する堤下のツッコミ技術について、芸能ライターの田辺ユウキ氏はこう解説する。
「ダウンタウンの松本人志さんが『堤下はツッコミとしての才能はある』と言うほど、堤下さんは高く評価されています。昨年4月放送のバラエティ番組『チャンスの時間』(ABEMA)でも、堤下さんのツッコミ力の高さが検証されましたが、そこでも千鳥が、ツッコミとしての堤下さんは『憧れ』だとし、手数の多さや早さも『ピカイチ』と絶賛していました。
堤下さんは自身のYouTubeチャンネルの2024年4月12日配信回で、ツッコミ論を詳しく語っていました。特に『ツッコミの早さ』については、相手がしゃべっていることを一言一句、聞き漏らさずにちゃんと聞くことを大事にしており、そうすると相手の言葉の中から見えてくるミスや違和感が出てくるので、それに対して真っ先に反応していると持論を語っていました。
これはたとえば私のような記者、ライターにも通じるものがあります。私もインタビューのときは同じように相手の話をしっかり聞き取った上で、答えとして出てくるワードにちょっとでも曖昧さが含まれていたら『それってどういうことですか』と一歩踏み込んで聞いたり、相手の話を瞬時に咀嚼してこちらの持論をもって問い直したりします。堤下さんは同動画内で、事前になにかを用意したり、未来を予測していたりするわけではないと話していますが、インタビューもまさにそうで、こちらがガチガチに想定しすぎるとおもしろい話は引き出せない。“受け”を意識しないといけません。そういう部分で堤下さんのツッコミ論は共感性が非常に高いです」
堤下は「2000年代最高峰のツッコミ」
堤下の高度なツッコミ技術は、われわれの普段の会話にも通じるところがあると田辺氏は指摘する。
「ツッコミが上手い人は会話も上手なのですが、『なんでやねん!』みたいな強いツッコミではなく、『それってこういうことなの?』みたいな“受け”のツッコミを入れていくと、会話がきれいに成立していきます。つまり堤下さんのツッコミ論は会話術にも生かされます。そういうことができるのは、堤下さんがやはり“受け”が上手いから。話を聞いてちゃんと受けて、『なんでやねん!』みたいな大きめのリアクションではなく、ちょっと落ち着いたトーンのリアルな反応で返す。これが堤下さんのツッコミのおもしろさ。ちゃんと話を聞くからこそできる技です。
インパルスのネタでも、堤下さんの“受けツッコミ”のおもしろさが感じられます。たとえば未成年の息子(板倉)がタバコを吸っているところを発見し、事情を聞く父親(堤下)のコント。息子はタバコを吸っているどころか、企業や政治を揺るがすような隠し事をしています。想像のはるか上を行く告白を前にした堤下さんのツッコミは、間の作り方が抜群に上手く、さらに戸惑いのリアクションや表情など、“受けツッコミ”としていずれも完璧でした。
『なんでやねん!』みたいな関西風味の“攻めツッコミ”ではなく、言葉少なめで、表情などでボケを吸収する“受けツッコミ”が一気に広がったのは、インパルスや堤下さんの影響が大きい。ネタでもバラエティの平場でも堤下さんの“受けツッコミ”は冴え渡っていました。そう考えるとインパルスと堤下さんは、間違いなく2000年代最強のコンビの1組であり、また2000年代最高峰のツッコミと言えるのではないでしょうか」
インパルス活動再開の可能性は
それだけの才能と技術がありながら、堤下はなかなか地上波で活躍することができず、インパルスも活動休止状態にある。再びインパルスのコントを見ることができる日はくるのだろうか。田辺氏はその可能性について、こう分析する。
「コンビは、家族よりも一緒にいる時間が長いとされています。そのため、許せないことがあると修復が不可能な状況に陥り、解散を選択することも多々あります。板倉さんは、堤下さんのたび重なる交通トラブルへの怒りが収まっていない上、芸能活動を再開させたことへの疑問や不信感も長く残っているように見られます。板倉さんは、昨年7月放送『千原ジュニアのヘベレケ』(東海テレビ)で、『(堤下は)キングコングに入ったと思っている』『人間的に魂レベルで生まれ変わってくれてるのかどうか』と言及していました。そこまでであれば解散すればいいようにも思いますが、現状、そうはしない。そして結局はお互い、本人がいないところで相方の話をするという状態が続いています。
板倉さんはピンの実力もある天才的な芸人ですし、周りも放っておかないでしょうから、解散してもやっていけるはず。というか、今もほぼピン芸人状態です。それでも解散を選択しないのは、『いつかまた堤下と』という気持ちが心のどこかに間違いなくあるのだと思います。一方、堤下さんは現状、今後について言い出せる立場にない。それでもコンビ活動再開か、解散かの判断は堤下さんからの謝罪や態度次第だと思います。
昨年5月31日付の東野幸治さんのYouTubeチャンネルに堤下さんが出演した際も、東野さんから『板倉とパッと会ったらどうすんの?』と質問され、『こんにちはって言います。こんにちはの後にごめんなさいですね』と話していたことから、誠心誠意の謝罪や、これからインパルスをどうしたいかという話はしっかりできていないのだと思います。そうなると、現時点では解散か再開か以前の話ですよね。コンビ活動を再開することで、板倉さんの仕事にも影響を及ぼす可能性がありますので、関係者も慎重になることは間違いない。そういったことも含めて、まずコンビで話をすることが必要なのではないでしょうか」
(文=佐藤勇馬)
協力=田辺ユウキ
大阪を拠点に芸能ライターとして活動。映画、アイドル、テレビ、お笑いなど地上から地下まで幅広く考察。
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