『あんぱん』第2回 「ジャムおじ」オリジナル要素に生じた不安を物語でブン殴ってくれ

昭和初期の土佐を舞台に始まったNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』も第2回。『アンパンマン』のやなせたかしとその妻・暢をモデルとしたオリジナル作品ですが、まずは今田美桜演じる暢ことのぶちゃんの幼少期が描かれています。
実際にはやなせさんと暢さんは高知新聞社で出会っているそうで、この子ども時代は『あんぱん』の完全創作となっています。
昨日は主人公の2人が「チャキチャキ快活な田舎娘」と「心優しく物静かな都会からの転校生」として激突するという典型的なボーイ・ミーツ・ガールが描かれましたが、第1週のサブタイトルを見てみると「人間なんてさみしいね」という、早くも別れの予感を感じさせるものでした。やなせさんの詩の一説のようですね。
そんなわけで第2話、別れを感じさせる不穏な2人の登場人物と、それとは別に設定として大丈夫かなと感じるところがあったので、そこらへん話を分けて振り返ってみたいと思います。
松嶋菜々子がけっこう闇
ヤムおじさんことフーテンのパン職人・屋村(阿部サダヲ)が焼いたパンに痛く感動したのぶちゃん(永瀬ゆずな)、家に帰っても「パンうまかったー」と「東京にいねって言っちゃった嵩(木村優来)に謝らなきゃー」という2つの思いに板挟みになりながら、質素な夕食を食べています。
一方、ヤムおじさんのヤミーなパンを一網打尽に買い占めたのは、嵩が身を寄せている開業医・柳井寛(竹野内豊)の妻・千代子(戸田菜穂)でした。柳井家の食卓はのぶちゃん家とは対照的に、そのパンがどっさりと並び、チキンソテーにナイフとフォーク。慣れないナイフに四苦八苦する嵩くんはチキンを食卓からすっ飛ばしてしまいますが、千代子はお手伝いさんに「もう一枚焼いちゃりなさい」とにっこり。寛も千代子もとっても優しいのですが、嵩とその母・登美子(松嶋菜々子)はどうにも居心地が悪そうです。
「あと、お箸もいただけますか? 嵩と、私の分も」
にわかに食卓をピリつかせる登美子さん。そういえば土佐に来た初日である昨日、寝床で嵩に「もうちょっと愛想よくしなさい、寛おじさんにかわいがってもらわなきゃ」とか言ってましたね。このときはただ「ああ立場が弱いね、切ないね」という印象でしたが、登美子さん自身、あんまりこの家に馴染む気はないのかな。にもかかわらず嵩に「寛おじさんにかわいがってもらわなきゃ」と言ってるってことは……と思ってたら翌朝、登美子さんは嵩のお弁当を詰めてくれているお手伝いさんに「この家は西洋かぶれね、日本人は日本人らしく暮らしたいわ」と、威風堂々、貴婦人然とした態度で愚痴をこぼしてみせます。
あら、そういう人か、と思ったんだよな。この人は土佐の田舎者をバカにしてるし、この家で暮らすつもりは全然ない。旦那(二宮和也)が死んで、手に余る嵩という息子を厄介払いしに来た、息子を旦那の兄弟に押し付けてどっか行っちゃいそう。そういう人物像が見えてきます。なかなかに闇が深そうだ。
もうひとり、別れの予感を感じさせるのは、のぶちゃんが好き好き大好き超愛してる父親の結太郎(加瀬亮)です。こちらは世界を飛び回る商社マンですが、どうやら激務がたたって不整脈が出ている様子。夜な夜なのぶちゃんに「おなごも大志を抱け」などと遺言めいたことを言っていますし、早々に死にそうです。
昨日の段階で、とりあえずのぶちゃんの精神的支柱は結太郎であることと、嵩にとって身寄りと呼べるのは登美子さんしかいないことが語られています。その2人に「いなくなる予感」が漂ってきたことで、がぜん「人間なんてさみしいね」という副題が暗く頭をもたげてくる。そんな第2話でございました。
オリジナル要素と「アンパンマン」からの引用
嵩とのぶちゃんは徐々に相互理解を深め、距離を近づけていきます。「東京にいね」と言ってしまったことをちゃんと謝れたのぶちゃん、えらいぞ。嵩くんは基本的に育ちがいいので、「朝田のぶさん、君は乱暴なところもあるけど、優しい人なんですね」と、ちょっと危ういと感じるくらい素直に理解を示してみせます。
また、「この町に居場所がないもの同士」として友達になったヤムおじさんと嵩でしたが、あまりのパンの美味さにヤムおじさんに懐いたのぶちゃんも含め、3人には大人たちの知らない関係が築かれることになりました。その会話の中から、嵩は過去に銀座で、死んだ父親と今は土佐に預けられている弟・千尋、それに母親の4人でアンパンを食べたことを思い出すのでした。それにしても絵が上手いな嵩。母親の髪の毛の描写なんて天才的に上手い。
ところでモデルの暢さんとは高知新聞社で出会っているので、この少女時代ののぶちゃんとヤムおじさんが完全オリジナルな架空の人物となります。
ヤムおじさんはもちろんジャムおじさんからの引用でしょうし、のぶちゃんにはどこかドキンちゃんの雰囲気が漂っています。
この、架空の人物に『アンパンマン』からの引用を当てはめているところが、設定的に大丈夫かなと感じる部分。ガチンと物語に効いてきたら相当おもろいと思うけど、逆に単なる「お遊び」というか「くすぐり」だとしたら、こういうのは一気に白けるんだよな。
特にヤムおじさんは「フーテンのパン職人」で、全国をさすらっては厨房を借りてパンを焼いているという設定なんだけど、今のところ原料的にも設備的にも「そんな都合よく日本中どこでもパンが焼けるかよ」という懸念があるわけです。地元のパン屋がそんな簡単にオーブンを貸すとも思えないし、昭和初期の普通の食堂の厨房にパンが焼けるオーブンがあるとも思えない。この時点でかなり設定に無理が生じている。
こういう人が物語にうまく作用してこないと、作品そのものの信用度が大きく損なわれることになるんですよね。逆に、この程度の無理だったら展開が成立してれば許される範囲だとも思うので、どうかこの要らぬ心配を抱えるレビュアーを物語でブン殴ってほしいと願うところです。
(文=どらまっ子AKIちゃん)