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『あんぱん』第5回 「おいしいものを食べたら悲しいことを忘れられる」がズドンと突き刺さる

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今田美桜(写真:GettyImagesより)

 ああ、いいですね。ドラマを見た、という充足感のある第1週でした。今日は特に墓石を彫るシーンね、ああそうか石屋だ、息子の墓石を彫るのだと気づかされた瞬間は、ちょっと泣いちゃったね。

『あんぱん』加瀬パパ4日目で死んだ!早!

 そんなこんなで「おいしいものを食べたら、悲しいこと、ちょっとは忘れられるけん」という、どこかで聞いたことのあるメッセージがズドンと刺さってきたNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』第5回。ほかにもいろいろ前作との対比があるわけですが、あんまりそういうのを書き連ねるのも品がないのでね、ほどほどに振り返りましょう。

RADちゃんと「涙」かぶり

 へえ、当時の土佐の葬式はこんな感じなんだ。という好奇心が勝ってしまった冒頭。畦道を行く葬列の中には表情をなくしたのぶちゃん(永瀬ゆずな)もいて「のぶは泣きませんでした。一粒の涙も出なかったのです」というナレーションが入ります。

 すっと、最愛の父を失ったのぶちゃんの悲しみがどんなものなのか、理解できるんですよね。かねがね、ドラマは画面の強さがまず必要だと思っているのはこういうところで、この葬列のシーンの鮮やかな作画によって「おぉ」と心が動くわけです。そこに登場人物の感情が入り込む隙間が生まれる。ボクシングでいえば、作画が左ジャブであって説明が右ストレートなんです。「左は世界を制す」といいますからね、そういうことです。

 だからこそ、そのナレの直後にRADちゃんが「涙に用なんてないっていうのに~♪」って歌い出したのは、今日に限ってはちょっと邪魔だったね。「涙」かぶり。「用がない」とかそういう話じゃないだろ。いや、しょうがないし偶然なんだけど、今日は特に「CMに入った、うぜえな」的な感覚があったような気がします。これ今田美桜が出てくるころになったらもっと邪魔になりそうな気がして心配ではありますな。

 OP明け、気丈にも登校してきたのぶちゃんは先生から「大変やったな」と声を掛けられますが、もっと大変そうなのが亡くなった結太郎(加瀬亮)の母・くらばあ(浅田美代子)です。もう食事ものどを通らないし、眠ることもできないという。結太郎と親交のあった主治医の寛(竹野内豊)が食欲の出る薬を持ってきてくれましたが、それを飲む気にもなれないみたい。

「先生、結太郎はなんのために生まれてきたがやろ」

 アンパンマンマーチからの引用ですね。「なんのために生まれて何をして生きるのか」。相手は博学の医者とはいえ、息子と同じような年齢の人に尋ねるには、あまりにも重い問いです。しかも「こたえられないなんて、そんなのはいやだ!」なのです。

 寛はこの問いに「夢」と「よろこび」という言葉で応えます。結太郎の人生には、確かに「よろこび」があったはずだと。「そうだ、うれしいんだ、生きるよろこび」これも歌詞からの引用ですね。第1週の、感情が「底」にあるパートでそういう技巧的なことをやってくる。うまくやってるのであざとさは感じないし、むしろこういうテクニックを今後、どんな感じで使っていくのかという期待を感じさせるシーンでした。

 ダンゴ屋が持ってきてくれた大好きなあんこのダンゴにも手を付けないくらばあ。そのダメージは甚大なようです。

才能の萌芽

 自分のことを「守っちゃる」と言ってくれた女の子が、どうしようもなく悲しんでいるときに何ができるのか、心優しい嵩くん(木村優来)はずっと考えていました。夜、縁側に腰を下ろして思い悩む嵩に、育ての親となった寛は語り掛けます。

「時という薬しかない。でも、それが生きちゅうことやないかい」

「生きちゅうき、いつか元気になって笑える日が来るがや」

 訥々と、高知弁が嵩くんの心に染み入っていきます。カメラはずっと嵩くんの顔をアップでとらえ続ける。「何ができるか」は具体的にわからなくても「どう考えればいいか」はわかった。そういう顔をするんだよな木村優来くんが。のぶ役の永瀬さんもそうだけど、子役いいですね『あんぱん』。演出のオーダーの仕方もいいんだろうな。

 あのとき、のぶと父が最後に別れたときに帽子をくれたシーンを絵に描いてあげよう。そう思ったんでしょうね。嵩くんは駅でその絵を描いています。たぶん、嵩くんにとって「人のために絵を描く」という行為は初めてでしょうね。今の自分にとっての「生きちゅう」とは何か、寛の言葉を子どもなりに理解した先にあったのが「絵を描く」という行為だった。

 まさかのぶちゃんがその駅に駆け込んでくるなんて思っていなかったはずです。しかものぶちゃんは、人混みをかき分けてもう二度と帰ってこない父を呼んでいる。

「お父ちゃん、お父ちゃん、お父ちゃん……!」

 そして誰もいなくなって、心が出涸らしになってしまったのぶに、嵩くんはその絵を手渡します。その絵を見て、死んだ顔をしていたのぶに「生きちゅう」が戻ってくる。両の目からあふれ出てくる。いやー、ここも泣いちゃうって。永瀬さん上手すぎるって。もうエモがすごい。顔面も所作も声もエモすぎる。ドラマや、ドラマを見ておるぞ……!

 と、ここで嵩くんは自分の描いた絵が人の心を動かすことを知るわけです。単に器用なだけじゃなく、絵は人の心に「生きちゅう」を与えることができる。後に不世出の作家となる人物の才能の萌芽です。結太郎が死んだことによって、嵩くんという人の未来が定められることになったわけだ。残酷な対比です。

ヤムおじは妖精ということで

「たったひとりで生まれてきて、たったひとりで死んでいく。人間ってそういうもんだ」

 嵩くんにそう語っていたヤムおじ(阿部サダヲ)は、沈痛の朝田家にあんぱんを焼いて持ってきます。まるで魔法にかかったように、朝田家の面々が砂糖と小麦の「味」に支配されていく。笑顔になっていく。みんなホカホカになる。

 第2回のレビューで、ヤムおじという存在についての懸念を書いています。

「原料的にも設備的にも『そんな都合よく日本中どこでもパンが焼けるかよ』と」

「こういう人が物語にうまく作用してこないと、作品そのものの信用度が大きく損なわれる」

 えーっと、うまく作用したと思う。もういいよ、みんな笑ってるし美味そうだし、阿部サダヲだし、もう「そういう妖精」ということでいいと思いました。今のところ。この人のこと好きになったし、あのあんぱん食ってみたいと思ったもんね。

 あと、今日いいなと思ったのは、落ち込んで飯も食えないくらばあのところに寛が薬を持ってきた場面で、画面の奥のほうで石屋の弟子と妹2人が楽しそうに遊んでるんですよね。幼い妹たちにとって父の死が「まだ理解できない事実である」ということが、ちゃんと説明されている。

「父親が死んだ妹2人を描く」って、こういうことだからな『おむすび』よ! と思いました。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/04/04 14:00