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『あんぱん』第7回 作劇の筋の悪さを補う「のぶ」&「ヤム」の存在感

今田美桜(写真:サイゾー)
今田美桜(写真:サイゾー)

 懸案となっている「RADWIMPSの曲もOPの映像もドラマと全然合っていないのではないか?」問題、私自身も先週の序盤は「なんじゃこれ」という感じだったのですが、昨日あたりから慣れてきた感じがしてまして、今日はイントロでちょっと「おっ」て思ったんだよな。「おっ、始まったな」と。要するに曲に違和感がなかった。映像にはまだちょっと慣れませんけれども、そのうち馴染んでくるのかもしれません。

『あんぱん』主人公の定義とシーンの強さ

 そういうわけでNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』第7回、昨日、釜じい(吉田鋼太郎)に墓石が倒れ掛かってきて「危ない!」という“引き”の続きですね。振り返りましょう。

今日も走るのぶ

 ファーストカットは嵩くん(木村優来)が暮らす医者の家に駆けこんできたのぶちゃん(永瀬ゆずな)から。どうやら事故は起こったようで、のぶちゃんは「釜じいが、大変がや、大ケガして」と言っています。

 あいにく、医者の寛(竹野内豊)は隣の村へ往診中。さぁ、ランの時間です。下駄履きののぶちゃん、ズックの嵩をぐんぐん引き離して独走態勢に入ります。しかし器用に走るね、この子役は。下駄で走った経験なんてそんなにないだろうに。

 この「のぶ走る」のシーン、2種類あるんですよね。「早くパパに会いたい」とか、今回のように「早く医者を連れて帰りたい」という理由があって走る場合と、「学校に行くだけ」「帰るだけ」なのに無意味に走っているシーン。昨日は、どこからどこへ向かっているのかすら表現されず、「ただ走っている」もありました。「元気になった」という意味付けとして走らせている。

 理由もなく走る子だからこそ、理由があるときにテンションがひとつ乗るという効果が出てる感じがするんですよね。女の子が走っているだけで画面はエモーショナルになるのだけれど、そこに理由が乗ることで、いわゆる「ドラが乗った」状態になる。つくづく、『あんぱん』が幼少期ののぶという女の子の初期設定に「いつも走っている」という要素を用意したことが成功していると感じます。画面がもつんだよな。

生きることは食べること

 釜じいは腕を骨折して、腰も痛めているようでした。寛いわく全治3カ月。当然、重量物を扱う石屋の仕事は休業ということになります。

 たぶん稼ぎ頭だった商社マンの結太郎が死んで、ただでさえ経済的にヤバかった朝田家ですが、いよいよ米びつも底をつきそうです。育ち盛りの娘が3人、それに弟子っこの豪ちゃん(細田佳央太)も養わなければなりません。

 そんな状況を察したのぶちゃん、お弁当を持たずに登校します。節約精神ですね、もう作っちゃったし持ってけばいいのに、と思うし、結局嵩くんから分けてもらってるというか、こいつ最初から嵩に分けてもらうつもりだったな、という気もするけど、永瀬さんの顔と芝居がいじらしいからオッケーになっちゃってる。もうね、ファンですわ。ファンのひいき目です。

 釜じいに石を倒した張本人の豪ちゃんは責任を感じて、「首にしてください」と言い出しました。

「わし、大飯食らいやき、みんなのためにおらんほうが」

 もう釜じいのプライドはズタズタ、ライフはゼロよ。

 生きることは食べることだし、食べることは食材が減ることです。食材が減ることは新たに購入する必要があるということで、金が要るということです。生きるには、生きるだけで、どうしても金がかかる。

 朝田家メンバーはそれぞれの立場から、その現実に向き合おうとします。そして翌日、のぶちゃんは授業中に一発逆転のスーパーアイディアを思いつくのでした。この思いついたときの顔もなー、いじらしいのなんの。

「パンを焼く」の万能感

 のぶちゃんはヤム(阿部サダヲ)を説得して、あんぱんを焼かせてそれを売るというアイディアを思いつきます。ヤムは断るし、一度は村を出ようとしますが、やっぱり駅のホームから戻ってきてのぶに協力を申し出るのでした。とりあえず一回だけ。のぶも嵩もひと安心です。

 正直、この「パンを焼く」に至るくだり、そうとう筋が悪いと感じます。ヤムは「ダンゴ屋を連れてこい」と言いますが、のぶがダンゴ屋を駅に「呼んでくる」と言って駆け出す意味はわからないし、ヤムがなんでこのタイミングで村を離れようとしたのかも、なんで一度は抜けた改札を舞い戻ってきたのかもわかりません。

 さらにいえば、ヤムのパン作りの詳細が不明なのも気持ちが悪い。小麦はうどん屋が提供しているとして、どうやら酵母は壷に入れて抱えているようですが、オーブン(窯?)はどうなってるの?

 ここ、作劇がかなりの部分で「パンを焼くこと」ひいては「あんぱん」という存在そのものに寄り掛かっているように見える。つまり「このドラマは『あんぱん』ですよ」「のぶは主人公の朝ドラヒロインですよ」という前提がないと成立しない展開になっているということです。

 ドラマがこの筋の悪さを潰すには、それを補って余りある魅力が必要になるわけですが、うーん、補って余りあっちゃってると感じるんだよな。前述の通り私はもうのぶちゃんファンですし、ヤムの浮遊感が「ここだけファンタジーってことで」という主張をしていて、それが通ってる感じがする。フーテンという設定と、ひとりだけ完璧な標準語を使いこなしているというアンバランスも含めて、なんか変にハイソに見えてきたし、今のところ乗っかっといたほうが楽しい気がしている。

 先週末の予告で今田美桜がちょろっと出てたということは、永瀬氏の出演は今週限りなのかな。たった2週間だけど、強烈な印象を残すことになると思います。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/04/08 14:00