『あんぱん』第8回 ご都合主義も不合理も「子どもの記憶」ということで処理しておきたい

昨日は、どうあれ「あんぱんを焼く」という展開にこじつけた筋の悪さについて書きましたが、その意味での筋の悪さは今回、拍車がかかっているように感じます。稼ぎがなくなって困窮した石屋にパン焼き用の石窯を「作らなければパンは焼けない」とヤムおじ(阿部サダヲ)は言いますが、じゃあうどん屋で焼いてた第1話のパンや第1週の最後を締めくくった超うまそうなあんぱんはどうやって焼いたのか。うどん屋に窯があったというのか。あったならまた借りればよいではないか。
と言いつつ、まあそれはそれでよいではないかと思っちゃったなぁ。石屋だから石窯、そんなもんでいいんじゃないの? という不真面目な態度で、映像の快楽に身を委ねつつ見ていきましょう。
NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』第8回、振り返ります。
ダンゴ屋大活躍
首尾よくヤムを呼び戻し、パンを焼かせる約束を取り付けたのぶちゃん(永瀬ゆずな)。ヤムと、大量のあんこを抱えたダンゴ屋を連れ立って朝田家に帰ってきました。
「これから、あんぱん作るがやき!」
気に食わないのは釜じい(吉田鋼太郎)です。「二度とこの家の敷居はまたがせんと言ったじゃろうが!」などといきり立っていますが、身体が痛いのでどうにもなりません。そんな釜じいを尻目に、ヤムはそこらへんの石を物色すると土をこね、おもむろに石窯を作り始めるのでした。
ここで、冒頭の“筋の悪さ”が頭をもたげてくるわけです。やっぱ窯いるよね? と。一方で、ずっとヤムに対して感じていた「どうやってパン焼いてるんだ」という疑問があって、それがいよいよ明かされていく、描かれていくというワクワク感が勝っちゃうんだよな。ホント、視聴者っていい加減なもんだと思う。
ここでは石屋の弟子・豪ちゃん(細田佳央太)は親方の目が光っているので手伝うことができません。結果、男手はあんこを持ってこさせられたダンゴ屋の爺さん1人ということになる。しかもヤムは途中でダンゴ屋に窯作りを任せて台所に消えてしまう。
いびつとはいえ、あの窯をほとんどひとりでダンゴ屋が作り上げたことになってる。まぁこれも、ダンゴ屋もまたスーパーヒーローなのであったということで処理しておきましょう。腰だけやっちゃわないように気を付けて。
粉がきれい
ヤムが板場に粉を広げて、そこに日が差し込んでいる。粉が光っている。「あ、粉きれい」と思っちゃう。この数秒のカットだけで、これからうまそうなパンが出来上がっていくという予感が漂ってくる。ヤムが「内緒だ」と言った秘密の液体は酒粕ですかね。
私はパンを作ったことがないし、ここで描かれた段取りが当時のパン作りの方法として正確なのかどうかもわかりません。でも、阿部サダヲの芝居には説得力があったと思う。生卵を崩して馴染ませていく手つきとか、あと何よりガチのマジだぜという表情とか、そこらへんで引き込まれてく感覚がある。夢中になって眺めている子どもたちもいい。
にわか作りの窯で焼いたあんぱんがひとつも失敗していないのも、もういいじゃないか。
結局のところ、これは大人になったのぶちゃんの回想だと理解しておくと楽なんでしょうね。そうであれば小麦や道具がどこかから湧いて出てきても、あんぱん作りが普通に考えて成功しすぎていても、まあ子どもの頃の記憶なんてそれくらい美化されててもいいのかなと思うし。
あくまでシンプルに、力強く、結太郎(加瀬亮)という大黒柱を失った妻・羽多子(江口のりこ)とのぶちゃんの再生が描かれたのでした。
柳井家は複雑だ
一方で柳井家の複雑な事情も明かされ始めました。どうやら嵩くん(木村優来)の弟・千尋は銀座で家族4人でパンを食べたことを覚えているらしい。もしくは、ヤムのパンを食べて思い出したらしい。
「お兄ちゃん、母ちゃまいつ帰ってくるが?」などと言い出しました。
千尋は育ての親である寛(竹野内豊)を父ちゃま、その妻・千代子(戸田菜穂)を母ちゃまと呼んでいました。しかし、先日は「おばさま」と呼んでいた実母・登美子(松嶋菜々子)を、今は「母ちゃま」と呼んでいる。
こんな小さいお子様が、寛の家に馴染むためにずっと取り繕ってきた可能性が示唆されるわけです。さらに、病気であることも明かされました。
そんなこんなで母ちゃまこと登美子から嵩くんにハガキが届いて、明日へ。その内容は引きにされました。
思えば今週は「フシアワセさん今日は」というサブタイトルでした。今日まで特にフシアワセらしいフシアワセは登場しておらず、むしろパンによるシアワセばかりが描かれています。明日あさってでフシアワセがくるのか。ちょっと身構えてしまいますね。
(文=どらまっ子AKIちゃん)