ザ・ぼんちはなぜ今なおウケるのか? 『THE SECOND』決勝進出で見えた強さの秘密

芸歴16年以上の芸人による漫才賞レース『THE SECOND~漫才トーナメント~2025』の「ノックアウトステージ16→8」が19日に行なわれ、最終決戦「グランプリファイナル」に進出する8組が決定した。お笑い界で大きな話題になっているのが、結成54年目で2人共に70歳を超えている大ベテランコンビ「ザ・ぼんち」が勝ち上がったことだ。
高度化していく漫才賞レースで「過去の人」と思われていたザ・ぼんちが決勝進出できた理由や彼らの魅力などについて、お笑い事情に詳しい芸能ライターが解説する。
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親子並み年齢差のコンビに圧勝
『THE SECOND』は、結成年が16年以上で『M-1グランプリ』などのメジャー賞レースへの出場資格を失った漫才師の「第2のチャンス」のため、2023年に創設された賞レース。選考会、開幕戦を勝ち上がった16組が出場した「ノックアウトステージ16→8」では、1対1のノックアウト形式で制限時間6分の漫才を披露。観客100人が1~3点の持ち点で採点し、その合計点で勝敗が決まる。
ザ・ぼんちは同ステージで、結成22年目の沖縄出身コンビ「ハンジロウ」と対戦。ハンジロウは共に40歳のコンビで、ザ・ぼんちとは30歳以上離れている。親子並みの年齢差だ。
昨年、ザ・ぼんちはハンジロウに2点差で敗戦。しかし今回は、ザ・ぼんちが高校野球ネタで会場を大いに沸かせて圧倒した。規定の時間を35秒オーバーしたことで10点減点となったが、それでも273点となり、260点のハンジロウに快勝。MCを務めたノンスタイルの石田明やニューヨークも「すごかった」と驚嘆するほどの盛り上がりだった。
現在、ぼんちおさむは72歳、里見まさとは今月25日に73歳の誕生日を迎えた。完全に「師匠クラス」であり、賞レースに出場すること自体が驚きだが、決勝進出によって現役バリバリのコンビたちと「実力」で肩を並べたことになる。
ザ・ぼんちをはじめ、マシンガンズ、モンスターエンジン、金属バット、吉田たち、囲碁将棋、はりけ~んず、ツートライブが最終決戦「グランプリファイナル」進出となり、決戦の模様は5月17日にフジテレビ系で生放送される。
即興に見える「緻密に計算された漫才」
なぜザ・ぼんちは決勝に進出することができたのか。お笑い事情に詳しい芸能ライターの田辺ユウキ氏はこう分析する。
「『16→8』は私も配信で鑑賞しましたが、ザ・ぼんちが一番おもしろかったですし、会場で最もウケていたように感じました。ネタ終わりはざわつきが起こるほどで、誰もが『ザ・ぼんちが勝った』と思ったでしょう。第2部(EブロックからHブロック)では、ザ・ぼんちの話題で持ちきりでしたから。ネタも、ちゃんと競技用に仕上がっていて、ボケ数、ツッコミ数も多く、大ベテランの漫才とは思えないエネルギーがありました。
私は実際に劇場でもザ・ぼんちのネタを見ています。その上で『16→8』でも感じたことなのですが、ぼんちおさむさんがなにを言っているのかよく分からなくて(笑)、でもなにを伝えようとしているか、ちゃんと分かるのがおもしろい。ニュアンスで笑えるって相当すごいことです。里見まさとさんは、滑舌が良くないおさむさんをうまくフォローしていらっしゃる。そのやりとりがいかにもネタっぽくなく、即興っぽさが感じられます。でも『16→8』で披露されたネタは劇場でも見ていますが、実は即興っぽく見えてかなり緻密に構成されています。おさむさんの滑舌も含めて、計算されているんです」
即興に見える「緻密に計算された漫才」というのは、漫才の理想形ともいえそうだ。田辺氏は続ける。
「なによりザ・ぼんちの強さの秘密が垣間見られたのが、ネタ時間がオーバーしてしまったときのまさとさんのリアクション。賞レースなので、なんにしても勝ったらOKじゃないですか。普通はそこで喜びが先にくるはずですが、まさとさんは5分50秒でネタを終える想定だったのに6分35秒かかってしまったことを、ずっと悔やんでいらっしゃいました。つまり『自分の中の完成度に至らなかったこと』が悔しかったわけです。
たしかに私がザ・ぼんちをインタビューしたときも、まさとさんは、こちらの褒め言葉には一切乗ってこなかったんです。自分たちの漫才にまだまだ満足できていない様子でした。まさとさんとしては、ラッキーパンチで勝つことは望んでいないのだと思います。自分の中にある『完成された漫才』を披露した上で『THE SECOND』を制したいのではないでしょうか。大御所というポジションに甘んじず、若手のようにアグレッシブに漫才に取り組む姿勢が、ザ・ぼんちが決勝へ進めた理由だと思います」
ザ・ぼんちの強さを分析したうえで、田辺氏は「決勝ではザ・ぼんちが勝つところを見てみたいです。もし勝ったらどうなるんでしょうね。そのあたりの展望が全然読めないので、優勝してほしいです」と期待する。お笑い通や識者にとっても、ザ・ぼんちは気になって仕方ない存在といえそうだ。
識者が挙げる注目のコンビは?
さらに、田辺氏にザ・ぼんち以外の注目のコンビを挙げてもらった。
「『16→8』でザ・ぼんちと並んで笑ったのがヘンダーソンだったのですが、落選しました。『M-1』でもそうでしたが、ヘンダーソンはなぜか東京のウケがよろしくない。誰もやっていないネタとスタイルですし、かなり技巧的ですし、どのコンビよりも6分のネタ時間にいろんな仕掛けをぎっしり詰め込んでいるのですが……。『THE SECOND』の優勝者は第1回が大阪拠点のギャロップ、第2回も大阪出身のガクテンソクでしたし、“大阪勢”が強い。『そろそろ東京勢も』というムードもありますが、注目コンビはやはり今回も大阪勢を挙げたいです。
優勝最有力とされているのは金属バット。劇場で若手の中にまじってネタをやっていても、良い意味でベテランの味がないんですよね。相変わらずトガっていますし、ネタの内容も筋がちゃんと通っている。というのも『THE SECOND』はネタ時間が6分と長めですから、ネタの内容が結構ふらつく印象があります。『THE SECOND』を見ていると、『このネタのメインの話題って結局なんなんだろう』と感じることがあります。時間を埋めるために、いろんな要素を引っ張ってきていることが見えてしまうんです。でも金属バットはネタがふらつかない。ネタに一本、筋が通っている。そして間を作ったり、雰囲気や空気で笑わせたりする。6分の使い方がとてもうまいです。
ダークホースはツートライブ。全国規模の賞レースでの決勝進出は今回が初なので、よほどのお笑い好きでなければ知らないコンビかと思います。そういう情報量の少なさがメリットに働く気がします。ちなみに関西では、彼らはテレビ番組に引っ張りだこの売れっ子。一部では昨年くらいから『東京へ拠点を移すんじゃないか』と言われていたくらい、出まくっています。キャラクターも分かりやすいので、決勝でもまんべんなくウケるのでは。ただ、ツートライブのネタの多くはフィクション性がかなり強い。ですので、その根底の部分でハマらないと厳しくなると思います」
実力派の中堅コンビが勝つのか、それとも70歳超の大ベテランであるザ・ぼんちが優勝をかっさらうのか。ザ・ぼんちの進出によって、決勝は例年以上の注目度になりそうだ。
(文=佐藤勇馬)
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