『あんぱん』第22回 「嵩、絵の道に進む」という重大決断がまったく重大に見えない件

『アンパンマン』でお馴染みのやなせたかし先生とその妻をモデルとしたNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』も第22回。今日はそのやなせ先生こと柳井嵩くん(北村匠海)が「絵の道」に進む決意を固めるという彼の人生において非常に重要な1日が描かれたわけですが、ずいぶんあっさりしていた印象です。
やけに物わかりのいい寛先生(竹野内豊)、メンター気取りの弟・千尋(中沢元紀)、発言権のない千代子(戸田菜穂)と嵩の周囲に特に夢への障害になりそうな人物はいないし、何より嵩自身が最近では手慰み程度に4コママンガを描いているくらいで、絵を描くことへの執念が全然伝わってこなくなっている。
幼少期の嵩の絵って、確かに5歳児が描いたとは思えないくらい達者なものだったんですよね。俯瞰的な視点も独特だったし、筆致も大人びていて、才能のきらめきを感じさせるものだった。この子が将来、稀代の商業作家になるという予感にあふれていたんです。
一方で青年期を迎えた嵩の絵はどこにでもありそうなギャグマンガタッチで、どう見ても幼少期の駅での場面を切り取った一枚のように、人の心を打ち抜く作品ではない。新聞賞を受けた「西郷どーん」もマンガとしておもしろいわけでもないし、絵として優れているわけでもない。なんで入選したのか全然わかんない。
それでも全国の新聞の賞で入選しているわけだから本邦トップクラスのアマチュア4コマ師ということになっているんだけれど、今度はその評価に対する家族のリアクションが抜け落ちているから、寛先生の「現実的やないにゃあ」という見立てにも説得力がない。
結局のところ嵩は「絵を描きたい」とセリフで言うだけで全然描いてないから「絵を描かずんば生きておられない」というほどの衝動を感じないし、周囲も「図案なら」などという一般論に終始するしかない。寛が美術学校への進学を勧める理由も、嵩の「描きたい」という言葉を追認するだけにしかならない。
寛自身が「この子から絵を奪ったら死んでしまうのでは?」と思えるほどの執着を嵩に与えられなかったことが、この日の進路選択の重みを失することになっていると思いました。子どもの頃の嵩から絵を奪ったら死んでしまいそうだったじゃない。それが子どもから青年への成長だというのなら、そんなつまんない成長を描かれてもねえ、となってしまうし。
で、そのシラケムードに追い打ちをかけたのが、のぶ(今田美桜)に背中を押されたときの「勇気100倍だ」ですよ。ここまでしつこくアンパンマンから引用されるとね、頭に浮かぶのは往年のやなせ先生やアンパンマンの顔ではないんですよ。中園ミホの顔なんですよ。こっちはドラマ見てるねん、邪魔すんなってなるの。
でも、このときの「嵩は絵を描くために生まれてきた人やき」も含めて、今田美桜はなんか今日はよかった。ちなみにNHKプラスで見てるので、オープニングはもうずっと飛ばしてます。振り返りましょう。
どうして君が泣くの
まだのぶも泣いていないのに。
師範学校に入寮してしばらく経っていろいろあったのでしょうけれども、私たちが見たこの寮の厳しさは「早起き」「パイセンの便所に付き合う」「廊下で私語禁止」くらいで、そのもっとも理不尽だと思われた便所の件も叩き起こされたのぶであって、うさ子(志田彩良)は寝てたよね。
この日も洗濯物を押し付けられていて立浪がいたころのPL学園くらい厳しいんだろうなということは想像できたけど、うさ子が泣き出すほどの理不尽に遭っている場面は見てないんです。
だから急にうさ子が泣き出してびっくりしちゃう。話を聞けば、うさ子は気乗りしない縁談を断るために師範学校に進んだんだそうです。こいつもあの迫力美人先生・黒井雪子(瀧内公美)の圧迫面接を受けたんだよねえ。あの席でまさか「友人に感化されて」とか「縁談が気に食わなくて」とか言ったら怒鳴り散らされて落とされているだろうから、何か取り繕って語ったわけでしょう、その覚悟というものを。
到底、そういうことができる人には見えないんだよな。なんでこの人、受かったんだろう。と思ってたら、当の黒井雪子が現れて(暇なん?)、のぶが合格できたのは「体操の点数がほかの受験生に比べて極端に高かったから」だとか言ってくる。ごめん黒井、今その話してないねん。うさ子がなんで受かったのか教えてよ。「ボウフラよりも弱い」じゃないんだよ、見抜けよ、面接で。
河合優実との顔面コントラスト
河合優実と並ぶと、顔面のコントラストが映えるんですよね。寮から帰ってきて夕食のシーン、のぶの帰宅した喜びが顔面から発露していて、ようやく今田美桜にのぶが「入った」と感じられました。豪ちゃんがあんぱんを差し出すタイミングはどうかと思いますが、すごくどうかと思いますけれども、あんぱん食いながら泣き出しちゃうのぶもよかった。
無理くり探さなくても次々にツッコミどころが現れるし、自然と「いいじゃん」と感じられるシーンも少なくない。ただ、作り手側があんぱんに固執したりアンパンマンからの引用を出すことを「微笑ましかろう」と思って提供していて、それが上手くいっていないことだけは確かだと思うので、戦争に入っていくのがかなり不安だな、と。今日のところはそんな感じです。はい。
(文=どらまっ子AKIちゃん)