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『あんぱん』第23回 蘭子が変な男に嫁いじゃう! あの日のアウトフォーカスを君は覚えているか

今田美桜(写真:サイゾー)
今田美桜(写真:サイゾー)

 今日はみんな大好き蘭子さん(河合優実)に嫁取りがやってきたNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』、見初めたのは子どものころにのぶ(今田美桜)に下駄でシバかれ、パン食い競争ではズルを働いて当の蘭子さんに「食パンの角に頭をぶつけて死ね」と言われていた岩男さんでした。

『あんぱん』嵩の決断が重大に見えない

 聞けば岩男さんは材木商を営む家の長男だそうで、パン食い競争の日に蘭子さんに一目惚れ。その後も勤務先の郵便局まで蘭子さんを付け回し、思いを募らせていたんだそうです。結婚後も、蘭子さんを郵便局まで運転手付きの自動車で送迎すると言っています。

 豪商の家に嫁いでまで仕事を続ける必要があるのかどうかよくわかりませんが、とにかく蘭子さんにとってはこれ以上ない縁談、めっちゃ玉の輿。石屋の弟子っこ・豪ちゃん(細田佳央太)に後ろ髪引かれる思いはあれど、蘭子もいろいろ考えて岩男家に嫁ぐ決意を固めたのでした。

 豪ちゃんに惹かれつつ、岩男に嫁ぐことを決めた。

 そういう構図が事実関係として描かれたわけですが、どうにも事実関係以上のところが伝わってこないんですよね。

 豪ちゃんは蘭子さんが物心ついたころから朝田の家で住み込みで働いていて、その石屋としての腕は親方である釜じい(吉田鋼太郎)からも認められるところです。朝田にはほかに弟子はいませんし、どうやら豪ちゃんも身寄りがなさそうなので、跡取りということなのでしょう。

 豪ちゃんについては幼少パートで印象的なシーンがあって、結太郎(加瀬亮)が死んだとき、落ち込む大人たちの向こうで蘭子とメイコと3人で楽しそうに遊んでいたことがあったんですよね。あのとき、いい男だな、と思ったんだよな。豪ちゃんと結太郎の間にはそんなに深い関係はなかったかもしれないけれど、親方やおかみさんの悲しみは痛いほどわかっていたはずの豪ちゃん。そんな豪ちゃんが、事情を呑み込めない幼い2人の子どもが退屈しないように、遊んであげていた。

 あのときのこと、蘭子は覚えていたのだろうかと考えるんです。

 今のパートになって、ふとしたときに蘭子と豪ちゃんの間で「あのときはよくわからなかったけど、豪ちゃん、遊んでくれたよね」みたいな会話があったら、蘭子が岩男の家に嫁ぐ決断にも葛藤が見えたと思うんだけど、そこらへんは言わぬが花というところなんでしょうか。だったらママ(江口のりこ)がパパからの手紙を後出ししてまで「本当に好きな人と~」みたいなことを言い出すセンチメンタルと折り合いがつかないと思うんだけど。

 いずれにしろ蘭子フリークである私たちにとって、この縁談は一大事なわけです。寛(竹野内豊)&千代子(戸田菜穂)夫妻と結太郎&羽多子夫妻は「本当に好き」で結婚してたことが示されて、一方で蘭子が「家同士」みたいな事情でもって嫁ぐ決意をするのであれば、蘭子の「本当に好き」という気持ちはもうちょいあからさまに描いてもよかったんじゃないかと思うんですよ。まあこのへんは切り裂かれる蘭子、切り裂かれる河合優実をもっと見せろという視聴者的な欲望でもあるわけですけど。

 そういうわけで第23回、振り返りましょう。

コンパクトな師範学校

 迫力美人の黒川雪子(瀧内公美)が「国語と体操を担当する」と言い出したときからそんな予感はあったんですが、師範学校での風景はとことんコンパクトに作られていくようです。のぶとうさ子(志田彩良)、黒川、それに同部屋のパイセン2人、それ以外はモブということになるのでしょう。

 今日も元気になぎなたの授業が行われていますが、黒川雪子は版でおしたように「強くなれ」と繰り返します。

「これからの日本婦人は、温順貞淑なだけではいけません!」

 言ってることはわからんでもないんだけど、先生になるための学校なんだよねえ。寮生活も含めて、どうにもこのスパルタ体制に違和感があるんだよな。当時の「女性教師」という存在へのドラマの解釈として、まず釜じいの「嫁の貰い手がなくなる」というのがあって、その次にのぶの女学校にいた普通に働いている女性教師がいて、そんで黒川雪子が出てきた。キャラがバラバラなんですよね。のぶとうさ子が目指すべき教師像も、黒川雪子が育てたいと思っている教師像も、その両方が見えてこない。

 だから、のぶとうさ子がこの教育に耐えているモチベーションが伝わってこない。特にうさ子なんて泣くほど辞めたがっていたのに、土日に帰省して家族とどんな話をしてきたのかも描かれていないので、「ねえ、のぶちゃん。一緒に強うならん?」とか言われても知らんし、のぶが「同じこと考えちょった」理由もわからん。

 のぶにしろ蘭子にしろ、どういうことが起こっているのかはよくわかるんですが、何を考えているのかが日増しにわからなくなっていて、ドラマに置き去りにされている感覚が否めなくなってきました。状況は追えるけど、セリフが頭に入ってこなくなってきた。

「あなたのウイスキー、どんな味がするがやろかと思って」

 と言った戸田菜穂はうなじが美しくて、このセリフはばっちり入ってきました。うなじ、いいよね。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/04/30 14:00