『ダウンタウンチャンネル(仮)』がもたらす影響を識者が予測 「見たい人だけ見ればいい」の時代が加速へ

今夏にスタート予定の『ダウンタウンチャンネル(仮)』の概要が徐々に明らかになってきた。国内外の企業から数十億円の出資を受ける見込みだと伝えられ、想像以上の規模感に期待の声が集まっている。オリジナルコンテンツはもちろん、新たな賞レースの開催や、ダウンタウンが出演した過去のテレビ番組をアーカイブ配信する案などもあるとされ、その充実ぶりによってはテレビ局を脅かす存在になりそうだ。
テレビ局に匹敵する配信プラットフォームになる可能性を秘めた『ダウンタウンチャンネル(仮)』の見通しや成否のカギなどについて、お笑い事情に詳しい芸能ライターが分析する。
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出資規模は数十億円、アーカイブ配信や賞レース開催の案も
『ダウンタウンチャンネル(仮)』については、現在活動休止中の松本人志が昨年12月のインタビュー記事で「『ダウンタウン』を見るならここという独自の基地局を作る」「見たい人に見てもらいたいものを直接届ける」と構想を告白。松本は「何をやるにしても、最初は浜田と2人でやりたいと思います」とも口にしたといい、相方の浜田雅功とそろってチャンネルをスタートさせるようだ。YouTubeなどの既存メディアではなく、独自のプラットフォームを用いた定額制の配信サービスになるとされている。
ここ最近になって具体的な概要が各メディアで報じられており、開始時期は今夏で早ければ7月にもスタートする見込みだ。概要に関しては、報道を総合すると「所属する吉本興業がコンテンツ制作資金の調達を目的としたファンドを設立し、国内外の企業からの出資規模は数十億円を見込んでいる」「権利関係を調整した上でダウンタウンが出演した過去の番組をアーカイブ配信する案があり、フジテレビ系『ダウンタウンのごっつええ感じ』や日本テレビ系『松本紳助』などが候補に入っている」「松本は新たなお笑い賞レースの立ち上げに興味を示している」といった内容が伝えられている。
ダウンタウンを中心にしたオリジナルコンテンツに加え、過去の人気番組のアーカイブ配信や独自の賞レース開催なども実現すれば、単なる配信プラットフォームのレベルを超えて「テレビ局を脅かす存在」になるだろう。
アーカイブ配信が実現すればキラーコンテンツに
お笑い事情に詳しい芸能ライターの田辺ユウキ氏は、業界も大注目している『ダウンタウンチャンネル(仮)』にこのような期待を示す。
「もともとは『春ごろにスタート』との報道があり、私は、それはさすがに焦りすぎな気がしました。やるのであれば時間をかけて作った方がいい。実際に開始時期が『今夏』へとワンシーズンズレたことで、期待感がふくらんだ。スタートダッシュに関しては成功しそうな感じがします。そのなかでも一番の期待は、ダウンタウンがこれまで取り組んできた数々の番組のアーカイブチャンネルになる可能性があること。すなわちそれは『お笑いの歴史』の一つをたどれる、ということです。
DVDやBlu-rayにはなっているものの、配信で見ることができないものは多数あります。たとえば、ダウンタウンのブレイクのきっかけとなった1980年代の関西のバラエティ『4時ですよーだ』(毎日放送)を、全回とはいわずともいくつか配信するだけで大反響となるはず。全国進出の足がかりを築いた『夢で逢えたら』(フジテレビ系)なども見たいですよね。ダウンタウンの若手時代の出演番組は希少価値が高いので、もしそれらがラインナップに加わるとなれば、相当強いコンテンツになります。
また、松本人志さんが監督した映画作品も、現行の配信サービスなどではあまり見る機会がないものばかりです。私は『大日本人』(2007年)や『しんぼる』(2009年)をかなりおもしろく鑑賞したのですが、やはり公開時期以降、鑑賞機会に恵まれていませんから、配信ラインナップに入れてほしいですね。不評が先立つ両作品ですが、考察鑑賞が根付いた昨今、どのように受け止められるか気になります」
オリジナルコンテンツだけでなくアーカイブ配信も充実すれば、お笑い好きにとってたまらない媒体になりそうだ。その一方、田辺氏はこのような懸念を示す。
「噂では新たな賞レースの設立案もあるようですが、もし従来のような、漫才、コントなどを対象とする内容であれば、そこは慎重になってもらいたいです。『M-1グランプリ』や『キングオブコント』を頂点とする図式をキープした方がお笑い界にとっては健全な気がするので、ここにダウンタウンが絡んでくると、食い合いになりかねない。もし本当に実施されるのであれば、ダウンタウンだからこそのフォーマットであることが必要なのではないでしょうか」
『ダウンタウンチャンネル(仮)』がテレビ業界に与える影響
さまざまな意味で業界にも大きな影響を与えそうな『ダウンタウンチャンネル(仮)』。一部では「テレビにトドメを刺す」といった報道もあるが、田辺氏はこう分析する。
「こうした配信サービスは『見たい人だけが見ればいい』という構造ですが、もともとダウンタウンは、若手時代からそういう風潮の中で番組をやっていました。『ごっつええ感じ』も、『親が子どもに見せたくない番組』という風に言われたりもしていましたから。そういう意味では、配信サービスなどない時代から『見たい人だけが見ればいい』を背負ってきた存在です。
現在はNetflixなどのサービスが浸透し、『自分が見たいものを選択できる時代』になり、そういう考え方が一般に定着した。少し前であれば、定額料金を払って“テレビ”を見るという習慣がなかったため、映画を除く映像コンテンツにお金を落とすことに抵抗感があったはず。しかし、今はお金を払って好きなものが見られるのであれば、そうするという人が増えました。『ダウンタウンチャンネル(仮)』がそのムードをより強めることは間違いなく、その点で『テレビにトドメを刺す』は一理あると思います」
この流れは出演者だけでなく制作者の側にも波及し、業界に大きな変革をもたらしそうだという。田辺氏は続ける。
「テレビはこれからより分かりやすく、広告事業化すると思います。実際にテレビのバラエティは、食べ歩きグルメ系、知識系、音楽系、動物系あたりの似たようなものばかり。それらが『つまらない』というわけではありません。しかし新鮮味にはどうしても欠ける。画期的な内容を生み出すことができていません。逆に『ダウンタウンチャンネル(仮)』はスポンサーにとらわれすぎず、もっと純粋に『おもしろさ』を追い求めるでしょうから、そういった志向の強いテレビ制作者たちはそちらへ流れる可能性はあるのではないでしょうか。
コンプラの強化によって地上波でバラエティをやることがリスクになるのであれば、作り手がもっと自由に表現ができるコンテンツへ行くのは自然な流れ。若い映像制作者たちが、テレビではなく『ダウンタウンチャンネル(仮)』などのほかの映像コンテンツを進路として志望する傾向は強まりそうです。実際、ABEMAのオリジナルバラエティを見ていると、地上波にはないチャレンジングで刺激的な要素がたくさんあります。番組制作者もそれは重々分かっているでしょう。そうなるとテレビはますます縮小していくかもしれません」
(文=佐藤勇馬)
協力=田辺ユウキ
大阪を拠点に芸能ライターとして活動。映画、アイドル、テレビ、お笑いなど地上から地下まで幅広く考察。