トンツカタン森本晋太郎インタビュー「相手のためにも自分のためにも、極力ツッコミを変えてあげたい」

数々のバラエティ番組でMCを務め、業界内外ともに「ツッコミガチ勢」と実力を高く評価されているお笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当・森本晋太郎が、初の著書となる『ツッコミのお作法 ちょっとだけ話しやすくなる50のやり方』を発売。ツッコミの事例や、そのツッコミにまつわるエピソードなど、自身のツッコミ哲学が凝縮された本書を書いた経緯や、バラエティでの処し方などを中心に話を聞いた。
<インフォメーション>
好評発売中!
価格:1,760円(10%税込)
発売・発行:株式会社KADOKAWA
公式サイト:https://www.kadokawa.co.jp/product/322501001665/
<プロフィール>
1990年1月9日生まれ。東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。
公式プロフィール:https://www.p-jinriki.com/talent/tontsucatan/
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCcvYy1glVNbgf7xti6dPEHQ
Instagram:https://www.instagram.com/smnypktn/
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現時点での集大成になった初の著書
──初の著書『ツッコミのお作法 ちょっとだけ話しやすくなる50のやり方』はダ・ヴィンチWebでの連載「ツッコミのお作法」が元になっていますが、自身のツッコミを分析したり、振り返ったりすることはありましたか?
森本 ツッコミに関しては考えないようにしていたというか、感覚で思うままにやらないと、お笑いが楽しくなくなっちゃうのかなと思って、あんまり根を詰めて考えなかったんです。でも連載を通じて、改めてキャリアを振り返る良い機会になりましたし、あのときはこういうふうに考えていたんだなって、自分の中でのセーブポイントを本という形にできたのは良かったなと思います。
──毎週、『大久保佳代子・森本晋太郎のどうぞご自由に』(CBCラジオ)を愛聴しているのですが、最近ラジオでも触れていたエピソードも入っていますよね。
森本 せっかくだったら最新のエピソードも入れたいなと思って、ギリギリまで書かせてもらいました。
──書籍にするにあたって、かなり加筆修正をしたそうですね。
森本 Webで読むのと、本になって読むのとでは、ちょっと印象が違うなと思ったんです。本にするときは、ここを変えたいというのもありましたし、付け加えるエピソードも増えたので、だいぶ連載時とは変わっています。
──ご自身のツッコミ例がふんだんに収められていますが、細かい部分まで覚えているものですか?
森本 それが全然覚えてないんですよ(笑)。だいぶ絞り出しましたね。というのも、なるべく自分のツッコミを覚えないようにしているんです。「この前は、これ言えたよな」とか記憶に残っちゃうと、同じシチュエーションが出たときに「あれ? これ前に言ったツッコミだけどバレないかな」とか、余計なことを考えちゃったりして、ちょっとツッコミが遅れるんです。
──YouTubeチャンネル『タイマン森本』を見るたびに、森本さんの豊富なボキャブラリーに圧倒されるのですが、日頃から新しいフレーズをインプットするようにしているのでしょうか。
森本 そこも「覚えておこう」とは思わないようにしています。似たようなテイストのボケだったり、流行に乗っかったボケだったりは、似通ったツッコミになっちゃったりしますけど、相手のためにも自分のためにも、極力変えてあげたいなと思います。
──記憶力はいいほうですか?
森本 そんなによくないんですが、ツッコミの必要性に駆られたときや追い詰められたときに、猛スピードで過去の引き出しから探して、「こういうのあったな」と思い出すこともあります。ピンチのときに記憶力が伸びるみたいなのはあるかもしれないですね。
──本書で意外だったのは、ほとんど本は読まないそうですね。
森本 マンガは読むんですけど、活字はあんまり読めなくて。そんな奴が本を書くのかというツッコミもあるでしょうが、当たり前ですけど何回も読み返してチェックしましたし、自分が読みやすい本を心がけました。
──文章でツッコミを表現するのは難しくなかったですか?
森本 難しかったですね。「。」で終わらせるのか、「!」で終わせるのかでも、印象が違いますからね。ものによっては「!」で終わらせるとくどいですし、絶対に「!」で終わらせたほうがよいものもあるし、そこは読んだ人が寒くならないようにこだわりました。
──これだけツッコミの例を書くと、自身の手の内を明かす面もありますよね。
森本 本当そうなんです。初めての本だから一生懸命書くというのをやっていたら、全部詰め込んじゃって。先日、帯を書いてくれた佐久間宣行さんにお会いしたとき、「めっちゃ面白かったけど引退するの?」と言われて、そこで「そうか。書きすぎるということもあるんだ」とハッとしました。でも全く悔いなしというか、ここからどう僕のツッコミのお作法や考え方が変わっていくのかというわくわく感もありますし、現時点での僕の集大成になったと思います。

佐久間宣行さんのラジオに出演したときの失敗に学んだ
──もともと本を出したい気持ちがあったそうですね。
森本 本を読まない奴が何を言ってるんだって話ですが、本とDVDを出すのが夢の一つだったんです。DVDを出す夢は芸歴5,6年目のときに叶って、単独ライブのDVDがTSUTAYAに並んでいるのを見て「うわー!」と思ったんですが、次は書店に自分の本が並んでいる光景を見たかったんです。とはいえ本も読まないのに、何を書くことがあるんだろうか、自分には難しいだろうなと思っていたんです。だから今回のお話をいただいたときに、「ツッコミで本になるのか」と目から鱗でした。
──他に書きたいジャンルやテーマはありましたか?
森本 一応ネタを書いているので、小説みたいなのを書くのかなとか、コラムの連載もやっているので、それをまとめた本なのかなと漠然とは思っていたんです。そこからまさかのツッコミがカットインしてきました。
──実用書的な側面もありますよね。
森本 めちゃくちゃツッコミが上手くなるとかではないですし、僕もそんなに売れているツッコミではないんですが、マインドとしては使えるのかなと思います。コミュニケーションにおいて、こういうふうに人と接すると信頼を得やすいよ、みたいな。お笑いって信頼関係がめちゃくちゃ大事だなと痛感することも多いので、そのきっかけになる本かなと思います。
──ネタを書くのと本を書くのでは違いましたか?
森本 全然違います。ネタは本当に自分が面白いと思うものを起承転結で書きますが、今回は失敗談も含めて自分の体験談を赤裸々に書いたりもしたので、使っている脳みそが違うなと思いました。
──先ほどお話に出た佐久間さんのラジオに初めて出たときの失敗談も書かれていますが、以前のツッコミは今に比べて強めだったんですね。
森本 あのときはやっちゃいましたね……。若手芸人のお笑いライブでいじられたときに、強く返したのがウケたという成功体験があったから、いじられたら強く返すみたいなのを誰彼構わずやってしまっていたんです。その最たる例が佐久間さんのラジオだったんですが、失敗から学ぶというか。ツッコミって誰彼構わず同じ条件でやればいい訳じゃないんだと身に染みて理解しました。その人との関係性だったり、ツッコミのスタンスみたいなのが大切なんだと思わせてくれたきっかけになりましたね。
──YouTubeチャンネル『NewsPicks』で共演されているアレン様を始め、芸人以外の人たちと共演するときは、どんなことを意識して臨んでいますか。
森本 やっぱり普段のスタンスとは違います。アレン様は全くの初対面からの共演で、もちろん存じ上げてはいましたが、めちゃくちゃ詳しい訳でもなかったので、どれぐらいグイッと行って、どれぐらいツッコんでいいものなのか分からなかったんです。いきなり収録が始まって、最初は様子を見て、アレン様というキャラクターを何となく自分の中で理解してから、コミュニケーションを図っていきました。今でこそ「嘘つけ!」とか強めのツッコミもしますが、それもアレン様に信頼していただいたからで、全部受け入れてくださるんです。ご本人の度量の深さもありますが、インスタで僕のことを「進行役のBoyことトンツカタン森本坊チャン」と書いてくださって、信頼してくださっているのかなとうれしかったです。最初から激しくツッコんでいたら、ここまで信頼もしてくださらなかっただろうし、オープンになってくれなかったでしょうね。
──大御所との共演はいかがですか?
森本 本当に難しいですね。ベテランの方はスケールが違うから、ボケみたいなことを本気でやったりするじゃないですか。だから目上の方であればあるほど丁寧にやるように心掛けるようにしています。丁寧にやって、大御所の方が機嫌よく番組を進められることのほうが、僕が2、3発ツッコミ入れるよりも絶対優先すべきこと。もちろん笑いも優先順位は高いですが、それ以上にみんなが気持ちよく収録やライブができる空気を作るほうを大事にしています。

グラデーションシャツがきっかけでいじられるようになった
──早くからお笑いライブでMCやまとめ役を任されることが多かったそうですね。
森本 別に実力が認められてみたいな、かっこいい話じゃなくて、当時はネタ番組もほぼなくて、若手が出られる番組がなかったんです。賞レースやコンテストで優勝して、一瞬テレビに出るぐらいしかルートがなくて、YouTubeチャンネルやネット配信もそんなになかったんですよね。そうするとライブで企画をやるときに、先輩方がMCをやりたがらなかったんですよ。なぜなら今MCをやっても、そこで培ったスキルをいつ発揮できるか分からないから。だったらプレーヤーとしているほうが、バラエティの雛壇などで実力を発揮できる可能性もある。それで、どんどん下に話が来て、そんなに僕もMCが嫌いじゃなかったので、「やります!」みたいな感じで割と早い段階からやらせてもらえるようになったんです。
──何が何でも自分がやりたいという訳ではなく?
森本 流れでという感じでした。MCが得意という訳でもなかったですしね。ただ学生時代から、大勢に取り囲まれてボケられるみたいな状況は多かったですね。
──ツッコミって喜ばれますしね。
森本 喜んでくれますし、僕もツッコむのが好きでした。
──やはり芸人同士のほうがツッコミもやりやすいですか?
森本 そうですね。特に同世代の芸人で、旧友・戦友たちとやれる現場はほっとするし、安心感があります。それこそアレン様とやっている番組の初回収録は全員初対面だったんですよ。そんな状況で「この件について、〇〇さんはどう思いますか」と回すのに比べたら、芸人同士はどうツッコんでも受け入れてくれるやりやすさがあります。逆に全員初対面の中で、どうやって現場を切り崩していくのかというわくわく感もあって、そこにやりがいも感じますね。
──芸人さん以外から面白さを引き出す裏回し的なことも考えたりしますか?
森本 もちろん大喜利っぽく振るというのはしないですけど、信頼をしてもらえればもらえるほど、その人の素や本心みたいなものが出てくるんですよね。生放送は置いといて、厳密に時間が決まってない現場だと、とにかく会話をしていれば、いつかはボケてくれて、ツッコむことができます。それまで待てば理論上は上手くいくんじゃないかと思っています。それに表舞台に出る人はサービス精神があるので、めっちゃ待つってことはないですし、その精神でいると焦ることもないです。
──今後もどんどんMCはやっていきたいという気持ちですか?
森本 褒めていただけることもあるので、得意なことはやっていきたいなと思います。
──同世代の芸人さんで、森本さんほどピンでMCを任される方も珍しいですよね。
森本 不思議な露出の仕方はしていますね。肩書きも実績もある訳じゃないですけど、MCとして呼んでいただけているので、もっと伸ばしていきたいです。
──自分もボケたいと思うことはないんですか?
森本 あんまりないですね。思いついたら言いたいときもありますけど、いかんせんツッコミやMCをやっていると、いきなりボケるとびっくりされることもあります。ちゃんと動線を作って自然な感じでボケを入れないといけなくて、思いついたからって言える訳じゃありません。僕しかツッコミがいなかったりもするし、その辺はシチュエーションを見ながら、タイミングを伺いながらやっています。
──森本さんはいじられる局面も多いですが、これほどいじられるようになったのはいつ頃からですか。
森本 時期としては、このグラデーションシャツを着始めてから一気にいじられるようになりました。最初は「こんないじられるんだ……」という感じでしたけど、決して嫌じゃないんですよ。
──どういうきっかけで着始めたのでしょうか。
森本 テレビとかで時間の制約があるときは「自分で買った」とか言ってますけど、実際はスタイリストさんに「MCをしていても違和感のない格好を見繕ってください」と言ったら、これを持ってきてくれて。プロが言うなら間違いないと思って着ていたら、「何だよ、その服!」といじられて。今じゃトレードマークになっているので、ありがたいですね。
──同じグラデーションシャツを何着お持ちなんですか?
森本 計3着です。ユニクロなんですけど、僕が着始めてから、ネットの「ユニクロで買ってはいけない損アイテム」のワースト1に選ばれて。それ以降、店頭から姿を消したんです。だから今買うのはめちゃくちゃ難しいんです。フリマアプリやメルカリでも探すんですが、SやXLしかサイズがなくて、買い溜めもできないんですよね。「トンツカタン森本」と検索したら、これが出てくるんですけど、「トンツカタン森本愛用」と書いてあることが多くて、「それじゃ売れないだろ!」と思いながら見ています。
──今着ているものがダメになったら、入手が難しいんですね。
森本 実は数ヵ月前にファンの方から差し入れをいただいて、何だろうと思って開けてみたら、新品のグラデーションシャツでサイズもMでした。「うれしい!」と思って、一緒に入っていた手紙を読んだら、普通そういうのって「いつも応援してます」みたいな内容じゃないですか。でもその手紙には1枚にびっしり、いかにこのシャツを調達するのが大変だったかという苦労話が書かれていて(笑)。「これは大切にしないとな」と身が引き締まる思いで、おろすのも緊張しました。
──いずれは品切れになる日もくるでしょうしね。
森本 入手できなくなったときは、新しいグラデーションシャツをオーダーするのか、もしくはグラデーションシャツを脱ぐ日が来るのか……。こればかりは分からないんですが、人力舎の社長は「みっともないから今すぐ脱げ」と言っているんですよね(笑)。
(取材・文=猪口貴裕)