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『あんぱん』第39回 主人公・のぶの人物像が意味不明過ぎて、いよいよ不快になってきた

今田美桜(写真:サイゾー)
今田美桜(写真:サイゾー)

 やなせたかし夫妻の物語を描く上で幼少期は外せないから、のぶと嵩を幼なじみにした。でも、実際の暢さんの子ども時代の資料はほとんど残ってないから、そこは創作することにした。

『あんぱん』今田美桜が河合優実の噛ませ犬に

 そういうことをする上で、もしかしたら「幼少期から少女期はこんな人だった」と決めつけることにためらいがあるのかもしれないな、と今日は感じたんですよね。特に女学校から教師になるまでの間、NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』で描かれているのぶさんという人物がどんな人で、局面局面で何を考えているのか全然わからないシーンがずっと続いている。

 ドラマとしては、のぶさんを大いに振り回しています。パン食い競争に参加させて、ラジオ体操をしてたら「教師の夢」が空から降ってきて師範学校に入って、豪ちゃんが戦争に取られたら愛国に目覚めて、その豪ちゃんが死んだら泣いて。

 嵩との関係も、嵩が東京に行って浮かれてたら怒って、嵩パパ(竹野内豊)になんかいいことを言われたら泣いて。

 かろうじて共感できたのは豪ちゃんが死んで泣いたところですが、そりゃ泣くだろうし、泣きながら蘭子(河合優実)に「立派だと思え、誇れ」みたいなこと言ってたから、その言い分にはまるで共感できない。

 何かこう、のぶというキャラクターに魂を込めないまま、今後の展開のための段取りだけが整えられていく感じ、既成事実だけが積み上げられていく感じが、実に気味が悪いと言いますか、すでに今後こののぶという人の言葉や行動を見てこっちが泣いちゃうようなことはないんだろうなという確信めいた絶望と言いますか、そういうものがあるわけです。ちょっと無理だなと思い始めちゃってる。

 今日も今日とて、でした。第39回、振り返りましょう。

「不快ではない」でもなくなってきた

 このドラマについて、繰り返し「さりとて不快ではない」と述べてまいりましたが、いよいよ今日は不快感も加算されてきました。

 豪ちゃんが死んでしばらく学校を休んでいたらしいのぶさん(今田美桜)、子どもたちに囲まれて薄にっこりしています。子どもたちは口々に、「自分も兵隊になってお国のために命を惜しまない」だとか「従軍看護婦になる」だとか、のぶさんの教えに忠実に従ってすくすくと育った愛国児童らしい言葉を口にしています。

 のぶさんはそんな児童たちを尻目に窓際でアンニュイ。豪ちゃんを失った蘭子の「どこが立派ながで」という横顔を思い出していました。

 ここ、なんかすげえイラっとしたんだよな。今さらその顔なの? って思ったんです。これって、自分が教えている戦争賛美がもしかしたら間違っているのかもしれないという逡巡だよね。

 自分は子どもたちに軍国主義を叩き込んでいて、その子どもが良かれと思って豪ちゃんの葬式にやってきたことで蘭子が傷ついてしまった。そういうことがあって、しばらく学校を休んでたんだよね。

 その休んでいる間に、何か考えるでしょう。蘭子に「嘘っぱちや!」って詰められて、のぶはどう思ったのか。少なくとも自分なりの「嘘っぱちかどうか」という結論なり覚悟なりを持って教壇に戻るところでしょう。そこを飛ばしてるから、のぶという人の人物像が伝わってこないんです。

 これ、以前もあったんですよね。のぶが嵩(北村匠海)をビンタして「謝らないかんな」という場面、のぶがどんなふうに嵩に謝って、嵩がどんなふうに許したのかが描かれていない。

 事件があって、日常に戻る。その事件をきっかけに変化が訪れなかったらドラマの中で事件を起こす意味がないし、その変化は事件と日常の間の時間に発生するはずです。その変化の以前と以後を比較して、私たちは「この人はこういう人なんだ」という理解を得るんです。

 今回でいえば、学校に戻る前にヤムおじ(阿部サダヲ)とちゃんと話をするシーンがあったらなと思ったんですよ。蘭子に「嘘っぱちや!」と言われたんだけど、ヤムさんどう思う? 私、間違ってるのかな、このまま学校で愛国教育を続けてもいいのかな、そういう自問に真剣に向き合う姿が見たかったし、おそらくヤムは「自分で考えれば?」的なことを言って、そこに小さな衝突が起こるかもしれない。そうしてのぶは「どういうスタンスで学校に戻るべきか」という結論を得て、その上で子どもたちの顔を見て、また何かを考える。そのワンステップが抜けているから、何も考えてない薄情者にしか見えなくなる。で、そのワンステップを描くことから、『あんぱん』はずっと逃げ続けているように見える。

 だから、イラっとするのよ。

雑次郎

 次郎が単独で嫁取りに乗り込んでくるくだりは、いつになく雑でしたねえ。まず何その写真は。あのカメラは自動露出オートフォーカスマクロレンズ無音シャッターなの? 海外版iPhone16? Pro? ふざけんなよ。

 お見合いの後にいきなりひとりで訪ねてくるのもおかしいし、結局「顔が好き」くらいしか言ってないのに釜じい(吉田鋼太郎)は「そこまで真剣に……!」とか言ってるし、マジでどうでもよくなっちゃう。

 のぶはのぶで「決心がつきません」と断りますが、豪ちゃんが死んだことでこの人の仕事に対するモチベーションがどう変わったのかわからないから、気分で断ってるようにしか見えない。

 蘭子の「姉ちゃんは子どもらの手本にならなきゃいけないから、うちのせいで行き遅れたら迷惑や」も何を言っているのかわからないし、その言葉を受けてのぶがにっこり笑う意味もわからない。もう何もわからない。

 冒頭で「こんな人だったと決めつけることにためらいがあるのかもしれない」と書いたけど、ためらいというより作り手の中で整理ができてないような気がしますね。段取りを積み重ねることで精いっぱいで、「こんな人だった」というところまで詰められてない。優先順位がおかしくなってる。

嵩もキツいわ

 のぶのことで吹っ切れて絵のタッチが明るいものに戻ったというなら、戦争とか関係なく女のことでウジウジして商業デザインにそぐわない暗い絵ばっかり描いてたってことなの?

 こいつ才能ないんじゃないの? 知らんけど。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/05/22 14:00