CYZO ONLINE > 芸能の記事一覧 > 『あんぱん』主人公の結婚を祝福できない

『あんぱん』第40回 主人公が結婚することになったというのに、まるで祝福できないよ

今田美桜(写真:サイゾー)
今田美桜(写真:サイゾー)

 のぶちゃん、好きだったんだよなぁ、子どものころ。その子が結婚することになって、こんなに喜べないし祝福できないというのは、ドラマを見ている上でとっても残念なことだなぁと感じます。いやー喜べない。祝福できないわ。本当に興味がなくなっちゃう。

『あんぱん』主人公が意味不明すぎる

 NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』がここ何週かやってきたことというのは、のぶ(今田美桜)に教師になるという夢を抱かせて、師範学校に行かせて、愛国精神に目覚めさせて、豪ちゃんを殺してその愛国に疑問を持たせるということだったわけですよね。その疑問を吐露した先が、昨日今日出てきた男だったことに興ざめしてしまうわけです。

 のぶと嵩(北村匠海)がいつか結婚することはわかっていて、史実としてはのぶにとって嵩との結婚は再婚だから、その前に誰かと籍を入れておく必要がある。その「史実に合わせる」という作業のためだけに次郎という船乗りを登場させて、亡きパパ結太郎(加瀬亮)と同じセリフをあてがって、はい結婚することにしましたおめでとうよかったねって、誰が祝福できるのよ。なんで朝田の家のみんなはうれしそうなのよ。

 のぶという人にちゃんと寄り添うなら、この人が「子どもらに愛国を説くのは本当はつらい」という思いに至ったことは大事件だと思うわけです。ここ数年の価値観がひっくり返ったわけだから、もう足元から人生が揺らぐような出来事ですよね。

 そういう大事件に主人公が見舞われたとき、私たちが見たいのは「じゃあ、そののぶに対してあの人はどう思うんだろう」ということなわけです。

「子どもらに愛国を説くのは本当はつらい」

 のぶがそう言ったとき、例えばヤム(阿部サダヲ)は何と言うだろう。

 蘭子(河合優実)はどう思うだろう。

 わりと先進的なママ(江口のりこ)は、豪ちゃんの墓石を彫れないほど落ち込んでいる釜じい(吉田鋼太郎)は、黒井先生は、うさ子は、そんなのぶに対してどんな言葉をかけるのだろう。

 のぶの「愛国の鑑」がいつか折れるんだろうなとは思ってたけど、それが折れたことに対するリアクションが、よく知らない次郎という人にしかない。それをもって次郎という人を「のぶが唯一、本音を話せる人」と位置づけ、結婚させてしまう。

 全員意味ねーじゃん、ってなっちゃうんだよな。朝田の家族も豪ちゃんも、駅で盛大にのぶを泣かせた寛先生(竹野内豊)も、その全員が「のぶが本音を話せない人」になってしまう。ここまで『あんぱん』が描いてきたあらゆる人間関係が水泡に帰してしまう。

 のぶが次郎にだけ「本音を話せる」理由がないんです。ただただ、のぶを嵩以外の人間と結婚させるという展開のためだけにそうなっている。

 もう本当につまらないと思う。史実と違うことをやろうとして始まったドラマが、中途半端に史実に忠実であろうとするためにクソつまんないことになってる。第40回、振り返りましょう。

そういう何もかもを

 そういう何もかもを取っ払って、ただ今田美桜と中島歩のラブストーリーとして見たら全然悪くないのよね。次郎の穏やかな雰囲気もいいし、のぶが本音を告白する表情もすごくいい。「パパと同じこと言ってた……」と思い至って駆け出すところもロマンチックではある。街灯がつくタイミングも、まあいいでしょう素敵です。

 でもこの「素敵」は、結太郎と豪ちゃんという2人の人間が死んだことでしか成り立たない「素敵」なのよね。豪ちゃんが死んでなかったら、のぶの「本当はつらい」という感情は生まれていないし、結太郎が生きてたら「パパと同じこと言ってる」とはならない。

 そもそも次郎とのぶの結婚というのは嵩と結婚する前の前フリ、茶番であることはもうみんなわかっていて、その茶番を盛り上げようとするために2人の人間の死が利用されていることが不愉快だし、普通に離婚するのか死別か知らんけどもうすぐ別れる2人が結ばれるシーンなんて、いくらロマンチックに撮ったところでロマンチックにはならないんだよな。だってもうすぐ別れるんだから。

 先日も書きましたけど、ずっと消化試合を見せられているんですよね。「のぶと嵩を幼なじみにする」「のぶの最初の結婚は嵩ではない」という2つの要素がケンカしてしまって、この時期の主人公が何を考えて、何をやってても、どうでもよくなっちゃってる。これはもうプロットの段階から「この時期はつまらん」ということが確定しているということなんです。どうやっても、すぐ別れる2人がいかにして付き合ったかなんて興味を持てる話じゃないもの。

 それをどうにかこうにか、人の死まで総動員して盛り上げようとしている感じがすごく薄ら寒いことになってる。

 とりあえずのぶが次郎と別れてからが本編ということで、今は我慢しておきましょう。そうなると「次郎、早く死ね」ということになってしまうけど、まあしょうがないわな。次郎が死なないとおもしろくならないのだから。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん朝ドラ『あんぱん』全話レビュー

『おむすび』最終回もダメダメ

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/05/23 14:00