『THE SECOND』さんまと太田が「1点おかしい」と観客審査に苦言…「笑いを審査」することの難しさ

5月17日にフジテレビ系で放送されたお笑い賞レース『THE SECOND〜漫才トーナメント〜』決勝ステージで1点をつけた一般観客の審査について、大物芸人が相次いで苦言を呈している。多くのお笑い賞レースはプロの芸人による審査が主流になっており、一般人が審査を担当する『THE SECOND』は異色の存在だった。これをきっかけとして、一般人による審査の是非などについて議論が巻き起こっている。
『THE SECOND』は、結成年が16年以上で『M-1グランプリ』などのメジャー賞レースへの出場資格を失った漫才師の「セカンドチャンス」のために創設。1対1のノックアウト形式でのトーナメント戦で、第1回がギャロップ、第2回はガクテンソクが優勝し、3回目となる今年はツートライブが強敵たちを押しのけて頂点に立った。
各対戦の審査はスタジオ観覧の観客100名が担当。「とても面白かった」は3点、「面白かった」は2点、「面白くなかった」は1点という基準で採点するのだが、今年は第1回、第2回大会と比べて1点をつける人が大幅に減少した。3点をつける人が大半で高得点になりやすかったが、それだけに「1点をつけた観客」の存在が逆に目立っていた。
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明石家さんま、太田光が相次いで「観客審査」に苦言
ツートライブと囲碁将棋の激突となった今大会の決勝では、囲碁将棋に2人が1点をつけていた。ちなみに、囲碁将棋は1回戦、準決勝、そして決勝と、すべてのネタで1点をつけた観客がいた。これに対して、明石家さんまが5月24日に出演したMBSラジオ『ヤングタウン土曜日』で言及した。
さんまは「1点なんかつくわけがないねん、力があるし。『面白くない』には絶対入らへんねん、囲碁将棋は」と力説し、「あそこで1点つける人の気持ちがおかしいよな。決勝までいってるのにやな」と1点をつけた観客の採点に疑問を呈した。「今度フジテレビ行って聞いてみようと思って」とまで言い出し、共演の村上ショージから「人にはいろんな人がいてますから」とたしなめられても、「いや、おかしい。あれはどう考えてもおかしい」と納得がいかない様子だった。
これに爆笑問題の太田光が追随した。5月27日に放送されたTBSラジオ『爆笑問題カーボーイ』では、今大会で準決勝まで進んだ「はりけ〜んず」がゲストとして登場。太田が観客による審査について、「1点とか入れてる人いなかったっけ?」と切り出し、1回戦で芸歴54年目の大ベテランコンビ「ザ・ぼんち」に1点をつけた観客がいたことに対して「あれ、1点の奴、許せないよな!」と不満を爆発させた。
はりけ〜んずの前田登によると、ザ・ぼんちの里見まさとは落胆し、周囲に聞こえないような小声で「54年やってて1点かよ……」とこぼしていたという。太田は「あれはないよなあ」「ぼんちに1点、よく入れられるよね」などと、同情の意思を示した。
さんまや太田の意見に対して、ネット上では「なぜあれが1点なのか」と同調の声が上がる一方、『M-1』のようなプロ芸人による審査ならまだしも一般観客の審査に文句をつけるのは可哀そうだという声もある。また、そもそも面白いかどうかは個人の趣味嗜好によるところが大きく、誰もが納得できるような審査は存在しないという見方もあるようだ。
観客審査の是非について、識者の意見は?
さんまや太田が提起した「1点」問題について、お笑い事情に詳しい芸能ライターの田辺ユウキ氏はこのような見方を示す。
「プロの目から見ると、囲碁将棋、ザ・ぼんちのパフォーマンスは『1点(おもしろくない)の漫才ではない』ということ。そういった太田さん、さんまさんの評には納得です。私もプロの芸人ではないですが、囲碁将棋の完成度の高さと、6分という時間をフルに使って1本の筋のネタをやり切ったところに感服し、またザ・ぼんちの破壊力抜群の漫才には大笑いしました。
しかしプロの芸人が『1点』をつけることに苦言を呈したことで、『THE SECOND』の観客審査は今後、萎縮的になる可能性が極めて高くなった気がします。すでに今回の『THE SECOND』は1点をつける観客審査員=悪のような風潮がありました。特に前半は1点をつけるのが憚られている雰囲気すら感じました。
プロの芸人が観客審査に対してあれこれ言うことは、決して悪いことではありません。『M-1』などでは、プロの芸人の審査に対して“観客”は好き勝手なことを言うのですから。つまり、プロにはプロの目、“観客”には“観客”の目があり、それらの異なりの上でお笑いができているのです。ただ、そんな“観客”の目に審査を委ねるという方向性を『THE SECOND』が打ち出している以上、萎縮的な雰囲気になってはいけません」
さんまや太田が「1点はおかしい」と発言した影響は大きく、観客が委縮することで審査の意味をなさなくなるのではと危惧されているようだ。田辺氏は続ける。
「今回、同一と思われる観客審査員が囲碁将棋にやたらと低い点数をつけたことはいろいろ勘繰ってしまう部分があります。でも観客審査=好みの違いが出るのは当たり前。『M-1』などでのプロの芸人による審査でも好みは出ますから。ですので、今回の『THE SECOND』は、もっと点数がバラけてもおかしくない気がしました。もちろん大前提として、観客審査員はその点数にした理由付けについてはっきり言語化でき、自分なりの理論がないといけません。それらを含めて『THE SECOND』という大会なのだと思います。
ファイナリストは命を削って予選を勝ち抜いてきたので、そこはリスペクトするべき。しかし神聖化しすぎて点数評価がまともにできなくなるのであれば、順位を付けるようなことは避けたほうがいい。賞レースはやらず、ネタ番組にするべきでしょう。観客審査というシステムを『THE SECOND』が選択している以上、こういった議論は大会を重ねるごとにもっと増えるはず。主催側はそれでも観客審査員の判断を尊重できるかどうか、それが今後の鍵なのではないでしょうか」
プロ芸人の審査と観客審査の違い
今大会で物議を醸した「観客審査」と、M-1などで採用している「プロの芸人による審査」の違いについて、田辺氏はこう分析する。
「プロの芸人の審査員はよく、『このネタをどうやって思いついたのか分からない』とネタの斬新さを評しています。また、過去の漫才のスタイルと照らし合わせた上で、どれだけ新しいことをやっているかであったり、掛け合いの技術だったり、ほかにもワードのチョイス、キャラクター性などを総合的に見ています。大きい枠組みと構造の細かさの両方を見ているのだと思います。
では一般人(非お笑い芸人)の審査軸はどこになるのか。お笑いをやったことがない人やネタを考えたことがない人は、創作面、技術面について評価することはできないでしょう。一般人の審査でもっとも重視されているのは、シンプルにネタ=お話のおもしろさ。それをいかに的確に審査・評価できるかどうかが、観客審査において大切なことだと思います。そう考えると観客審査でもっとも必要とされるのは、ネタ(ストーリー)がおもしろいかどうかしっかり判断できるセンスではないでしょうか」
さらに田辺氏は観客審査の一つの特徴を挙げ、このように提言する。
「『THE SECOND』の観客審査のコメントを聞いていると、『言葉が聞き取れたかどうか』を重視している人がかなり多いのが印象的で、それが審査の一つのポイントになっていました。しかし、たしかに聞き取りやすいに越したことはないですが、個人的には『おもしろさを審査する上でそこまで重要なことなのかな』と感じてしまいます。ただそれでも、それが観客審査のリアルです。『THE SECOND』では、それも一つの審査対象になるということ。そこは大会の特色として受け入れるべきでしょう」
本気にせよ冗談半分にせよ、大物芸人たちが相次いで強烈なツッコミを入れたことは、今後の『THE SECOND』の観客審査に大きな影響を与えそうだ。
(文=佐藤勇馬)
協力=田辺ユウキ
大阪を拠点に芸能ライターとして活動。映画、アイドル、テレビ、お笑いなど地上から地下まで幅広く考察。