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『あんぱん』第49回 『アンパンマン』につながるプロローグ回が、これでいいのかNHK

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今田美桜(写真:サイゾー)

 そりゃ今の平和ボケした日本に暮らしてたら自分や周囲が兵隊に取られる若者の気持ちなんてわからないものですから、戦時下のドラマを見るとき、少しでも想像できたらいいなと思うわけです。

『あんぱん』主人公の性格が悪すぎる

 それがあの『アンパンマン』を世に出したやなせたかし氏がモデルのドラマだというなら、そして『アンパンマン』にやなせ氏の戦時下での体験が大いに反映されているというのなら、やなせ氏がどんな若者で、赤紙が届いたとき何を思ったのかを描くことは、『アンパンマン』につながるプロローグであるはずなんです。

 赤紙が届く前、嵩(北村匠海)が戦争について、自分が徴用される可能性について、どう考えていたのかがすっぽり抜けてるんだよな。

 東京でも「贅沢は敵だ」みたいな雰囲気になってきて、嵩の絵のタッチが暗くなったという描写があったけど、結局は「のぶちゃんに会いに行く」という決心によって回復してしまったし、出征のために福岡に帰る親友の健ちゃん(高橋文哉)を見送ったときもまるで他人事で「次は自分か……」みたいな不安や恐怖が描かれていない。

 赤紙が届いてからもそうです。「スグカヘレ」と書いてあるのに、すぐ帰らないで1年前に卒業した学校の教師に会いに行く。そうしたいならそれでもいいけど、赤紙が届いたという事実を受け止める描写がないから、「なんで先生に?」という疑問が先に立ってしまう。

 せめて、製薬会社での嵩の日常を少しでも描いていれば、と思うんです。新社会人1年生、そこにだって人間関係はあるはずです。嵩はどんな顔で、勤務先にそれを伝えるのだろうか。芸術に理解を示さない上司がいたというのなら、その人は不本意ながら出征する嵩に何を言うだろうか。健ちゃんに続いて嵩もいなくなる下宿を引き払ったり、その下宿で最後にひとりで飯を食うシーンがあったっていい。当たり前の東京での食事が当たり前ではなくなる。赤紙たった1枚で、普通の生活が普通でなくなってしまう。国家による強制徴用という理不尽に対する怒りや戸惑いを嵩がひとりで受け止める時間がない。こんなときこそ美村屋のあんぱん食ったらいいんじゃない? そんで「味がしないや……」とか言えばいいんじゃないの?

 そうして視聴者的になんの準備もないまま嵩は登美子ママ(松嶋菜々子)に会いに行くわけですが、ここでは「戦争なんて無理に決まってる」というママの言葉に反発します。この反発に根拠がないんです。戦争が始まってからというもの、ギターで歌うのと好きな女の子のことを考えているだけだった嵩という人は、じゃあママに何を言ってほしかったというのか。

「武運長久をお祈りしますとでも言ってほしかった?」

「いや……ひと言くらい、母親らしいこと言ってくれても……」

 軍人と結婚していて、あの日美村屋で再会しなかったら一生会わなかったかもしれない母親に、母親らしさなんか求めてんじゃないよ。登美子は千代子とつながってたんだろ? 嵩からだって、連絡取ろうと思えばいつでも取れたわけじゃん。今さら甘ったれてんじゃないよ。

 そうして登美子が去って、ふと気づくわけです。山ちゃん先生、なんで今生の別れになるかもしれない母子水入らずの場にわざわざ立ち会っているのか。この人は2年間、嵩を目にかけてきた最大の理解者という位置づけなのかもしれない。嵩の思いも、人生の先輩としての登美子の気持ちもよくわかった上で、この意味不明な状況を解き明かす役割が与えられているのかもしれない。山ちゃん、教えてくれ、嵩は戦争についてどんな思いを抱いていたのか。そして登美子はなぜあんなに明け透けに「嵩は戦争に向いてない」なんて言ったのか、その真意を小僧に教えてやってくれ。

 そう思って山ちゃんの次のセリフを待っていたら、勝手に失恋して「今日は飲みたかったなぁ~!」だってさ。だったら、なんで今生の別れになるかもしれない母子水入らずの場にわざわざ立ち会ったんだ。非常識だぞ。なんでここでコメディーが必要なんだ。

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のぶの「勇気」ってなんなのよ

 昨日の回を見た後、X(旧Twitter)の番組公式アカウントを眺めていて、驚いたことがあったんです。次郎(中島歩)の写真と一緒に「『僕は、この戦争に勝てるとは思わん』次郎がずっと言いかけて飲み込んでいた言葉は、のぶにとって受け入れがたいものでした」と記されていたんです。

 そっちだったの? と思ったんですよ。てっきり、次郎が口ごもっていたのは「貿易船が軍用船に改修されて、自分も戦地に行くことになる」つまりは「次の航海で死ぬかもしれない」と伝えなきゃいけないのに、どうしても伝えられなかった、そういう状況だと理解していたんですね。次郎が朝田の実家を訪ねたのだって、カメラを置いていったのだって、いかにもフラグじゃないですか。死ぬやつの仕草じゃないですか。

 まあこのアカウントは中園氏本人やプロデューサーが直接発信しているものじゃないだろうから誤読しているのかもしれないけど、いずれにしろ今日ののぶ(今田美桜)の「勇気がなかったがよ」は意味がわからんのよね。

「どうか生きて戻んてきて」

 そう伝える勇気がなかった。

 正確な時代考証についてはわかりませんけれども、とりあえず『あんぱん』の世界線では、戦地に行く人に「生きて戻ってきて」と言うのはタブーのようです。のぶは「愛国の鑑」というアイコンだから、夫にも「生きて戻ってきて」と伝えてはいけない。それはタブーなので、言う勇気がなかった。そういうことのようです。

 だったら「戦争が終わったら愛国教育やめたい」だの「海外旅行行きたい」だのは、どうして言えたんでしょう。のぶにとって次郎は「唯一、愛国の仮面を外して、本音を言える存在」として描かれてきたのに、このときだけ「勇気がなかった」という。なんでなのかね。わかんないね。蘭子は豪ちゃんに「戻んてきて」って言ってたぜ。「伝えないことは思ってないことと同じ」と言ったのは、のぶ、あんたですよ。のぶと蘭子(河合優実)がフィックスの奥からこっちに歩いてくるショットはよかったと思います。

嵩ズ、プライオリティ

「スグカヘレ」の電報を受けてようやく帰ってきた嵩くん、なぜか朝田家に直行です。こいつ夏休みに帰郷したときも朝田家に直行してたよな。家、帰れよ。真っ先に千代子に顔を見せて、寛の仏壇に手を合わせろよ。と思ったんだけど、これは違うわな、そういえば嵩の家と駅の道すがらに朝田家があるんだった、ずっと嵩の千代子に対する気遣いのなさにムカついていたから思わず噛みついてしまいました。すみません。嵩という人物の優先順位を描く上で羽多子(江口のりこ)と立ち話をしながらのぶの登場を待つという行為のおかしさはあるけど、位置関係としてはまちがってない。

 それはいいとして、これは蘭子と歩いてるときから違和感があったんだけど、のぶさん今回の航海の間は実家で過ごすんですね。こうやって物語の都合で人物の拠点を変えると、その人の日常がボヤけるんだよなぁ。あくまで日常があって、その日常が戦争という非日常に巻き込まれていくことに悲劇を生もうとしているのに、日常がボヤけるから戦争の悲劇も上滑りするしかないんです。

 なんかこう、いよいよ出征なわけで、ドラマそのものがパンパンに張り詰めていてほしいタイミングだと思うんですけど、クッチャクチャやね。クッチャクチャ。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/06/05 14:00