なぜ芸人は「結婚を隠す」のか? バッテリィズ・エースら「実は結婚していた」報告ラッシュ

お笑い界で「実は結婚してました」報告のラッシュが起こっている。バッテリィズのエース、令和ロマンの松井ケムリ、シティホテル3号室の押田が既婚者であることを相次いで公表したのだ。これに限らず、以前から芸人界隈では「結婚を隠していた」というケースが少なからず見受けられる。
なぜ芸人は結婚を隠すのか。既婚者だと分かるとどんな影響があるのか。芸人の結婚にショックを受ける「ガチ恋」ファンの実態とは。お笑い事情に詳しい芸能ライターの田辺ユウキ氏が解説する。
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「実は結婚していた」旬の芸人が次々に告白
バッテリィズのエースは、14日放送のMBSラジオ『ヤングタウン土曜日』で2年前に結婚していたことを公表。お相手は初めて真剣交際した女性で、アルバイト先で出会って約8年にわたり付き合い、売れない時期を支えてもらったという。
メインパーソナリティーの明石家さんまが「なんでずっと黙っとったんや?」と尋ねると、エースは「奥さんも『黙っといてくれ』って言ってたんですよ」と妻から公表を反対されていたとし、周囲からもアホキャラやギャンブル好きキャラへの影響を考えて「発表せんでええんちゃうか」と言われていたと明かした。
発表することになった経緯について、エースは「(準優勝した昨年の)M-1グランプリが終わってからテレビの仕事が増えて。そっから『結婚してないやろ?』とか話に出たから、そのたびに『してないです』ってウソついてたら、そろそろキツいなって」と、ウソをつくことが心苦しくなっていたと告白。東京進出後は妻と離れて暮らしているが、1年後くらいに大阪から呼び寄せるつもりだという。
令和ロマンの松井ケムリは、16日に配信されたPodcast番組『令和ロマンのご様子』で昨年結婚していたことと先日第1子が誕生したことを発表。自身のSNSでも「実は昨年に結婚をしていました!!そして先日、第一子が誕生いたしました!!!」「新しい家族とともに、これからの人生を大切に歩んでいきたいと思っております!!」などとつづった。
また、昨年の『キングオブコント』でファイナリストになったシティホテル3号室の押田は、6月上旬に開催されたコンビの単独公演で「約11年前に結婚し、子どもが2人いる」という事実を公表。相方や所属事務所「タイタン」の看板コンビである爆笑問題、社長の太田光代氏らにもずっと隠していたという。本人は「ハニートラップのドッキリを仕掛けられた時、自分には妻子がいると突然断り、相方を驚かせたかった」などと説明したというが、爆笑問題の太田光は「意味が分からない」とラジオ番組で断じた。
昨年8月には、ピン芸人の永野が10年前にバルーン漫談師のカルーア啓子と結婚していたことを突然公表しており、独身だと思われていた芸人が「実は結婚していた」というケースは少なからずある。
若手芸人にとって重要な女性ファンの「ワーキャー人気」
なぜ芸人は「結婚を隠す」のだろうか。「女性ファンを意識している」「売れない時に結婚すると発表のタイミングがない」「芸風への影響を危惧」などさまざまな理由が考えられるが、やはり最も大きいのは「女性人気を得るため」だという。芸能ライターの田辺ユウキ氏はこう解説する。
「テレビ番組にあまり出演せず、劇場公演が活動の中心となっているお笑い芸人たちは、ファンにとって『手を伸ばせば届くかもしれない存在』です。単独公演チケットなどの手売りも行っていますし、ファンとしてはそういった機会に何度も足を運んで直接触れ合えば顔を覚えてもらえます。そういう構造は地下アイドルとよく似ています。
劇場中心の芸人は、ファンの数がモノを言うところもあります。もちろん『おもしろい』が前提にないとファンはつきませんが、ファンが多ければ単独公演などのチケットがしっかり売れ、公演規模を次々と拡大していくなどし、金銭的余裕も出てきます。ファンが多ければ当然、業界的な注目度も上がります。ブレイク前の若手芸人にとって、いわゆる“ワーキャー人気”はかなり重要なものだと思います。そうやって人気を得るために、親近感を持ってファンと接するのは当然のやり方と言えます。
そうなってくるとやはり、男性芸人としては、劇場客席の8割、9割を埋めている女性ファンを意識しなければなりません。これもアイドルなどと似た構造ですが、もし推しに恋人がいたり、結婚していると分かったりした場合、複雑な気分になるファンが多いはず。ファン心理として『恋人・結婚相手がいるから』という理由で推すのをやめるのは、まったく不思議なことではない。むしろ当たり前の感情です。ブレイク前の芸人にとっては、固定のファンがつかなかったり、減ったりするのは大きな痛手。ですので、やはり結婚などは売れるまで隠した方がベターということになります」
若手時代は女性人気が思った以上に重要。そうなると「結婚していても隠す」という流れになるのは自然なことのようだ。
エースがブレイクまで結婚を隠したのは芸風的に「正しかった」
また、芸風への影響を危惧して結婚を内緒にしているパターンもあるという。それが当てはまりそうなのが、今回話題になったバッテリィズのエースだ。前出の田辺氏は続ける。
「エースさんのパートナーが『(既婚者だと)言わない方がいい』とお話しされていたそうですが、その判断は正しかった気がします。バッテリィズの場合は、エースさんのアホキャラが立っています。結婚していることがブレイク前から分かっていたら、『結婚しているんだから意外としっかりしているんじゃないか』とキャラのブレが起きていたかもしれない。逆に相方の寺家さんはしっかり者のイメージなので、結婚し、お子さんもいるというのは好作用だった」
一方、田辺氏は女性人気が高くても結婚を進んで公表するケースがあると語る。
「私が以前に取材した“『M-1』準決勝芸人”は、テレビなどで恋人がいることをオープンにしていました。女性人気が非常に高い若手芸人なので、公言したことに驚いたのですが、その理由について『ワーキャー人気ではなく、純粋にお笑いで勝負したかった』『恋人を安心させたかった』と好感が持てる話をしてくれました。結婚相手や恋人の存在を公言する、しないはそれぞれの事情があります。ただその背景には間違いなく、売れるための戦略があると思います」
粗品がぶった切った「ガチ恋」女性ファンの心理
バッテリィズのエースが結婚していたことについて、霜降り明星の粗品は自身のYouTubeチャンネルで「いやー、よかったね。痛い女ファン、これ以上ついたらかなわんなーと思ってたんよ。ちょうどよかった。キモいファン濾過できていいタイミング」と発言。エースのファンにいわゆる「ガチ恋」系の女性が増えてきていたことを指摘し、辛らつにぶった切った。
実際、芸人に「ガチ恋」する女性ファンは多いのだろうか。前出の田辺氏は言う。
「私たちが思っている以上にガチ恋の女性ファンは多いです。推しの芸人とつながるきっかけとして一番多いのは、SNSのダイレクトメッセージ(DM)。お笑い芸人たちに話を聴くと、そういったDMに返信したり、やり取りを続けたりした経験を持つ人はかなり多い。推しの芸人と繋がるために、その芸人がよく足を運ぶ飲食店に行ったりするなどして、なんらかの接点を持とうとするファンもいます。その飲食店で出会った芸人が自分の推しではなかったとしても、とりあえず知り合いになっておくと、その芸人を通じて推しと会えることがある。
また、若手芸人はよく芸人同士で飲んだりしていますが、そこに知り合いの女性を呼ぶことは少なくありません。そういった場に呼ばれて、仲良くなることもできる。あと芸人のネットワークはかなり密なので、『あの子がかわいかった』『あの子と関係を持った』という話はすぐ仲間内で広まります。そして飲みの場で『その子を呼んで』みたいなノリになることもあります。そういったことから、ガチ恋の女性が推しの芸人とつながるのは、アイドルなどに比べると決してハードルが高いわけではないのです」
なぜそうした女性たちは芸人とつながろうとするのだろうか。田辺氏はこう指摘する。
「私の知り合いでも、お笑い芸人と付き合っていたり、肉体関係を持ったりしている女性は何人かいます。みんな大のお笑いファンです。興味深いのは、推しのお笑い芸人はいるものの、基本的には『お笑い芸人だったらある程度、誰でもいい』という考えであること。なぜお笑い芸人がいいのか。その理由として『普通にしゃべっているだけでおもしろいから』という声を聞いたことがあります。
あと、売れる前の若手芸人を恋人にすることで『自分も一緒にM-1などの目標へ向かっていく』みたいな感覚を得ている気もします。つまり相手の夢が、自分の夢になるということ。はたまた、劇場でたくさんの人を笑わせたり、ワーキャーと歓声を浴びたりしている人が自分の恋人であるという優越感もあるでしょう。いろんな面で『恋人がお笑い芸人』ということがステータスに感じられるのです。とくに売れる前の若手芸人は、ファンにとっても非常に近い存在。実際に、近寄ることができなくもない。だからこそ、その恋愛感情が憧れだけで終わらず、現実的なものに思えるのではないでしょうか」
(文=佐藤勇馬)
協力=田辺ユウキ
大阪を拠点に芸能ライターとして活動。映画、アイドル、テレビ、お笑いなど地上から地下まで幅広く考察。