次はドラッグ密売人…北川景子、正統派ヒロイン路線から「怪演」「狂気」の新境地

女優の北川景子が主演する放送中のフジテレビ系ドラマ『あなたを奪ったその日から』が、Xの世界トレンド1位やNetflixのランキング1位を獲得するなど、今期ドラマの中でも屈指の高評価を得ている。その原動力となったのが、日本を代表する「正統派美人女優」である北川の狂気の熱演だった。
これに限らず、近年の北川は「優等生」イメージを覆すような役柄を多く演じており、汚れ役もできる「実力派」へと飛躍しそうな気配だという。業界事情に詳しい芸能記者が解説する。
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視聴者が驚嘆、演出家がプランを変えた…北川景子の鬼気迫る熱演
『あなたを奪ったその日から』は、食品事故で幼い娘を失った母親・中越紘海(北川)が、事故を起こした惣菜店の社長・結城旭(大森南朋)に憎しみを抱くなか、図らずも旭の次女・萌子を誘拐することから始まる、11年に及ぶ母の復讐と親子愛の壮大なストーリー。
萌子は中越美海(一色香澄)として紘海に本当の親子のように育てられ、誘拐から10年後、紘海は娘の死の真相を探るために旭が常務として務める会社に入社。旭に近づいた紘海は彼がそこまで悪人だとは思えず、徐々に気持ちが揺らいでいく。16日に放送された第9話では、娘が亡くなった事件の真相が明かされ、ドラマはクライマックスに突入している。
今作で最初に視聴者のハートをつかんだのは、娘を失った悲しみと復讐心を抱く母親を演じた北川の「狂気」だ。とくに第1話で娘が亡くなった後、保育園で別の園児を抱きしめて泣くシーンはあまりに強烈で、多くの視聴者の心を震わせた。以降も「あの北川景子が?」と驚くような鬼気迫る演技を連発し、それが前述した世界トレンドや配信サービスでのランキング1位につながったといえる。
『あなたを奪ったその日から』での北川の熱演について、業界事情に詳しい芸能記者はこう評する。
「同作は大仰な演出や目まぐるしくて荒唐無稽な展開など、往年の大映ドラマを現代にアップデートさせたような印象を受ける内容ながら、子役からベテランまで芝居巧者の俳優をそろえ、映画さながらの凝った画作りをすることで没入感を与えてくれる。本作はクランクインの段階で全話の決定稿が完成しており、演出・演技共に全体を通したプランが立てやすかったのも完成度の高さにつながっているのだろう。本作のメイン演出を手掛けている松木創氏は、多くのドラマを手掛ける一方で、ドキュメンタリーでも良作を多数残している。
松木氏はクランクイン初日、北川の鬼気迫る泣きの芝居を目の当たりにしたことで、当初の演出プランを捨て、人物の表情を追うことに重点を置いたという。そうした柔軟なドラマ作りが、北川の演技にも好影響を及ぼしたのは間違いない。劇中、主人公の紘海が怒りや悲しみを炸裂させる場面が多々あるが、北川は美しい顔をくしゃくしゃに歪ませ、エモーショナルに感情を表現。北川の熱演を盛り立てるべく、カメラや照明なども光と闇を活かしたスリリングな効果を作り出している。紘海が事件の裏側や旭の意外な一面に接する中盤は、狂気的な演技は控えめだったが、そのメリハリがあるからこそ全体が引き締まる。全話を見越した北川の演技プランが冴えわたっており、クライマックスに期待せずにいられない」
すっぴん、二面性、たくましい母…徐々に切り開いていた新境地
北川は第1話がスタートした4月にSNSで「ほぼすっぴん」のオフショットを公開。これが「娘の死に憔悴する母親」を体当たりで演じていることをうかがわせ、ドラマの注目度がより高まった。ただこのような姿は、驚くことにスクリーンでも公開しているという。前出の記者は言う。
「北川がほぼすっぴんの状態をスクリーンで見せたのは、映画『探偵はBARにいる3』(17)で演じたヒロインの岬マリ役のとき。マリは覚せい剤密輸などに関わるグループの代表を務める男の愛人で、常に美しく着飾り、金への執着心も強いが、もともとは早くに両親を亡くし、体を売ることでたくましく生き抜いてきたものの、男に裏切られて子どもを流産。絶望の淵に立たされていた薄幸の女性という役柄で、抜け殻状態だったころのマリを演じるにあたり、北川はすっぴんを晒し、愛人になってからの豹変ぶりによってヒロインの二面性を表現した。この当時から、自分を美しく見せることよりも、どうやったら演技の完成度が高まるのかを重視していることがうかがえる」
以降も北川は「正統派ヒロイン」路線から外れた役柄と演技で新境地を開いていく。前出の記者が続ける。
「人気コミックの実写化である映画『約束のネバーランド』(20)では、普段は孤児院で優しく振る舞いつつ、実は鬼の手下として子どもたちを管理する飼育監のイザベラという二面性のあるキャラクターを巧みに演じ、原作ファンからも好評となった。北川はイザベラの年齢設定やキャラクターを含めて『原作の設定を一つも変えない』ということを条件に本作のオファーを受けたと語っており、原作への並々ならぬリスペクトと俳優としてのプライドを感じさせた。
映画『ラーゲリより愛を込めて』(22)では、幼い4人の子どもを女手一つで育てながら、第二次世界大戦中に空襲で離ればなれになった夫の帰りを待ち続けるヒロインを好演。今年3月に放送されたテレビ朝日系スペシャルドラマ『花のれん』では、妻として母として、ひとりの女性として、パワフルに生きた女興行師を見事に演じ切った。北川は私生活でも『2児の母』という事実から生まれる説得力もあり、さまざまな作品でバイタリティあふれる母親像を作り上げている」
ドラッグ密売人役まで…だがそれだけじゃない!
新境地の一つの集大成になりそうなのが、11月公開予定の主演映画『ナイトフラワー』だ。2人の子どもを育てながら昼はパート、夜はスナックで働いていたシングルマザーが、生活に窮してドラッグの密売人になってしまうというストーリーだ。国内外で高く評価された映画『ミッドナイトスワン』の内田英治監督がメガホンをとる。
北川は「ドラッグの密売は正しいことではありません」と前置きした上で、「子どものために全てを投げうってでも、という考え方に強く引かれます」と主人公に共感を示しており、劇中ではほぼすっぴんで顔を崩して笑い、関西弁でまくし立て、泣きじゃくり、夜のネオン街を全力で駆け回るなど、たくましい母親を熱演しているという。
前出の記者は「近年の北川は母親である自分を見つめ直すような、絵空事ではない泥臭い役柄を積極的に演じている」と分析したうえで、それだけではない北川の演技の幅の広さを指摘する。
「泥臭い役柄が増加している一方、2021年のTBS系ドラマ『リコカツ』では誰もが羨むファッション誌の美人編集部員、2023年のフジテレビ系ドラマ『女神の教室〜リーガル青春白書〜』では法科大学院へ教員として派遣された裁判官、2021年の映画『ファーストラヴ』では殺人事件を取材する臨床心理士など、従来のようにクールビューティなルックスを活かした役柄も継続。固定のイメージにとらわれない幅広い役柄を演じることで、女優としてのさらなる飛躍を求めているのかもしれない。そうした自身の意思を反映させた作品選びができるのは、これまで着実に結果を出してきた北川のキャリアの積み重ねがあってこそだろう」
あれだけの圧倒的な美貌の持ち主となると、通常だと役柄の幅はせまくなってしまうはずだが、北川は演技派のカメレオン女優へとステップアップしていきそうだ。
(文=佐藤勇馬)