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宇野祥平インタビュー「出会いがあって、別れがあって、その繰り返し」

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宇野祥平(撮影=たむらとも)

2000年の俳優デビュー以来、数多くの映画やドラマに出演。2020年にキネマ旬報ベスト・テン助演男優 賞を受賞するなど、日本映画に欠かせない存在となった宇野祥平。『戦国自衛隊』などで知られるSF作家・半村良の異色短編を映画化した『となりの宇宙人』で主人公の宇宙人を演じた彼に、本作の撮影エピソードや俳優になったきっかけを中心に話を聞いた。

<インフォメーション>

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『となりの宇宙人』 © SPOTTED PRODUCTIONS

『となりの宇宙人』
2025年6月27日(金)より新宿武蔵野館他全国順次公開

宇野祥平 前田旺志郎 吉村優花 猪塚健太
三上寛 和田光沙 安藤ヒロキオ ほたる 山本宗介 麻木貴仁 北村優衣 森羅万象 いまおかしんじ

原作:半村良
脚本:いまおかしんじ
監督:小関裕次郎

夜ごと隣の愛の囁きが響き渡る下町のとあるボロアパートの庭に、ある夜突然正体不明の物体が現れた。中から出てきたのは自ら”宇宙人”を名乗る全裸の男(宇野祥平)。宇宙船の故障で不時着したのだという。アパートに暮らす田所(前田旺志郎)ら住人たちは、行くあてもなく傷ついたその男を”宙さん”と名付け、ひとまず田所の部屋に居候させることに。「星に帰りたい」という宙さんの願いを何とか叶えようと奔走する住人たち。果たして宙さんは無事”故郷”へ帰ることができるのか!?

公式サイト:https://www.leonefordreams.com/tonarino-uchujin
公式X:https://x.com/leonefordreams

<プロフィール>
1978年生まれ。大阪府出身。2000年に俳優デビューし、映画やドラマを中心に数多くの作品に出演。『罪の声』(20/土井裕泰監督)、『本気のしるし 劇場版』(20/深田晃司監督)などの演技で第94回キネマ旬報ベスト・テンをはじめ、複数の助演男優賞を受賞するなど高い評価を得た。近年の主な映画出演作に、『正欲』(23/岸善幸監督)、『市子』(23/戸田彬弘監督)、『ラストマイル』(24/塚原あゆ子監督)、『正体』(24/藤井道人監督)、『雪の花 -ともに在りて-』(25/小泉堯史監督)、『Broken Rage』(25/北野武監督)、『無名の人生』(25/鈴木竜也監督)など。公開待機作に、『THE オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ MOVIE』)(25/オダギリジョー監督)、『平場の月』(25/土井裕泰監督)などがある。またドラマ『こんばんは、朝山家です。』(7/6より、テレビ朝日系)にも出演。

公式サイト:https://www.adonis-a.co.jp/shohei_uno/

 

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宇野祥平(撮影=たむらとも)

ゆったりとした時間が流れていた『となりの宇宙人』の現場

──『となりの宇宙人』の脚本は、いまおかしんじさんが手掛けていますが、宇野さんは過去にもいまおかさんの脚本作品に出演されていますよね。

宇野 『苦役列車』(12)、『銀平町シネマブルース』(23)、アニメ映画の『化け猫あんずちゃん』(24)など、幾つかの作品に出演させていただきました。原作は半村良さんの短編小説ですが、原作に忠実でありながら、いまおかさんらしい脚色が随所に施されていて、とても面白い脚本だと思いました。

──小関監督とのお仕事は今回が初めてですか?

宇野 初めてでした。プロデューサーの久保和明さん、秋山智則さん、とは以前から面識があり、たくさんお仕事もさせていただいています。今回の『YOUNG&FINE』、『となりの宇宙人』のプロジェクトは素晴らしい挑戦だと思いました。

──今回、宙さんを演じるにあたって役作りで意識されたことは?

宇野 宙さんは一言でいうと謎の人物です。謎であることの醍醐味を味わいながら演じたいと思いました。

──小関監督はどんな方でしたか。

宇野 小関監督は30代ですが、昭和の映画や音楽にものすごく詳しいんです。僕も古い日本映画が大好きなんですが、小津安二郎さん、岡本喜八さん、森崎東さん、今村昌平さん、日活ロマンポルノなど、何でも知っているから驚きました。たとえばロケ場所で「神代辰巳さんの『アフリカの光』(75)の音楽を思い出しました」と話したら、すぐに「井上堯之さんですよね」と。あと「今村さんの『黒い雨』(89)で、本編にはないけど、井伏鱒二さんの原作にはないシーンを撮っていると本で読んだことがある」という話をしたら、「DVDの特典に入ってますよ」とDVDを貸してくださいました。教えてもらうことが多く勉強させていただきました。

──撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?

宇野 短い撮影期間ではありましたが、小関監督をはじめ、スタッフ、前田くん、吉村さん、猪塚さんや共演者の皆さんの一人ひとりの人柄がとても大きく、皆さんのお陰でゆったりとした時間が流れていました。大先輩の三上寛さんや森羅万象さんも本当に優しかったです。共演シーンの多かった前田くんは、今回が初共演だったのですがナイスガイでした。

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『となりの宇宙人』 © SPOTTED PRODUCTIONS

──前田さんとお芝居について話すこともあったのでしょうか。

宇野 小関監督が現場で生まれるものを大事にしてくれる方だったので、あまり「この役はこうだから」と決めつけるような会話はしなかったです。「今日は何時に起きたの?」みたいな日常的な会話はたくさんしました。

──長回しのシーンもありますが、アドリブもありましたか?

宇野 台本に書かれたものを大切にしたいと思っていたので、自分ではあまり意識していなかったのですが、なかなかカットがかからない場合は、そこで起きたことから生まれる部分もありました。

──作品全体から型にはまらない自由さを感じました。

宇野 小関監督は答えに向かうのではなく、むしろ、そこに向かわないように、答えがないということを大切にされている方で、演出を受けていて面白かったです。

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『となりの宇宙人』 © SPOTTED PRODUCTIONS

──苦労したシーンはありましたか?

宇野 難しくないシーンはないですが、一番は暑さとの闘いですかね(笑)。

──完成した作品をご覧になって、どのような感想を持ちましたか。

宇野 変な映画で、宇宙人も出てきますが、どこか懐かしさもあって、実は自分の実生活に近いんじゃないかと思いました。「さよならだけが人生だ」じゃないですけど、出会いがあって、別れがあって、その繰り返しが人生。そんなことを改めて思わせてくれる映画だと思いました。

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宇野祥平(撮影=たむらとも)

いろんな出会いの全てが今に繋がっている

──ここからは俳優になったきっかけについてお伺いします。小さい頃から日本映画はお好きだったのですか。

宇野 祖父が映画好きで、よく2本立てや3本立ての映画に連れて行ってくれたんです。自分が知っている大人と違う顔といいますか、見てはいけない顔を見ているようで怖かったです。怖いけど、また観たいと楽しみになっていきました。

──俳優の道に進まれたきっかけは?

宇野 祖母に「手に職をつけなさい」と言われ続けて育ったので、何の迷いもなく高校卒業後、地元の会社に就職しましたがすぐに辞めてしまい、見かねた親戚の紹介で関西でも一番忙しいと言われている生花店に修行に行くことになりました。働いて1年くらい経った頃に、ビジネスとしてしか考えていないと思っていた店主のオヤジさんが、本当に花が好きで生花店をやっているんだと知ったことが一つのきっかけになり、僕はなんとなく働いていましたが、それでいいのか、好きなことをやるべきなんじゃないかと思いはじめ、その頃には遠ざかっていた名画座で岡本喜八監督の『江分利満の優雅な生活』(63)を観たのですが、昔、祖父と観たことを思い出し「映画が好きだ」と改めて思ったんです。家庭の事情ですぐには東京に行けなかったので、自分で作って自分で出ればいいんだと恥ずかしながら簡単に考えてしまいまして(笑)。お昼はパチンコ店や競艇場の中継カメラマンのバイトをしながら、ビジュアルアーツ専門学校の放送映像学科の夜間部に通いました。

──俳優デビューのきっかけは何だったのでしょうか。

宇野 競艇場で大阪芸大出身の高倉くんという同僚がいまして、彼が後に助監督になったんです。日頃から、「映画に出演したい」という話をしていたのですが、ある映画で役者が降板したから出ないかと声をかけられました。

──なんという映画ですか?

宇野 6人の監督が全編デジタル・ビデオで撮りあげる「ラブシネマ」という企画があって、そのうちの一本で三原光尋監督の『絵里に首ったけ』(00)という大河内奈々子さん主演の映画でした。
(※ラブシネマは他に『東京ゴミ女』(20/廣木隆一)、『閉じる日』(20/行定勲)、『張り込み』(20/篠原哲雄)、『ギプス』(21/塩田明彦)、『ビジターQ』(21/三池崇史))

──それまで演技経験はあったんですか?

宇野 自主映画に出演したことはありましたが、商業映画は初めてでした。セリフを喋らずに居続けることがこんなにも難しいものなんだと思いました。

──その時点では大阪在住ですよね。

宇野 そうです。上京したきっかけは、『絵里に首ったけ』で共演した佐藤佐吉さんと現場でいろんな映画の話をしていたんですが、「明日、宇野君の好きな人が現場に来るよ」と言うんです。森下能幸さんのことだったんですが、森下さんとも仲良くさせていただいて、「東京に来ることがあったら連絡して」と言ってくださったんです。祖母のこともあって、すぐに行動には移せなかったんですが、『絵里に首ったけ』の撮影が終わって半年ぐらい経ってから上京しました。

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宇野祥平(撮影=たむらとも)

──すぐに俳優の仕事が入る訳ではないですよね。金銭面はどうしていたんですか?

宇野 麻布十番に「アオイスタジオ」という録音スタジオがあって、喫茶店が併設されていて、森下さんがバイトをしていたんです。そこで津田寛治さんもバイトされていたんですが、ちょうどお忙しくなった時期で代わりに僕が入ったんです。

──津田さんが北野武監督に「映画に出してほしい」と直談判した喫茶店ですよね。

宇野 そうです。僕がアオイスタジオで働き始めたのは北野監督が『BROTHER』(01)を完成させたくらいの時期でした。

──宇野さんは2009年公開の『オカルト』で長編映画初主演を果たします。白石晃士監督とはどのように知り合ったのでしょうか。

宇野 自主映画の上映会で前田弘二監督と知り合って、一緒に自主映画をやっていたんです。その中に『鵜野』(05)という短編映画があって、それを観た白石監督から声をかけてもらったのが『オカルト』でした。それまで面識もなかったので驚きましたね。

──今では日本映画界に欠かせない存在となった宇野さんですが、ターニングポイントになった作品は何でしょうか?

宇野 質問の答えになっていないかもしれませんが、全部です。いろんな出会いがあったんです。今お話した中でも、競艇場での出会い、佐藤さんとの出会い、森下さんとの出会い、前田監督との出会い、白石監督との出会いなど、これまでいろいろな人に出会い、助けられ、映画に影響を受けて、今の自分が形作られたと思います。全部が繋がっているんです。今の自分があるのは皆さんとのご縁のおかげです。これからもご縁を大切に一つひとつ作品に臨んでいきたいです。

(取材・文=猪口貴裕/撮影=たむらとも)

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猪口貴裕

出版社勤務を経て、フリーの編集・ライターに。雑誌・WEB媒体で、映画・ドラマ・音楽・声優・お笑いなどのインタビュー記事を中心に執筆。芸能・エンタメ系のサイトやアイドル誌の編集にも携わる。

最終更新:2025/06/30 09:00