『あんぱん』第63回 恋人未満カップルの誘い受け合戦、焼け野原に咲いたお花畑

昨日までであらかた邪魔者を片付けて、いよいよ主人公2人のラブストーリーが始まる今回。
蘭子(河合優実)がすっかり説明担当になってしまって寂しい限りなんですが、今日もひとしきり「女性が就職難である」という説明を終えると、末っ子のメイコちゃん(原菜乃華)がこんなことを言うんですね。
「のぶ姉ちゃん、どうしゆうやろか……」
あ、実家帰ってないんすね。夫が死んで、仕事も辞めて、なんでのぶさん(今田美桜)は高知のだだっ広い家に住み続けてるんだっけ。物語の都合によって高知の家に住んだり御免与の実家に戻ってきたり、呉の海軍病院で付きっ切りになってたり、ずっと思ってるんだけど、この人の拠点の定まらなさが生活感のなさにつながってるんですよね。
で、今日は高知にいるんだと思ったら、焼け野原をお散歩してる。のぶさんの家はピッカピカの状態で、暗室に光が漏れ入ってしまうような隙間もない建て付けのよい建築でした。その家からどれくらい離れているかよくわからない被災地をウロウロしているわけですが、これ何してるの? どういう場面? 悠然とガレキの山を眺めていますが、アナタ、何をされてる方なの? 仕事を探すでもないなら、そこらへんの片づけでもメイコと一緒に農家でも手伝ったらいいのに。
するとそこに現れる嵩くん(北村匠海)、4年ぶりの再会だそうですよ。
「嵩、生きとったが」
出征式で絶叫見送り劇を演じた後、のぶさんが嵩の身を案じるようなシーンは特にありませんでした。ドラマとしてはのぶさんを愛国の鑑として描こうとしていて、とはいえ戦争を賛美するような発言をさせるわけにはいかないので、「日本は勝つ」「命をかけている兵隊さんのために銃後を守る」と言わせてきました。その、もっとも身近な兵隊さんが生きて帰ってきたんだぜ、なんだよこの塩リアクションは。
これ、本当に意図がわからないんだよな。次郎さんが生きて帰ってきたときもそう、「生きて帰ってきた!」という喜びを、なんでのぶに演じさせてあげないんだろう。とりあえず「ヤッター!」でいいじゃん、嵩の顔を見た瞬間にくずおれた千代子さん(戸田菜穂)の姿、あれをなんでのぶにやらせないのか、本当に意味がわからない。
あれをやらないことで、のぶがめちゃくちゃ薄情に見えちゃってるんですよ。薄情というより無感情、人の生死に興味のないサイコパス、さらにいえば、戦争から生きて帰ってくることが当然だと思っていたようにも見えてしまう。
そんなのぶさんが、4年ぶりに会った嵩に何か言うようですよ。NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』第63回、振り返りましょう。
職員会議とかないんか
まず嵩ですが、釜じい(吉田鋼太郎)から次郎さんが死んだことを聞いて、会いに来たんだそうです。次郎が死んだから、会いに来た。なんで? 「恋のスタートだから」以外に理由ある?
そんでのぶさんは千尋が死んだことを知ってるよね。自分が次郎さんについて何か言ってもらったら、まずは千尋のことをお悔やみ申し上げなさいよ。真っ先に「教師辞めたが」って、身の上話を始めるって厚かましいと思わないのかね。この「教師辞めたが」の前にはね、「私は愛国教師でございました、そのため嵩あなたと疎遠になりましたね、でも今は違うんです」という下心があるわけですよ。真っ先にそれを言うのは、相手に今の自分が「疎遠になった頃の自分とは違う」というアピールなんです。なぜそういうアピールをするかといえば「恋のスタートだから」以外に理由ある?
あとは愛国教育に対する後悔と自己憐憫を長々と語るわけですが、どれも辞めてから泣くようなことじゃないんです。内容はそりゃその人の思想の自由ですから「自分が子どもを兵隊に送った」ともなんとでも考えりゃいいけど、そういう悩み苦しみを経て泣いて泣いて泣いてから辞める決断をするんです。あと、教育内容の後悔については校長やほかの先生とも話し合いなさい。職員会議とかないんか。あの校長が戦後どう変わったかを描くことだって、戦争を描くことじゃないのかね。
「自分が生きてていいかどうか」は次郎さんと話す時間があったよね。学校辞めてからもずっと付きっ切りで看病していたんだよね。夫婦だったんだよね。
全部、嵩に言う話じゃない。戦争についてのぶと嵩が語り合うべきは千尋のことであり、豪ちゃんのことなんです。のぶが下駄でブン殴った岩男のことなんですよ。いちばん悲しいことは身内が死んだことであるはずなのに、それよりも愛国教育をしていたことが悲しいという。嵩も嵩で、本当に千尋のことを思っているなら「千尋はのぶちゃんを愛していた」と伝えてやればいいじゃん。そんで2人でオイオイ泣けばいいじゃん、おまえら親友なんだろ? 付き合ってないんだろ?
もう何を言っても恋人未満のカップルがイチャイチャ誘い受けしてるようにしか見えないんですよ。お花畑なんです。
明日以降、作り手側としては、このお花畑がいかにお花畑に見えないように、シリアスな戦後を装うかに尽力していくことになります。それはそれで楽しみですね。
(文=どらまっ子AKIちゃん)