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『あんぱん』第68回 やなせたかし氏の「創作意欲」をズタズタに描いちゃっていいのでしょうか

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『あんぱん』主演の今田美桜(写真:サイゾー)

 私の記憶が正しければ、東海林(津田健太郎)はすげえバリバリ働いてたと思うんだよな。「1面に載せるネタはないか」と周囲にハッパをかけたり、魂の入っていない記事の書き直しを要求したり、のぶ(今田美桜)が徹夜した夜には誰よりも早く出社してたり、明らかに朝刊編集局の中心人物だったはずなんです。

『あんぱん』妄言を振りかざす今田美桜

 その東海林と部下の岩清水(倉悠貴)が抜けて、まず朝刊は大丈夫なのかなと思っちゃうわけですよ。のぶを採用したのだって「猫の手も借りたい」状況だからという理由だったでしょう。それが「夕刊が立ち上がる」という辞令を受けた瞬間に「遊軍記者はヒマでええにゃあ」なんて嫌味を言われている。

 感触としては、高知新報の編集局から東海林が抜けたら1面に穴が空いたり、魂の入っていない駄文が大量に掲載されたりしちゃうんじゃないかなぁという感じだったわけです。ところが実際は東海林が抜けても編集局はつつがなく回っているし、東海林は東海林でのぶに「編集長」って呼ばれてヘラヘラしてたり、急に理想を語り出したりしている。

 新聞社のオシゴトについてもそうだけど、この東海林という人物の解像度の低さとキャラクター設定の矛盾が、このパートをものすごく見づらいものにしている感じがします。夕刊では「生の声を拾っていく」のはいいけど、それが何ページあって、どういう企画があって、どんな記事が載るのかまったくわからないので紙面そのものがイメージできない。「生の声」は紙面のソフトであって、「企画」というハードがないんです。今のところ闇雲にのぶを取材に行かせて、子どもの話ばかりが載ることになりそうに見える。

 で、のぶさん取材するのはいいけど、この町が「元に戻いてほしい」という子どもたちの生の声を「前よりもっとええ町にしたいね」と改竄しましたね。さっそくマスゴミ仕草してんじゃないよ。

 NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』第68回、振り返りましょう。

そんで夕刊なくなるんかい

「『前よりもっとええ町にしたい』と言ったその子の手には、進駐軍からもらった大きな板チョコレートがありました。そのチョコレートの甘さが、確かに子どもたちの未来を照らしているのかもしれません。一方遠くアフリカでは、カカオの栽培農場で同じくらいの年齢の子どもたちが奴隷のように働かされているのでしょう。人には人の地獄があるのです」みたいな温度のある記事なのかな。のぶさんがペンを走らせていると、ヒマそうな岩清水がやってきて「のぶさんは優しいですね」などと言い出しました。

「すみません。どういても、子どもにばかり目が行ってしもうて」

 ほら、企画会議をちゃんとやらないからそういうことになる。「よし、僕も原稿取ってこようかな」って、おまえ今日何してたのよ。お給料もらってる自覚あるのかよ、ちゃんと働けよ。

 こいつら3人で毎日夕刊を発行するのはクオリティ的に無理っぽいなぁと感じていたら、その夕刊の話が立ち消えになったそうです。そんで雑炊食べて「絶望の隣は希望」なんだって。そんで「こんなの絶望のうちに入らん」のだって。絶望のうちに入らんのなら隣に希望もないやん。この人、何言うてんの?

 東海林は東海林で局長に食い下がったりしてますけど、この夕刊の一連のくだりは、まるまる意味のないものを見せられましたねえ。単にのぶの周辺にワチャワチャ人がいると処理できないので「モブの排除」という作業をしたかったんだと思うけど、もうちょっとうまくやれないもんかね。

 このドラマ、視聴者がどの程度史実を把握している想定で作ってるんだろう。後にのぶたちが月刊誌を作ることを知ってる層を想定しているんだとしたらこの夕刊のくだりはあまりにも見る側をバカにしているし、知らない層を想定してるならあまりにもモデルとなった人物を愚弄してるよね。そんなつもりはないんだろうけど、結果そういうふうに映ってるわけだから、全然上手くいってないよね。

THIS IS A PEN

 一方、闇市らしき場所で米軍払い下げ品を扱うリサイクルショップを営んでいる嵩(北村匠海)と健ちゃん(高橋文哉)。この2人は確か御免与の柳井家で同居しているはずで、その家が「絶望の隣は希望マン」こと寛(竹野内豊)の死後どんな仕事で生計を立てているのかわかりませんが、相変わらず使用人もいる裕福な環境だったはずです。

 毎日お布団で寝て起きて、千代子さん(戸田菜穂)とおしんちゃんと一緒に食卓を囲んで、寛のウイスケもまだ残っているかもしれない。

 何を貧乏ごっこをしているのよ。健ちゃんに誕生日プレゼントでペンをもらってマンガを描き始めるって、一見美談に見えますけど、こっちは「描いてなかったのかよ」という不信感しかありませんからね。ペンくらいあるだろ家に。

 戦地で亡きパパ(ニノ)を夢枕に立たせてエンタメへの決意を固めても描かない。のぶに偉そうに「千尋の分も生きる」とか「みんなを喜ばせたい」とかご高説を垂れても描かない。アメリカさんの雑誌に載ってたステキコミックに心を打たれても、まだ描かない。

 健ちゃんは「下宿で嵩はマンガをよく描いてた」とか言うけど、描いてませんよ。マンガも描いてないし、2年くらいでしたっけ、のぶに手紙を書くかどうかをウジウジ考え続けていただけですよ。描いてたっていうなら、あの当時のウジウジ嵩がどんなマンガを描いていたのか、ギャグなのかストーリーなのか、見せてみなさいよ。

 やなせたかしという作家をモデルとしておいて、その本能、コア・オブ・コアともいうべき創作意欲を物語の都合で出し入れすることもまた、こっぴどい愚弄だと感じる次第です。もっともズタズタにしてはいけないものをズタズタにしている。

メイコがんば!

 メイコさん(原菜乃華)には、あの朝田パンのテーマ曲を聞いたときから歌の才能があると思っていました。がんばってください。何しろ歌姫・浅田美代子の孫娘だからな。あのーこはーどこーのこー。ほいたらね。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/07/02 14:00