『ABCお笑いグランプリ』優勝のエバースに漫才師としての強さを見る【新越谷ノリヲトーク】

ライター・新越谷ノリヲと担当編集Sが勝手にしゃべります。お聞き流しのほどを~。
Aブロック
編集S 今回は好きだったネタをピックアップする感じにしましょうか。
新越谷 いいですね。まず金の国。すごい設定だと思いました。桃沢のドラマ心というか、お笑い以外のことにもいろいろちゃんとアンテナを張って、ちゃんといろんなことに感動して生きてるんだろうなという感じがするんですよね。
編集S 学校でみんなで育ててたブタが大人になって訪ねてくるという。
新越谷 こいつあのときのブタなのでは? という匂わせからのネタバラシのスムーズさにも痺れますし、証拠の提示もスマートで納得感がある。
編集S おにぎりも、まさにハマり役という感じでしたね。
新越谷 世界観として、あそこがブタの限界なんだろうなというラインを示している感じがするんですよね。どれだけ人間に寄せてもルックスはあれが限界、どれだけ勉強しても学歴は立教が限界。ブタとしてはすごいけど、人間のトップには程遠いというところに悲哀があったりする。
編集S 桃沢のほうは東大という設定でしたね。
新越谷 桃沢は桃沢で、優秀なんだろうけど同窓会に呼ばれてなかったりして協調性や人間性に問題がありそうな、ネタが進むにつれてどんどんキャラクターに深みが生まれてくる。ホントにいいネタだと思いました。
編集S ファイナル進めませんでしたけど。
新越谷 あと2分あればって審査員も言ってたけど、15分くらい見たいコントでしたね。それくらい余白があるというか、広い世界が見えた気がします。結果的に、設定がよすぎて4分では語り切れなかったという感じでしょうか。
編集S 次行きましょう。
新越谷 家族チャーハン、去年の『M-1』敗者復活もよかったけど、あのときは大喜利特化という感じだったんですよね。今回のネタはよりオーソドックスでテキストをなぞるような漫才をベースに、「気だるさ」というキャラの一本でスクラップアンドビルドを同時進行していくような心地よさというか。
編集S ちょっと何言ってるかわからなくなってきましたけど。
新越谷 なんというか、ナイツのようでありながらブラマヨのようでもあるという、漫才を見る快感があったような気がします。結成2年でしょ、まだまだよくなると思う。
編集S 江頭は文学座出身だそうですね。
新越谷 平場も含め、やっぱ苦労してきただけの落ち着きはありますよね。大石は顔面も含めて東ブクロみたいな謎の落ち着きがあるし、年末の『M-1』もストレートでファイナルあるかもしれないと思います。Aブロックは実質、この2組の一騎打ちだったと思います。センチネルと天ピももちろん悪くなかったけど、コント同士、漫才同士の比較でまず置いて行かれた感じ。で、さっきも言ったけど尺が足りなかった金の国が去ると。順当だったと思いますね。
Bブロック
編集S BブロックはGパンパンダの一平が離婚して、金魚番長の古市が女にフラれて飛んで、なかなかの年でしたがとりあえず『ABC』ファイナルで元気になったみたいですね。
新越谷 よかったです。
編集S ネタですが。
新越谷 Gパンパンダはサイコロがいまいち機能しきれなかった感じがしましたね。星野がサイコロを導入した理由が「ピリピリしたくない」というのも伝わりづらいですし、「1」ばっかりの大きいサイコロを買った理由もよくわからない。仕掛けと動機の接続がうまくいかなかった印象です。
編集S マミィはどうでした?
新越谷 「部下への指導方法」という設定が被った不運もありましたが、林田の役が林田じゃなくてもよく見えちゃってるのが弱く見えた原因かな。あと酒井のほうも、ニンが乗っているようで実はあんまり乗ってないというか、全然かわいそうじゃないというか。パワハラを「やめられない」んじゃなく「やめない」にしてしまうと、どうしても「やめろや」が先に立ってしまう。新入社員に説明するのが林田で、その説明がうまくできなくて酒井がパワハラまがいの切れ方をする、それに林田が逆襲するというのではダメだったのかな。
編集S エバース。強かったですね。
新越谷 もうネタの内容云々はなんでもいいんじゃないかというところまで来てる感じがしましたね。この2人が何か言ってれば面白くなっちゃうという。型とか飛び道具が必要なくなって、人間だけで勝負できちゃってる。ハイエースに棺桶が入るから、棺桶にハイエースは入らないって、当たり前のこと言ってるだけなのに面白いんだもんね。
編集S 金魚番長はどうでした?
新越谷 ちょっと走ったというか、詰め込みすぎたかなぁという感じ。けっこうあちこちで伏線回収してるので、今何の話だっけ? という混乱が生まれていたような印象です。個人的には去年の吹奏楽部のほうが好きでしたね。
編集S エバース、順当ですかね。
新越谷 そう思います、このネタじゃなくても通ってたと思う。
Cブロック
編集S Cブロックです。
新越谷 ソマオとフースーヤが大いに荒らして、かが屋が整えるという。なんか今さらだけど、いろんなお笑いがあるなぁと思いましたね。
編集S ここはやっぱりかが屋ですか。
新越谷 もうほんとに、好みすぎるとしか言いようがないんですよね。どういうお笑いが好みかで大きく結果が変わる戦いだったように思います。かが屋、いちばん地味だったけど、最初とラストでいちばん大きく人の感情が変化してるのはかが屋なんですよね。実はめちゃくちゃダイナミックなことをやってるし、それを4分の物語としてきっちり丸め込んでる。好きだわぁ。好きでした。
編集S ハマノとヘンミもよかったですよね。
新越谷 初めて見たけど、いいですよね。ほかのネタも見てみたいと思いました。
ファイナルステージ
編集S で、ファイナルです。
新越谷 かが屋はやっぱ、2分近く賀屋が寝てるのがもったいないと感じちゃいましたね。やりたいことはよくわかるし面白かったけど、賞レースのファイナルを勝ち切るネタかというと、やっぱり押し出しの部分で弱かったと思います。
編集S エバースと家族チャーハン。
新越谷 これもまさにエバースの人間力の話で、家族チャーハンがいろいろ発想に頼らなければネタにならないところ、エバースは2人の圧のぶつかり合いだけで漫才になっちゃってるのがすごいと思いました。これ、年末はガチでエグいかもしれないですね。
編集S 前年優勝者の露払いネタ、今年はなかったですね。令和ロマンが見られると思ったんですが。
新越谷 M-1ツアーだったみたいですね。そういうもんなのかな、どうなのかな。
編集S それとエバースが一本目に車のネタで2本目に煙のネタだったのが、令和ロマンを意識してるとかいう声も。
新越谷 さすがにそんなことないだろうけど、そうだったらガチでエグいね。
(文=新越谷ノリヲ)