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『あんぱん』第69回 改めて浮き彫りになる主人公の「イージーモード」戦後を描く気もないみたい

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今田美桜(写真:サイゾー)

 まあ「戦争を描くぞ!」っていきり立ってたわりには大した話じゃなかったし、戦後の混乱期からエピソードを抽出するのは面倒だってことなんだろうけれども、せめて主人公が「必死に生きた」という印象を与える程度には何かハードルを用意してあげるべきだと思うんですよね。のぶさん(今田美桜)、家も仕事も立派なやつを自動的に与えられていて、「たまるかー」って言ってるだけだもんな。

『あんぱん』やなせたかしの創作意欲がズタズタに

 今日は夕刊の話がなくなって、時間を持て余しているんだそうですよ。つい先日までバタバタと猫の手も借りたいほど忙しかったはずの「遊軍記者」という仕事も、岩清水(倉悠貴)いわく「取材するところものうなってきましたね」とのこと。この人、高知周辺のあらゆる「生の声」とやらを聞き尽くしてきたということなのでしょうか。だとすれば、ものすごいハイパー記者ということになりますけどね、実際のところは自分で取材先を開拓する気がないということなんでしょうね。それだと遊軍記者なんていちばん向いてない仕事だから辞めたほうがいいと思うよ。だいたいさ、3カ月前に入社したそうですけど、あなた戦争中は何をされてた方なの? NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』は戦後を描く気があるの?

 このままだとクビになるとかならないとか、2人して戦後とは思えないツンツルテンのぷっくり真ん丸フェイスでクダを巻いていると、今度は月刊誌の仕事が自動的に降ってきました。

 ホント、次郎さん(中島歩)が死んでからというもの、のぶさんには楽しいことしかありませんね。速記を勉強したら楽しい、闇市で貧乏人の話を盗み聞きして楽しい、酔っ払いの口車に乗って新聞社を訪れたら入社試験に潜り込めて楽しい、入社したらすぐ一面に記事が載って楽しい、夕刊の創刊メンバーに抜擢されて楽しい、倉庫に秘密基地を作って楽しい、夕刊がなくなっても上司に「絶望の隣は希望よ!」なんて大見得切って楽しい、今度は雑誌を作ることになって楽しい。

 人生イージーモード、ハピネス&ハピネスな第69回、振り返りましょうね。

メイコ、のど自慢に出てみたい

 そんなこんなでノリノリののぶさんに一本の電話がかかってきました。聞けば妹のメイコ(原菜乃華)が家出をしたという。ラジオから流れていたのど自慢にズッキュン心を撃ち抜かれたメイコさんは「自分ものど自慢に出てみたい」という夢を抱いたようです。

 これを後押ししたのは、たまたまキャスティングされていた往年のアイドル・浅田美代子でした。自分は活動写真に出て見たかった、若いころ、京都に行って映画の世界に飛び込めばよかった、そんな後悔がメイコの背中を押したのだそうです。

 私たちが知っているメイコたちの祖母・くらばあ(浅田美代子)は活動写真どころかスチールカメラを向けられただけで「魂が抜かれる」などと震え上がっていたご老人ですから、女優を夢見た過去なんてあるわけないもんね。メイコにこっそり汽車賃を渡したのは、くらばあではなく突然現れた浅田美代子であると断言するほかありません。この汽車賃も、歌唱印税から捻出したものでしょう。なんで浅田美代子が劇中に現れたのかは、私は知りませんよ制作陣に聞いてくれ。

 ともあれメイコは釜じい(吉田鋼太郎)に怒鳴られて家出、上京する決意を固めるわけですが「歌手になりたい」じゃなくて「のど自慢に出てみたい」だと上京じゃないんだよな。旅行なんだよな。旅行くらいさせてやりなよ、釜じい。怒鳴る必要ないよ。美代子に金出してもらって同伴したらいいじゃない。あなた、ラジオが家に来た日に「世界を見てみたい」とか言ってたよね。いい機会じゃんね。

 そうして夢への第一歩を踏み出したメイコでしたが、高知で汽車を降りちゃってのぶの家にやってきました。追ってきたママ(江口のりこ)に美代子からもらった汽車賃を返して、高知で仕事を探すといいます。汽車賃が残っているということは、切符も買ってなかったのかメイコ。やる気あんのか。

「うちはいなん」「もう御免与にはいなん」

 悲壮な決意を語るメイコですが、御免与と高知は通勤圏内なんよ。それどころか、ギリ徒歩圏内なんよ。のぶは高知から御免与の小学校に通勤していたし、嵩(北村匠海)と健ちゃん(高橋文哉)はリアルタイムで御免与の柳井家から高知の闇市に通勤しているんよ。御免与に住みながら高知で仕事を探すことも余裕でできるんよ。だから顔面だけ悲壮でも、全然状況が悲壮じゃないんよ。

 今日1日分をまるまる使って描いた「メイコ、のど自慢に出てみたい」というお話、最初から最後まで何ひとつ成立してないんです。メイコを御免与の家から出して高知に置くという、単なる配置換えが行われたに過ぎないんです。

それでものぶよりマシなんだよな

 突然「歌が好き」という設定を放り込まれて、突然浅田美代子の生霊が現れて、感動どころか何をどう納得すればいいのかすらわからない「メイコの夢」ですが、それでも我らがのぶちゃんよりマシに見えちゃったんだよな。

 少なくともメイコは、ラジオから流れた歌に雷に打たれたような感動を覚えて、その夢を目指している。自分も魂の震える体験をしたいと思っている。その衝動に突き動かされている。

 その一点において、のぶの「先生になりたい」や「記者になりたい」より、よほど健全なんです。のぶが教師を志したとき、そのきっかけとなるような魂の震える体験は何もありませんでした。ただラジオ体操をしていただけでした。記者については、何か記事を読んで感動したとか意義を感じたということがないどころか、「記者になりたい」とすら思っていませんでした。

 それに比べれば、メイコのやってることはどうしようもなく幼稚だけれども、ちゃんと人間の心がそこにあるんです。基本、それだけあればいいんだよドラマなんて。それが主人公の中にないから不満だと言ってるんだよ。

 メイコに夢を語らせたことで、対照的にのぶという主人公の空っぽっぷりが改めて露見してしまった、そんな回でしたね。無残なもんです。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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最終更新:2025/07/03 14:00