CYZO ONLINE > 芸能の記事一覧 > 【吉田潮&木俣冬】2025上半期ドラマを総括(前編)

【吉田潮&木俣冬】2025上半期ドラマを総括(前編)、むき出しの大胆欲望に目が釘付け! ベテラン女優のキスも…

【吉田潮&木俣冬】2025上半期ドラマを総括(前編)、むき出しの大胆欲望に目が釘付け! ベテラン女優のキスも…の画像1
安達祐実(写真:Getty Images)

 フジテレビ問題が収まらないなか、新年度を迎えた2025年の4月期ドラマの総評。今期面白かった・心に残ったドラマを吉田潮氏と木俣冬氏、2人のドラマ評論家にそれぞれ5本選出してもらった。(前後編の前編)

『夫よ、死んでくれないか』、安達祐実のSNS荒れるも…

変化球で目が釘付け!夫婦、親子愛にまつわるドロドロ

【安達祐実が高笑いする『夫よ、死んでくれないか』(テレビ東京系)】

 安達祐実、磯山さやか、相武紗季がトリプル主演を務めた『夫よ、死んでくれないか』(テレビ東京系)。30代後半、結婚生活で理想と現実を知り尽くした大学時代の同級生同士3人が、それぞれ手段を選ばず夫に復讐し、幸せを取り戻して人生のリスタートを目指す姿を描くマリッジサスペンス。

 安達は、夫と互いを理解しようとせずにすれ違う日々。相武は、夫の束縛と監視。磯山は、夫のモラハラと口臭にうんざり……。

吉田潮(以下、吉田) 4月期のナンバーワン。ただ夫がウザい、死ねばいい、というだけではなく、いちばん変化球を放ったドラマだったと思います。3人の“過去の罪(人を殺した)”をチラ見せしつつ、どうしたら離れた心を取り戻せるか、という前向きな命題とか、夫の蛮行で気づく女の自立の必要性とか、いろいろな方向から『夫婦』を調理していて、飽きさせないつくりになっていました。

 ここ数年、テレ東は『夫を社会的に抹殺する5つの方法』、『週末旅の極意~夫婦ってそんな簡単じゃないもの~』『夫婦円満レシピ』、『夫の家庭を壊すまで』など、夫婦がテーマのドラマに力を入れていますが、その中でも、本作はシニカルでコミカル、先が読めない展開と、役者陣の適材適所が秀逸でした。安達祐実、好きなんですよね……。

 ちなみにXで6月29日、

〈ちょうどこの前『夫よ、死んでくれないか』を観てて、安達祐実を殺そうとした夫が崖から落ちてクマに食われて後日葬式で安達祐実が泣きながら爆笑して女友達と熊鍋を食って終わったのを見て、日本のドラマも捨てたもんじゃねえな!!と思ってたところだったんです〉

と投稿されたポストは、なんと1000万ビュー超え。安達祐実人気の高さをうかがわせる。

【北川景子劇場『あなたを奪ったその日から』(関西テレビ制作・フジテレビ系列)】

 識者の間で絶賛が相次いだのがこのドラマ。惣菜店による食品事故で子どもを失った母親・中越紘海(北川景子)が、店の社長(大森南朋)の3歳の娘を誘拐し復讐を果たそうとする。しかしその誘拐には大きな誤算が……。事故の真相を追いながらも自分の犯した罪に苦しみ、葛藤しながらも生きていくというサスペンスフルな親子愛の物語。

木俣冬(以下、木俣) 北川景子劇場。子どもを食品アレルギーで亡くした母親が原因をつくった会社の社長に復讐するためにその娘を誘拐するというとんでも話。北川景子が鬼子母神的な愛と憎しみを体現して、見応えがありました。最終的には大団円で終わりましたが、それでも子どもを失った哀しみは癒せるものではないところを描く、足腰のしっかりしたヒューマンドラマだったと思います。

吉田 事件後、惣菜店の社長はスーパーを手広く経営する大企業で出世街道をばく進し、一方の北川は誘拐した娘とつつましく暮らして十数年が経つ。食品事故の真相は、社長の長女(平祐奈)を守るためだった、というのはなんとなくわかってはいましたが、被害者と加害者の入れ替わりがあるわけで……憎悪が罪悪感へ、という難しい役を北川景子が鬼気迫る表情で熱演しました。

 誘拐モノのドラマや映画は過去にも『mother』『八日目の蝉』という名作があり、視聴者は誘拐する側にある種の共感をしながら見るのが前提でしたが、“あなうば”に関しては、完全に復讐から始まりつつ、自分の罪の意識を募らせていくってところが変化球だったかなと。前半の北川景子は恨みと怒りの塊で、後半は罪の意識とより一層強い悲しみ、最後は愛情深い母となって、いろいろと北川景子が成長した感を味わえるドラマでした。

満たされない欲望と狂気

【松下由樹の狂気『ディアマイベイビー〜私があなたを支配するまで〜』(テレビ東京系)】

 芸能事務所のベテランマネージャー・吉川恵子(松下由樹)が新人俳優・森山拓人(野村康太)に異常なまでの愛を注ぎ、その執着は狂気へと変貌して……。歪(いびつ)な関係が紡ぐ狂愛サスペンス。松下が“練習”と称し、野村と20秒を超える濃厚キスシーンを見せつけたのも話題となった。

木俣 女性の俳優が狂気めいた演技に挑戦し、一皮むける瞬間があります。その“こわおもしろさ”を狙ったドラマがたびたび制作されるのは、需要があるからでしょう。この手のネタドラマは着々と進化していて、今回は松下由樹が参戦しました。若手俳優を溺愛するマネージャーの行為がどんどんエスカレートし、俳優の毒母役は山口紗弥加。やばい女を演じることに定評がある山口と松下のやばい女対決がゴジラ対モスラ的で、最終回のホラー味は渾身でした。

【日韓共同制作、むき出しの大胆愛欲『魔物』(テレビ朝日系)】

『梨泰院クラス』のSLLとテレビ朝日による、日韓共同制作のオリジナル作品。不倫、DV、セックス、殺人など愛と欲望にまつわる過激なテーマと、満たされない人間たちの歪んだ人間模様をセンセーショナルに描く禁断のラブサスペンス。

木俣 毎回、韓国料理を食べるシーンが出てきて、サブタイトルがその料理名というコンセプチュアルな企画。あまりにもキャラが極端で、主人公の恋人のメンタルがやばすぎ、DVもひどすぎ。

 かつて流行った『ずっとあなたが好きだった』(TBS系)みたいなものを目指したのでしょう。寒そうな名前のメインキャスト・凍也(いてや、塩野瑛久)は冬彦さんのオマージュなのです(たぶん)。冬彦さん役だった佐野史郎は、今回自縛プレイ中の窒息事故死。そんな変態プレーで死んだ夫をもつ妻(神野三鈴)と、ヒロイン(麻生久美子)と、さらに凍也の妻(北 香那)が参鶏湯を食べながら牽制しつつ延々しゃべっている場面は愉快でした。この場面のように、このドラマは喜劇なのだということをもっとわかりやすく提示したほうが良かったと思います。

 変化球で新たな愛憎劇を見せてくれた4月期ドラマの数々。後編は、その一方で淡々とした日常や、さまざまな生き方を描いた珠玉のドラマを総括する。

「愛した男は殺人鬼?」系が乱立

(取材・文=サイゾーオンライン編集部)

サイゾーオンライン編集部 

芸能・政治・社会・カルチャーなど、さまざまな情報を独自の切り口で発信するニュースサイト。

X:@cyzo

サイゾーオンライン編集部 
最終更新:2025/07/07 12:00