『あんぱん』第78回 5分以上の不可解な茶番、もう今田美桜のことも嫌いになっちゃうよ

月刊くじらを読みました、と薪鉄子(戸田恵子)から電話がかかってくる。その雑誌には取材をしたはずの鉄子の記事が載っていないから、鉄子が怒っているのではないかとみんなで心配する。
このくだりを延々と見せられるわけですが、それにしても長っげーよ、まず岩清水(倉悠貴)と東海林(ツダケン)の電話受けの芝居がヒドすぎるし(これは役者ではなく脚本と演出の問題)、前提からしてしんどいんですよね。
鉄子は東京にいて、その手元に「くじら」がある。まさか高知県民による高知県民のための雑誌である「くじら」が東京の書店に並んでいるわけはないだろうから、おそらくは編集部から献本したものか、鉄子の周辺が高知で入手して送ったか届けたかしたものでしょう。献本なら編集長が鉄子の記事をカットした経緯を手紙に書いて添えるなりするだろうし、まあ誰かが高知で買って届けたと考えたほうが自然かな。いずれにしろ、「高知の雑誌を東京で読んでる」という描写ひとつに、視聴者が普通に抱くであろう違和感に対するエクスキューズがないのが、まずしんどい。
そして今回の東京特集は4ページで、4人の代議士を取材する予定だったはずです。ほかの3人の取材は楽勝に終えたというセリフもありました。今号の「くじら」には3人の高知出身の代議士の記事が載っていて、鉄子だけがカットされて八木ちゃん(妻夫木聡)のドキュメンタリーが代わりに載っているということになる。4人ともカットしてブチ抜きで八木特集にしたのなら、ほかの代議士だって怒ってるかもしれないと考えたほうが自然だし、ほかの3人が掲載されているなら紙面構成がまるで想像できない。特集の見出しは何? この人たちは何を作ったの?
そこに会社の誰かと琴子(鳴海唯)がやってきて、さらに混乱に拍車をかけます。
「おいー、薪先生を怒らせたって本当なのか?」
今かかってきたばかりの電話の内容を、なぜか会社の誰かは把握している。しかも、薪は最初から怒っておらず、のぶをスカウトしたいだけなのに「怒らせたって本当なのか?」とは? それ、誰情報?
「薪先生のご実家は、高知でも名高い旧家や。政界とのつながりも深い。雑誌らあて、先生の一言でつぶれるぞ」
代議士の話をしているときに「政界とのつながりも深い」も何もないし、ここでこいつにこれを説明させるということは、編集部は取材に先駆けて薪鉄子のプロフィールすら調べていないことになってしまう。
そして何より、鉄子がのぶ(今田美桜)をスカウトしたいという意図がまるでわからないし、そもそものぶが鉄子の記事を落として八木ちゃんを入れ込んだ意図もわからんのよね。
記事について、鉄子は「麻雀のことは書くな」「自分のことより困っている女性たちのことを書け」と言っていたわけで、別に自分のことを何も書くなとは言っていない。それをのぶが「鉄子の記事を載せることは本人の本意ではない」と曲解して八木の記事に差し替えているわけですが、普通に考えて「鉄子は女性支援に力を入れている、本人は自分の功績よりもご婦人たちの苦悩を伝えてほしいと殊勝に語った」という記事を書くほうが鉄子ののぶに対する評価は上がるはずだし、「自分の記事を落とした、だからこの子と一緒に働きたい」という心の動きに何ひとつ納得感がない。
そういう違和感だらけの茶番を、このクソ忙しい朝っぱらから5分以上見せられる。これは苦痛ですよ、苦痛。今日のNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』は苦痛です。
第78回、振り返りましょう。
のぶですねえ、のぶじゃないですねえ
昨日はメイコ(原菜乃華)が「くじら」の表紙を見て「お姉ちゃんや! お姉ちゃんや!」と狂ったように連呼していましたし、今日も今日とてくらばあ(浅田美代子)とママ(江口のりこ)が「どう見てものぶですねえ」とか言ってますが、どう見てものぶじゃないですねえ。嵩がのぶをモデルに表紙を描く時点でキモいのに、その似ても似つかぬ似顔絵を必死で「似ている」という既成事実に変えようとするくだりが本当にキモいんですよ。
表紙ものぶ、マンガものぶ、入ったばかりの編集部で、仕事として描いている絵にのぶばっかり登場させる嵩(北村匠海)を「素敵な恋をしているな」なんてまったく思えないし、仮にこれを「素敵な恋」として表現しようとしているなら、嵩という人の仕事に対するスタンスのヤバさ、私情まみれ、私物化という破廉恥な印象しか残らないんです。学生時代、ずっと手紙を書けなくて悶々としていた時期の鬱憤が、爆発している。のぶ本人だけが気づかないラインで、好き好きアピールをしているということです。キモすぎるやろ。くらばあもこれで「胸がキューン」となってるなら狭心症か何かの疑いがあるから、釜じい(吉田鋼太郎)と一緒に病院に行ってください。
あれ、御免与に医者っていたんだっけ。寛(竹野内豊)は死んだし、千尋(中沢元紀)も一度は医者を志したもののヤム(阿部サダヲ)にそそのかされて法学に進んで結果死んだし、御免与の医療インフラはどうなってんだ?
「一度は拒否する」という記号
鉄子の理由なきスカウトにすぐ乗っかるのはさすがに印象が悪いと思ったのか、ドラマはのぶに東京行きを拒否させるわけですが、この段取りもあざとさしかないんですよね。
仕事的にも、「東京に行きたい」という夢的にも、のぶの本心は東京に傾いていることがほのめかされますが、この2つの根拠ともが薄すぎるんです。
今回の東京取材で本当にのぶという人が心を打たれたのなら、東京で行動を共にすべきは鉄子ではなく八木ちゃんですよね。子どもが好きで、子どもの飢餓対策が最優先されるべきだと感じたのなら「八木の活動を広めたい」「八木の力になりたい」と考えるほうが自然で、鉄子に雇われて何をするかなんてイメージできるわけないんです。
それを、「のぶは鉄子の誘いの意図を完全に理解しており、高知新聞と鉄子の職場を天秤にかけている」という状態として描写している。実際にこの子が何をどこまで理解して、何を迷っているのかがまるで伝わってこないので、アップショットがくるたびに「うるせえ顔だな、何考えてんだよ」という不快感が勝ってしまう。「東京行き」の夢はいわずもがな、それがのぶの夢だったなんて信じている視聴者は熱心なファンの中にもいないでしょう。
そして「東京行き」へのフリクションのために蘭子(河合優実)は郵便局をクビになり、釜じいは倒れる。人の不幸をあからさまな作劇の都合で振りかざすのも、いかにも下品です。
そのほか、今現在「のど自慢への出演」という夢に向かって絶賛全力疾走中であるはずのメイコが「戦争がなかったら」「青春がどうこう」とか言ってるのも意味がわからんし、もう誰が何を考えているのか全然わからん。特にのぶがわからん。この人、ずっとわからん。「意志が強いハチキン」という匂いだけさせて、実際の行動は全部受け身、全部偶然に頼り切ってて、全然魅力的じゃない。もう言っちゃうけど、今田美桜のことも嫌いになり始めてるからな。『花咲舞』のときとか、この人のこと大好きだったんだからな。あーあ。今からでも池井戸に頼めないもんですかね。
(文=どらまっ子AKIちゃん)