『あんぱん』第102回 河合優実キャラ崩壊、妻夫木聡は伏線回収失敗、今田美桜はアンラッキー

嵩(北村匠海)という人は、「えっ! メイコが健ちゃんに!?」とか「えっ! 蘭子が八木さんに!?」とか、そういうときだけ声がデカくなるんですね。うるせえですね。
この、嵩が恋愛に疎いという設定もノイズなんだよなぁ。実際のやなせ氏がそうだったのかもしれないけど、劇中の嵩という人はカッちゃん中尉が町に現れたときにはすでに嫉妬で脚をバタバタさせるくらい恋愛体質だったわけで、東京の下宿では恋愛に頭を悩ませすぎて何にも描けなくなってたし、いざ描くとなったら赤いハンドバッグを持ったのぶ(今田美桜)を銀座に立たせて悦に入ったり、実際にそのハンドバッグを買って持ってたりと、かなり恋愛に支配された人生を送ってきてるんです。のぶのことが好きな理由は結局今でも全然わからんけど、マンガより恋愛に情熱を傾けてきたという描かれ方をしている。
そういう人を、今さら「鈍感系です」みたいにキャラ付けしてコントに仕立ててみても唐突なだけだし、何しろ普段の話し声が小さいから、急に大きな声を出されるとうるさいんだよ。まあ結局これも幼なじみ設定にしてしまった弊害よなぁ。なんか「あーここは幼なじみにしたことが効いていい感じだね」と思うことが一度もないな、NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』。
第102回、振り返りましょう。
職安?
失業すると登美子(松嶋菜々子)の家にやってくるのぶさん、今回も失業給付金がわりのお茶をいただいておりますが、登美子は今回も「女が外で働くのは並大抵のことではない」などと言っております。
私の記憶が確かならば、のぶさんという人は外で働き続けている人です。女学校からストレートで教職をゲットすると、気が変わったので退職。暇つぶしに闇市なんかフラついてたらすぐさま高知新報にスカウトされ、その高知新報に国会議員から電話がかかってきて急に秘書に。そしてしばらくしたら、今度は商事会社に天下り。今、40歳とかですかね。もう20年くらい、いとも容易く職を得て仕事をしてきた人なんですよ。登美子の言葉を借りれば、柳井のぶこそ「並大抵ではない女」なんです。
もうなんか、放棄しちゃってる感じがするんだよな。登美子がのぶのキャリアをどれくらい把握していて、それを自分の人生や世間の常識と照らし合わせて、何を感じて、何をしゃべるのか。そういう登美子の口からしか出てこないセリフを考えることを、作り手側が放棄しちゃってる。「女は大変」だけ言っとけば視聴者は納得すると思ってる。昨日も同じようなこと言ったけど、「女は大変」だけ言っといて済むならドラマ要らないんすよ。
そしてこの後、登美子が嵩の活躍ぶりお茶教室の生徒さんたちに自慢するシーンがあるわけですけど、今度は状況がまずおかしい。普通に考えて、師匠の息子の嫁が訪ねてきて2人で話している部屋に平気で弟子を通すようなことはないでしょう。弟子たちも特に遠慮するでもなく、ズカズカ入ってくる。怖いよ、強盗の押し入り方だよ。
もうなんか、放棄しちゃってる感じがするんですよ。のぶの目の前で生徒に嵩のことを自慢する登美子。そのシーンを撮るための段取りを作ることを放棄して、ト書きに書いてあるシチュエーションが作れればそれでいいと思ってる。
こんなの、スタッフが「先生、そろそろ教室のお時間です」と部屋を覗き込んで、のぶが「では失礼します」と言って、登美子が弟子に「あら、ちょうどよかったわ。紹介するわね、こないだ話した嵩の奥さん」とのぶを紹介して、弟子たちが「おお、それはそれは」つって座って話を始めれば、それでいいじゃん。こういう非常識がまかり通る脚本的な気遣いのなさがいちいちカンに触るから、セリフが入ってこないんですよ。
また急にヒマになった
高知新報でも昨日まで猫の手も借りたいくらい忙しかったはずの現場が急にヒマになったことがありましたが、今回も嵩はヒマそうです。ギチギチのスケジュールで〆切と打ち合わせに追われていたはずが、今日はのんびりちゃぶ台に座って詩をたしなんでみたり、八木ちゃん(妻夫木聡)に贈るイラストを描いてみたり。どっちが「今の嵩」かわからないから、これもセリフが入ってこない。
いまだに長屋に住んでるのも謎だし、嵩の画風がコロコロ変わるのも謎すぎる。この画風の件、なんでこんなことになってるんですかね。撮影の都合で複数のイラストレーターをかき集めて描かせたとしか思えないんだけど、曲がりなりにも「やなせたかし」という人をモデルにしたドラマの「絵」だよ。実際のやなせ氏の絵を見てきて、その人物に興味を持った人が見てるドラマだよ。もうちょっとちゃんとやってほしい。
のぶも暇そうですけど、この家には全自動洗濯乾燥機とかルンバとかあるんですかね。食事はUberEatsかな。鉛筆削りも自動のウィーンってやるやつ買ったらいいんじゃないのかな。
蘭子、陥落
悪い意味で、蘭子(河合優実)も陥落してしまいましたねえ。河合優実のお芝居もあってギリ好印象だったけど、急に商業主義に染まって、どらまっ子AKIちゃんみたいな原稿を書き散らかしてると思うと、残念な限りです。これにだって、雑誌の仕事をしているうちに映画批評の世界のズルさや汚さに触れて、それでもいつか納得できるものを書きたくて仕事を続けているというプロセスがあれば悲しい場面ですけど、ただ急に「世間はそういうの喜ぶんです」だもんな。「さぁ嫌え」と言われた気分ですよ。
「八木さんはどうなんですか? いつもニヒルなことおっしゃって、誰にも心を開かない家族も持たない、そんな方に愛とか言われたくありません」
ここも言ってることが変すぎるんです。この蘭子というライターは今、ビーサンの広告コピーを考えてるんですよね。そのビーサンは八木ちゃんが子どもたちに差し入れていて好評だったものを商品化したという話でした。
あなたが今、仕事で向き合ってるビーサンこそが八木ちゃんの愛そのものじゃん。それを言語化して大衆に伝える文章について、何度もダメ出しされて四苦八苦しているという話じゃん。
雑誌記事にしろマンガにしろビーサンにしろ、このドラマは人の仕事と人の心を切り離して考えてるように見える場面が次々に登場するんですよね。その成果物と作った人の感情が関係ないと主張しているように見える。こんなの、ミホちんたちが本気でそう考えてるわけじゃなくて結果的にそうなっちゃってるだけなんだろうけど、こうも繰り返されると『あんぱん』というドラマにも作り手の心がこもってないんだろうなと思うしかないですよ。
八木、伏線回収ならず
初登場時から謎キャラだった八木ちゃん、今日はその伏線回収の回でもありました。軍隊でも出世を望まず、風変わりなキャラを通していたし、ガード下では「大切なものを失って気付くバカもいる」みたいな含みのあることも言ってました。
今日明かされたのは、八木ちゃんには家族がいて、絶対生きて戦争から帰ってくると約束したけど、帰ってきたら空襲で亡くなっていたということでした。ニュアンスとしては、八木ちゃんの人生を2つに分けるとしたら、妻子の死が分水嶺だった、妻子を亡くしたことで俺は変わってしまったんだ、そういうことを言おうとしている雰囲気だけはプンプンに漂っています。
でも、それだと軍隊で変なスカシキャラやってた理由にはならないし、「絶対生きて帰る」と約束してるわけだから「失って気付くバカ」でもないじゃんね。あそこまで突飛なキャラ設定にしちゃったら全部キレイに回収するのは無理かもしれないけど、伏線つーのは10仕込んだら6か7くらいは回収してほしいわけですよ。こんなの2だよ、2。
で、この八木ちゃんと蘭子のシーンの直後に、のぶが「こんなに家におるの初めてやき、何したらええかわからん」と言い出す例のヒマシーンになるわけですが、こいついつまでわざとらしい方言しゃべってんだよ、ヘタクソかよと思っちゃったんですよね。これまであんま思ったことなかったんで、たぶん直前の妻夫木と河合優実の芝居がよかったんだろうなと思いました。今田美桜にとってはアンラッキーだったね。
(文=どらまっ子AKIちゃん)